命の水
異世界探索二日目。
「青井先生早く! 出発しますよ」
ミホ先生に急かされ皆の元へ。
ロビーに集まった異世界探索隊。
さすがに今日は制服姿はない。
ちょっぴり残念な気もするが歩くしな。たぶん登るしな。
服装は指定した七分袖では寒すぎるのでその上に防寒着を着込んでもらってる。
下はジャージ。寒ければ二枚重ねてもいいが歩くからすぐに寒さは消えるはず。
本来ならもう少し防寒対策をするべきだろう。
しかし何と言っても出発した時は三十度越えの真夏日。予想などしようもない。
うん皆元気そうだ。体調を崩す者はどうやらいない。
探索は体力勝負だからな。無理は禁物。
食事と睡眠が重要に…… おっと俺が睡眠不足だったな。
はっきり言って昨日まではお遊び。
想定内のことばかりで危険性はなかった。
だが今日からは違う。まったく違う。
さっき俺の身に降りかかったようなハプニングがいつ起きてもおかしくない。
はっきり言ってこれから何が待ち構えてるか分からない。
気を引き締める必要がある。
「先生遅いよ! 」
「トイレぐらい早く済ましてよね! 」
生徒たちから文句が出る。別にトイレに籠っていた訳ではない。
体を張って若女将から貴重な情報を得た。こんなくそ田舎では情報こそがすべて。
それなのにこいつらと来たらまったく人の気も知らないで好き勝手言いやがって。
痛かったんだからな。居心地の悪さに耐えたんだ。少しは称えて欲しいものだ。
もちろん言葉にしないと伝わらない。まあ言ったら言ったで格好悪いのだが。
「ほら先に行っちゃいますよ先生」
「待てお前ら! 今行くって! 」
生徒たちは待ちきれない様子。もう駆け出しそうな勢い。
どの世界に顧問を置いて行く奴がいる?
少しは我慢することも覚えて欲しい。子供じゃないんだから。ああ子供か……
物事はそう簡単に進むことはない。思ってる以上に大変だ。
我慢に我慢を重ねてようやく高みに到達できる。
若女将からの有力な手掛かりを得た今俺たちは一歩前進した訳だ。
情報こそがすべて。その代償として狙われることだってある。
もう若女将から奴らに伝わったはずだ。
おっといくら何でも考え過ぎかな。これはまだ俺の妄想でしかない。
とは言え何の保証も出来ない訳で。
こんなことして生徒を危険にさらすなど教師失格だろうな。
それでも踏み込まなければならない領域がある。
もうこれで完全に引き返せなくなった。
秘密を知った者や近づいた者に気づいた者興味を抱いた者も許しはしないだろう。
恐らく俺たちは監視対象となったはず。
奴らはあらゆる手を使って妨害するはずだ。
あまり下手に動けない。単独行動も絶対に避けなければならない。
プラス材料は遭難した時に助けてくれるかもしれないと言うぐらい。
ただ不都合なものを見聞きした場合はその限りではない。
そう言う意味では早く見えない敵と接触を図るべきだろうな。
九時に旅館を出発。
若女将は見送りに。俺たちは一応まだお客様だからな。
「これをどうぞ」
分かれ際にイントをもらう。
「これが本物のイントです。昨日プレゼントしたのは似せて作ったレプリカです。
かなり精巧に作られたので違いが分かるのは地元民だけでしょう。
あなた方にはこちらが必要でしょう。どうぞお気をつけて。
それでは行ってらっしゃいませ! 」
若女将に見送られ旅館を後にする。
さあ東へ東へ。歩みを進める。
ひたすら東を目指す旅。
イント合計三枚。
着実に増やしている。これがあれば買い物だって出来る。
少し歩くと湧き水が。
注意書きが貼ってあるので読んでもらう。
「大丈夫です。地域の水だから取りすぎるなと書かれてるだけです」
積極的なイセタンとカズトはもう水に手を出している。
「よし皆水筒に注げ! 」
アイとタピコも嫌がる素振りを見せないで従う。
そう言えばずっと大人しいミコは?
一番後ろからゆっくりついてきている。
皆がはしゃぐ中で落ちついて一歩一歩。
自分を持ってる証拠だな。
我々は命の水を得た。
急いで大通りに。
さあここから東常冬町へひたすら歩くことに。
「先生歩くの? 」
文句が出る。まだ体力があるうちに行動しなければたどり着かない。
雪だって降ってないんだ。急ぐに越したことはないさ。
東常冬町へはバスが走ってない。
タクシーなど見当たるはずもなく。そもそも人間を見かけない。
仕方なく徒歩で向かう。
異世界探索は歩くことが基本になる。
十キロや二十キロは当たり前。百キロ歩くことだってあり得る。
それこそ山登りも当然。
足腰に来る。
現代人の彼らでは耐えられるだろうか?
続く