到着
三十度越えの真夏日から零度前後の真冬日へ。
一時間で三十度下がったことになる。
どおりで寒く感じる訳だ。
秋を飛ばし真夏から一気に真冬に駆け降りていく感覚。
ジェットコースターよりもウォータースライダーに近いのかな。
一気に真冬の気分。
さすがは常冬村と呼ばれるだけあるな。
まだここが正確にそうとは言えないが。恐らく間違いないだろう。
まさか初日から異常事態が発生するとは思っても見なかった。
防寒具は風に体が晒されないよう念の為に用意したもの。
場合によっては山登りもあり得るからな。
こんな早くに着用するとはな。
だからと言って出し惜しみしてる時ではない。
「おい体調を崩した者はいないか? カズト顔色が悪いぞ」
「大丈夫。それよりも部長が」
異世界探索部部長とタピオカ部部長がいて紛らわしいのでこうすることにした。
『イセタン』『タピコ』
名前を度忘れしたのでこれで行こうと思う。
自慢じゃないが俺は名前が覚えられない教師として通ってるからな。
タピコはタピオカ部から取った。
イセタンは異世界探索部から。
「それでイセタンの調子はどうだ? 震えてるぞお前」
「大丈夫ですよ。イセタンって誰? 寒くてくしゃみと咳が止まらないだけです」
問題ないと言うが本当に大丈夫か?
「おいおい。無理をするなイセタン! 引き返しても構わないぞ」
「もう先生は大げさだな。大丈夫ですって」
「お薬は? 」
ミホ先生も心配そうに。だがイセタンは拒否する。
彼の念願が叶う時に引き返すつもりはないのだろう。
元気ならいいか。一応は皆の意見も聞くことにした。
生徒は全員で五名。だから二名の反対があれば続行を断念するつもりだ。
これも生徒たちを守る為。ある意味基準になるはずだ。
「先生雪です。雪が降ってます! 」
アイは現状の重苦しい雰囲気を変えようとはしゃぐ。
「ああそうだな。お前はどうしたい? 」
「行きましょう。こんなのどってことないよ」
「だったらタピコ」
「人をアイスみたいに言わないでください! ただでさえ寒いんですから」
皆元気そうだ。ミコも聞くまでもない。奇妙な舞で気分を高めている。
「青井先生雪です。見えますかきれいですね。もう本当に感動してしまいます」
嬉しいのは分かるが生徒よりはしゃがないで欲しい。
「まさかこれって俺たちへの手荒い歓迎なのか? それとも異常気象? 」
「こんな歓迎の仕方しませんって」
タピコがせっかく俺が考えた現実的な答えを否定する。
やっぱり異常気象かな。
この雪と寒さの謎を突き止めなければ次のステップに進めない。そんな気がする。
異世界探索隊初のサプライズに皆振り回されている。
それでも初日だからなのか皆プラス思考。ポジティブで助かるよ。
しかしもしこれ以上寒くなれば命の危険さえある。
判断は慎重を期すことに。
ミホ先生とも充分話し合って判断するとしよう。
これから始まる未知の世界にワクワクしつつも警戒は怠らない。
俺は子供じゃない。引率する立派な教師。
今俺は五人の生徒とミホ先生の命を預かっている。
ふうそう思うと緊張で足が震える。いや寒さだろうなこれは。
電車は東へ東へ。
これが北へ北へならまだ分かる。だが東だ。
俺たちの常識を覆す何かが存在する。
ついに終着駅が見えて来た。
さあこれで俺たちは異世界への道の一歩目を歩き出したことになる。
もう決して戻ることの出来ない地獄へと。
≪終点。西冬常駅。終点です! ≫
アナウンスが流れ扉が開く。
終点の西常冬駅。終着駅である。俺たちの目的地でもある。
本来の終点である常冬駅はもう少し先らしいのだが。
いつかの土砂崩れで線路が塞がりそのまま。
だからこの列車の終点は西常冬駅となったと運転手が。
ただ表示はそのまま常冬行きなので初めての者には分かり辛い。
アークニンの優秀な助手が辿ったとされる常冬村。
そこにはどうすれば行けるかまだ分からない。
だからここは丁寧に地元の話を聞くことにしよう。
それが一番手っ取り早い。ただそう上手く行くかどうか。
「よし準備はいいな? 行くぞお前ら! 」
「おーう! 」
異世界探索隊はついに一歩を踏み出す。
続く