脅迫者
ミホ先生に迫ろうとした瞬間入口のドアが開く。
オートロックではないので締めない限り出入り自由。
「先生います? 」
元気よくドアを開けたのはアイだった。
恐らく最初は笑顔だっただろう。だが一瞬で驚きの顔を見せ怒りに代わる。
その後無表情に。表情豊かな子だな。
「お邪魔でしたね。では失礼…… 」
「待て! 待ってくれ! 誤解してないか? 」
勘違いされてはやりにくい。まだ何もしてない。
どうせ心の奥にしまっておけないから明日の朝には皆に知れ渡っているだろう。
ただでさえミホ先生は人気が高く男女から尊敬されている上に顧問と副顧問だ。
格好のネタに。当然このままでは旅が続け辛くなる。
あー自意識過剰か? でも用心に越したことはない。
「ミホ先生。違いますよね? 」
「はい…… 」
ダメだ動揺してる。タイミングを見計らって手を放す。
これでもう疑われないだろう。明日の予定を話し合ってるだけの顧問と副顧問。
何の違和感もないだろう? あって堪るか!
だってまだ。まだだったんだから。
これがすべて終わった後なら認めたっていいさ。もちろん認めないけど。
「先生…… 」
ダメだ。なぜか落ち込んでいる。
動揺するミホ先生と落ち込むアイ。
俺は平常心で二人を見守る。それが教師だ。動揺などするものか。
動揺するようなことは何も…… 何も……
そうやって何もしてないと自然に振る舞おうとすればする程汗が止まらなくなる。
おかしいな。暖房が強すぎたか? 暑い! 暑い!
我慢し切れずに声が上擦ってしまう。
「お…… 俺は…… いやお前何の用だ? 」
それでも一言も発しない訪問者。
俺がボロを出すまで粘るつもりか? だがそうはさせない。
ミホ先生を守る為にも旅を完遂する為にも俺は口を閉ざす。
動揺するミホ先生となぜか落ち込んで見えるアイ。それと酷く動揺する俺。
真夜中に俺たちは何をやってるんだろう?
アイは黙ったまま。戻ろうとさえしない。
これは忘れる気はないな。
よしそれならこっちから忘れさせてやる。
最終手段を取ることにした。要するに教師の立場を利用すればいいのだ。
「おいそこに座りなさい! 」
布団の横にアイを正座させ説教開始。
「お前はいつもそうだ。ノックせず勝手に入って。なぜ大人しく出来ない? 」
「先生が…… 」
「それでは私はこれで。おやすみなさい」
ミホ先生がそそくさと退出。
判断は間違ってない。俺の部屋だしな。でも俺を残して行かないで欲しい。
修羅場に二人っきりは嫌だよ。
とにかくこれで危機は去った。いやまだだ。変な噂を流されないようにしないと。
「先生が変態だからでしょう? 」
うわダメだ。覚えてやがる。これは時間が掛かるぞ。
「変態? どこが? 至って普通の行為だがな。
それよりもノックもせず勝手に入るな! マナー違反だぞ」
生徒に厳しくマナーやルールを説くのも大人の役目。
「先生は本当に懲りないんだから」
「うん? 何のことだいアイちゃん? 」
「ちゃん付けはやめて! いつも通り呼べばいいでしょう! 」
キレたか? しかし何を言ってるんだこの子は? いつも通りとは?
「アイ…… いつも呼んでたっけ? 」
「先生は名前を覚えられない。だから私のことも愛称で呼んでたでしょう? 」
鋭いなこの子。俺のお気に入りでなければ許してないぞ。
それにしても爆弾発言の多い子だ。賢いんだかバカだか分かり辛い。
バカな子ほどかわいいは取り消そうかな。
「あん? 俺が何と言ってるって? 」
だがいくら追及しても恥ずかしそうにするだけ。
「おいおい俺を嵌める気か? 」
「だから美人…… 」
「ああ美人三姉妹の三女ね。なぜ知ってる? 」
確かに彼女は身長も低くスタイルも二人に比べ劣るがそれでも美人三姉妹の一人。
胸だって小さいがそれが良いと言う奴だっている。
きれいとかではなくかわいいタイプかな。
頭が悪いのもプラスに働いてる。後は今日のことを忘れてくれると最高なんだが。
教師失格だな俺。同僚に手を出そうとして生徒に口封じしようとするんだから。
情けなくて情けなくて仕方ない。自分が嫌になってくる。
それでもしなければならないことがある。
「知ってるんだよ先生。金曜日の夜に何をしてるか」
ついにアイの正体が分かった。
美人三姉妹二人とはまた違ったとんでもないお遊びに興じる。
そう俺を脅迫する気だ。これは一気に危険な展開に。
続く