酒は体に毒
異世界探索隊は現在常冬山。東常冬町に向かって登山開始したところ。
「そうだ先生。アークニン博士からもらったお酒で景気づけしましょうよ」
カズトがそれが良いと騒ぎ出す。
まったく自分勝手な奴だな。ただ飲みたいだけだろ?
「これはダメだ! 異世界を発見した暁に皆で飲むんだから。
いいかお前ら絶対に手を出すなよ! 」
生徒は信頼してるがだからと言って警戒しないのもどうか。
どうせバックパックの一番奥にあるからそう簡単には取り出せない。
カズトには悪いがこれはやはり最後が相応しい。
「ほんのちょこっとだけでも…… 」
何とミコが参戦。あの時一番興味を示していたのはミコだったな。
「そうっすよ。酒飲みましょうよ」
カズトが迫る。
有無を言わせない迫力。彼はいつからこんな風になったんだ?
まるで何かに憑りつかれたかのよう。
大人しいカズトの常軌を逸した狂気ぶりが垣間見られる。
一体どうしてしまったのだろう?
これは反乱の兆候か?
酒の存在が隊の規律を乱していると見て間違いない。
お酒の魔力とはそれはそれは凄いものだ。
「いいかお前ら! 酒もたばこも交渉に使うのであって溺れてどうする?
それに祝い酒はギリギリ許されても飲酒は禁じられている。
そこのところをよく考えろ。
酒を飲むなど三年早いわ! 実際は美味くも何ともない。そうですよねミホ先生」
俺一人の力ではとてもとても抑えきれない。ここはミホ先生に頼ろう。
「私は濁り酒が好きです。あれが溜まらないんですよね」
ダメだミホ先生は自分の世界に入ってしまった。
おーい戻ってこーい!
「ダメだと言ってるだろカズト! ミホ先生もお願いですから釣られないで。
お酒は美味しくないぞ。あれは皆暗示にかかってるだけだ。
まずビールだって皆に合わせてるだけ…… あれ…… 俺は何を言ってるんだ?」
「さあ美味しいお酒の見分け方でしょうか? 」
ダメだ。もうこの程度のことで己を見失うなんて。
「いいかお前ら良く聞け! 酒はまずい! そして酒は毒だ! 」
少々大げさに言ってみた。これくらい言わなければダメだ。
しかしちっとも納得してくれない。
登山しながらお酒談議に花を咲かせている。
何だかとてもおかしな展開。どうしてこうなってしまった?
「ほら皆復唱しろ! 酒はまずい! 」
「はい! 酒はまずい! 」
「酒は毒だ! 毒だ! 」
「酒は毒だ! 毒だ! 」
繰り返させること十回ようやく元の可愛らしい生徒に戻った。
「よし。では皆進むがいい! 」
「はい! 」
「カズトには少し話がある」
彼の為にも分かるまで説き伏せる。
「まったくお前と来たら内と外では百八十度違うじゃないか!
部長君を見習え! イセタンを見習え! 」
「へへへ…… 良く言われます」
自覚があるらしい。
「いや元気が良いのは構わない。だが豹変はしないでくれ」
部長君とはタピオカ部の部長と分ける為だがもうあだ名も付け役割を果たした。
本人に言う分には嫌がっていてもいい。
だが他の者には分かりやすくするのも大切。
人を間違えたり勘違いしたりするといざと言う時に危険だ。
我ら異世界探索隊は決して隙を見せてはいけないのだ。
カズトは分かったと言いつつ舌打ちをする。
これは反省してない? 困ったな……
歩き出したカズト。イセタンは先頭を結構な勢いで飛ばしている。
説教が多少効いたかな?
元々は真面目で念願が叶って少しハイになってる。
そして今元の部長に戻りつつある。
さすがは異世界探索部の部長。
体力も筋肉もつけてきたしやる気も充分。
リーダーシップを発揮して先頭で引っ張り続けると助かる。
ただそれ故に欠点も。
ドンドン先に行ってしまって皆に合わせることが出来ない。
後ろを振り向かないから差は広がるばかり。
「先頭! もう少しゆっくり頼む。
慣れない者もいるから注意してやってくれ。
こんな知らない山の中で逸れれば命の危険も」
これは嘘でも冗談でもない。隊がバラバラになればそれだけで危険。
だからこそコミュニケーションと助け合いが大切なのだ。
お酒で皆が狂いだしたようにいつ何が起きるか分からない。
酒の件は厳しく注意したからどうにかなったがもう二度と繰り返してはいけない。
続く