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疑惑のお婆さん

最後の休憩スポット。

と言っても地元の者が作ったであろう簡易的な机に岩の椅子。

そこには先客が!


「おや珍しい。お前さんたち観光客かい? ここのもんじゃないだろ? 」

すぐに見抜く洞察力。これはただ者ではないな。

お婆さんだと思って気を許したら痛い目に遭うぞ。

ただ敵とも限らないからな。いやそもそも敵など俺の妄想でしかないが。

俺が怯えて疑心暗鬼になっているだけなのか?

それとも奴らが気づかれないよう忍び寄るのを敏感に感じ取ってるからなのか?

これではまだどっちとも言えない。

俺の妄想であって欲しいと願うばかり。


取り敢えず挨拶だ。山を登る者のマナー。挨拶は基本中の基本。

「おはようございますお婆さん」

俺が挨拶すると皆が続く。

「ああ。おはようって? 今はもう昼だろう? ははは…… 」

洞察力は鋭いが朗らかで優しそうなお婆さん。


こちらの正体を明かしてでも情報を得たい。

地元の者とコミュニケーションをはかるのはとても大切なこと。

それからゆっくり仲良くなっていき信頼関係を築けばすべて打ち明けたっていい。

だがそこまでは警戒心はなくしてはならない。


「おばあちゃんも休憩? どこまで行くの? 」

アイがにこやかに話し掛ける。

いつもこれくらい素直で明るいと助かるんだが。

昨夜のことがなければアイを信じられない。

いや昨夜の出来事こそが夢だったのではないかとさえ。

「そりゃあ東常冬町に決まっておろう! ワシの故郷じゃけんの」

そう言って遠くを見る。

「ほれあそこが故郷の東常冬町じゃ。お前さん方は? 」

元気過ぎるお婆さんは一人で登ってきたらしい。

さすがは田舎育ち。レベルが違う。

「はい。我々も東常冬町に用があるんです」

「だったら仲間か。よしそろそろ行こうかね」

そう言って立ち上がろうとする。


「イタタタ…… 」

「どうしました? 」

「急に腰が。腰が! 済まぬがこれを持ってくれんかの。もう少しなんじゃ」

どうも腰の痛くなるタイミングが絶妙。まさかとは思うが……

「ああこれですか? 」

重そうな荷物。それだけじゃない。きっと大切な品なのだろうな。

風呂敷二つ。一体中には何が? 行商にでも行った帰りなのか? 

ただそれでは小さすぎる気もするが。とにかく大事なものだと言うのは分かった。


「おいイセタン! 」

「ダメです。下りは苦手なんです」

訳の分からない理由で断る。

「ではカズトは? 」

「済みません。汗が止まらないんです。これは危険な兆候だ」

そう言って動こうとしない。

俺だってもう汗まみれだってのに困った奴らだな。

お婆さんもお婆さんだがこいつらも本当かよ。

まあ俺は信用してるよ。嘘だって。演技だって。


「ではミホ先生…… 」

「まさかそんな…… 青井先生まさか私に持てと? 」

確かに本気ではないしただ聞いてみただけ。断って構わない。

だからお願いだからそんな目で見ないで。

しかしお婆さんが持っていたもの。持てないものかな?

「後ろの荷物は俺が持ちますのでどうぞ安心してください」

可哀想だが副顧問だからこれも仕方ないこと。

「青井先生…… 」

まずいまずい。もう少しでミホ先生からの信頼を失うところだった。

結局俺が持つ羽目に。これなら初めから自分で持てばよかった。


「おい誰か俺のバック…… 持たないよね」

仕方なくバックパックを背負いつつ風呂敷二個も。

両手が塞がり大変危険な状態。滑ったら一巻の終わり。

誰かが支えないと特に下りは危なくて仕方がない。

「先生大丈夫? 」

パピコが優しく寄り添い後ろから支える。

まあいつもそうだったよな。俺の言うことをよく聞いてくれた。

俺が命じれば何でも。頼めば断らないだろう。


一番体力があって経験もある俺が持つのがベスト。

だから別にいいけどさあ。何か嵌められた気がするんだよな。

あのお婆さん本当は腰は痛くないのでは?

お喋りしながら普通に歩いてるけど。

ノロノロ行くイセタンを叱りつけてさえいる。

これは確信犯だな。おっと何の証拠もない。疑うのは良くないか。

ただこれで一層情報交換するのは躊躇われる。


やはり両方持つのは危ないのでイセタンとカズトに交替で持ってもらうことに。

「もういいんじゃない? 先生は身軽になったよ」

アイがパピコに詰め寄る。

「でも…… 」

何だかタピオカ部の二人がギスギスし始めたな。


お婆さんを含めた八名が東常冬町を目指し歩き出す。


               続く

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