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移り行く季節の中で

列車は終点の常冬駅を目指しひたすら東へ。

あれ…… 涼しい。生徒たちの言うように涼しいぞ。

いや涼しいと言うよりも寒い気が。

どうも違和感があるんだよな。

取り敢えず席に戻る。


「暑い! 暑! 」

「ダメ。やっぱり暑い! 」

暑さに耐えられずに不満が漏れる。

「どうした皆? 」

「先生! 急にまた暑くなった気が…… 」

カズトが言う。どうやら彼は暑がりらしい。

少々太り気味だからな。体に堪えるのだろう。

何でもないものでも敏感になるのかな?


「そんな訳ないだろ! きっと気のせい…… あれ暑い? 」

「先生! 」

部長が騒ぎ出した。部長だと分かり辛いのでここはタピコとしよう。

タピコはタピオカ部の部長のこと。怒られそうなので本人にはまだ内緒。


「今度は何だ? 俺は冷暖房器具じゃないぞ」

「先生それセクハラです! 」

鋭いと言うか迷いがない。俺を陥れる気満々のアイ。

「どこがだ? 」

「温めてあげようとか言うんでしょう? 」

くそ! 思考パターンを読んでやがる。いくらお気に入りでも容赦しない。

「こらお前! チームワークを乱すな! あいつらみたいになるぞ! 」

あいつらとは美人三姉妹の二人のこと。

「うるさいな! 」

当然アイは他の者よりも彼女たちの裏の顔をよく知っている。

だから拒否反応を示しているのだ。


「あれ寒くない? 」

今度は誰だよ? 暑いのか寒いのか? はっきりしろよな。

暑かったり寒かったり。どっちかにしろよな。先生もう対処しきれないよ。

「すごく寒いです青井先生! 」

ミホ先生まで何を言い出すのだろう?

疲れと寝不足と緊張で体がおかしくなったか?

でも確かに寒いような気も。言われるとそんな気がしてくるんだよな。

だとするとやっぱり寒いのか。

答えは寒いで合ってる?


どうやら急激な体温の変化で体が追い付かず一時的におかしくなっているようだ。

それは俺だけでなく皆も同じ。

答えが分かった以上迷いが消える。後は行動あるのみ。

「よしお前らコートを着ろ! 」

一応は防寒具を用意するように書いておいた。忘れた奴はいないはず。

「はい! 」

列車が駅に近づくにつれどんどん寒くなっていく。

おかしな現象もあったもんだ。


「先生! 暑くて寒くてたまりません! 」

もうこうなると訳が分からない。お手上げ状態。対処のしようがない。

「はあ何を言ってる? 暑いのか寒いのかはっきりしろ! 」

生徒に迫っても仕方ないのだがつい苛立ってしまう。


暑い? 寒い?

よく考えてみれば一年を通して丁度いいなんてことはない。

我慢するからこそ感じられる涼しさであったり温かさであったり。

今はそんなこと言ってられるレベルじゃないが。


「おいあれを見てみろよ! 」

カズトの一声で生徒たちが大騒ぎ。暑さ寒さの原因が分かったらしい。

生徒たちの話ではこの車両が。恐らくは列車全体が冷房ではなく暖房になってる。

確かミコも指摘していたよな。

俄かには信じられないが本当だろうか?

「寒い! 」

列車が踏切を通過する度に暑さが消え寒さが増す。

一体これはどう言うことなのか?

不思議な現象。異常な自然現象か?


もう夕方。すっかり窓の外も暗くなり始めている。

景色を楽しむ余裕もない。


列車はトンネルへ入った。

出たと思ったらまたトンネル。それを繰り返す。

そしてようやくトンネルから抜け出した。


ポツポツ

ポツポツ

雨だろうか? 降って来た?

ポツポツ

ポツポツ

雨の音? 当然そうだよな? 他に考えられない。


パラパラ

パラパラ

白い何かが落ちて来た? 恐らくこれは……

雪? 雪なのか?

パラパラと落ちて行く物体。それは雪だった。


トンネルを抜けると雪国だった。

おかしいと思ったんだよな。これだけ寒いのは明らかに変だ。

体調の問題かとも思ったが皆が同じ状態なら違う。

集団催眠に掛かったり集団ヒステリーでも起こさない限りは。

しかも列車内は冷房ではなく暖房だし。


いくら日が暮れたとは言え気温が零度前後にまで。

ついさっきまで三十度以上あったのに今は零度前後。

約三十度下がったことになる。

どおりで寒く感じる訳だ。

秋を飛ばし真夏から一気に真冬に駆け降りていく感覚。

ジェットコースターよりもウォータースライダーに近いのかな。


この分だと終点の常冬駅はもう間もなくだろう。

そろそろ降りる支度でもするか。


               続く

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