山登りで不満爆発!
二日目・午前九時過ぎ。
途中で命の水を手に入れ浮かれ気味の異世界探索隊。
目の前に山が見えて来た。
昨日同様、生徒たちにはなるべく予定を教えないようにしている。
それはより楽しんでもらう為だが実際には俺にもよく分かってないからだ。
「先生! 」
「今度は何だ? 」
また質問か…… 出来れば疑問に思っても口に出さずについてきて欲しいな。
こっちだって考えがあるんだからさ。
「まさかこの山を登りませんよね? 」
うわイセタンがまた余計なことを…… ここはどうにか誤魔化さないと。
「イエス」
「ああ良かった。では…… 」
「ちょっと青井先生! 嘘はよくありませんよ。
東常冬町には山を登る必要があるでしょう? 」
副顧問であるミホ先生はある程度の行程を知っている。
地図だって見せたのだから覚えていて何ら不思議はない。
「だからイエスと言ったろ? イエスはここでは登るだぞ」
「もう先生。英語は良いですから! 」
イセタンが不機嫌。
「おいどうした? お前の夢が叶ってるんだぞ? 」
イセタンこそが引っ張るべきなのになぜか消極的と言うか否定的。
「だってもっと楽かと…… 」
現実と幻想のギャップって奴だな。
「俺もすぐに手掛かりが見つかってワープできると」
男二人は正直な感想を述べる。
「おいおい冗談だろ? そんな簡単なら四日もいらないって」
「そうですけど先生…… せめて自転車」
イセタンがワガママを言う。
「だったら俺はトロッコが良いな」
呑気な二人だ。これが少し前まで異世界に情熱を燃やしてた者とは到底思えない。
これならまだミホ先生の方が情熱的だ。
「トロッコか…… だったらお前にはトロッコ問題を突きつけてやろう」
「いやそうじゃなくて…… 」
カズトは否定するが旅を続けていればいつかそんな瞬間が来る。
どちらかを選ばざるを得ない究極のトロッコ問題が。
「まったく…… お前らが良いと言うなら探索はここまでにするがどうする? 」
二日目の朝で終了など情けない限り。
それでも生徒の想いに応えある程度の旅と冒険が出来たんだ。
これはこれで合宿と言えなくもない。
ただ…… もう監視対象だから簡単には帰してくれないだろうがな。
ここまで来て引き返すのはあり得ない。
「先生。何も嫌だとは…… 」
「そうだよ。ただもう少し効率的に動こうと提案しただけです」
言い訳をする二人。
「まあいいやどっちでも。多数決を採る。もう充分だと思う奴? 」
おかしなことに誰も手を挙げない。
「だから無理するなって。ミホ先生は? 」
「はい燃えております! 」
「では続行する者? 」
全員が手を挙げる。
こうしてイセタンを先頭にカズト、ミホ先生、アイ、タピコ、ミコと続く。
俺は一番後ろで様子を見ながらゆっくり。
「先生まだ登るの? 」
アイが疲れたと駄々をこねる。
「山が何だ! 山の一つや二つ登れないでどうする!
俺たちは異世界探索隊だ。不屈の闘志で歩きぬけ! 」
根性論が通じないのは知ってる。でもそうでもしないと登ってくれない。
「足が痛くなってきたよ! 」
カズトが喚く。
「気のせいだろ? そんなもんだって」
「足が重くなってきました」
ミホ先生まで。困ったな。
「年のせいでしょう? 」
「足が痒くなってきた! 」
イセタンまで。もう泣き言は充分だ。
「掻けばいいだろ? 遠慮なく皮が剥けるまで掻け! 」
「うわ最低! 」
「うるさいぞ。そこ! 」
東常冬町は山を一つ越えなければならない。
標高が高い方ではないが山を登って下るとなると休憩を挟んで五時間近くかかる。
午前十一時前ようやく山のふもとへ。
「先生疲れた! 」
文句言いやがって。こっちもワガママの対応で疲れたわ。
「まだふもとだろう? 登ってないぞ! 」
確かに上りだったかもしれない。でもまだだ。
今までは移動でしかない。それで疲れてたら登山など出来ない。
「喉が渇きました」
「ペットボトルを飲め。水筒でもいい」
おかしいな。少なくても異世界探索部の三人は俺が課した筋トレで鍛えたはず。
ランだって…… それなのにこんなすぐにへばるものか?
「お前たち甘えてるだろ? 俺はもう知らないからな! 」
「待って先生! まだ慣れてなくて…… 」
「それに体力を使って大丈夫か気になってるんです」
イセタンとカズトは下手な言い訳を繰り返す。
「いいから歩くんだ! 」
尻をひっぱたくことになるとはな。
「ほら後ろを向け! 引っぱたいてやる! 」
「ダメです青井先生! 」
ミホ先生に止められる。
体罰だそう。でも尻を叩くだけでなるの? むち打ちでもあるまいし。
「それにセクハラでしょう? 」
タピコが嫌がる。
「先生そう言う趣味が? 」
昨夜のことはすっかり忘れたのかアイがからかう。
「そうだ先生。アークニン博士からもらったお酒で景気づけしましょうよ」
カズトがそれが良いと騒ぎ出す。
続く