幽霊と怪我人
この男まだ重大な何かを隠している。そんな気がしてならない。
「どうも言ってることが信用できないんですよね」
「ははは…… 私は部存続の為に動いている。勘違いも甚だしい」
そうやって追及されないように良い人アピール。
だが明らかに怪しい。喰えない人間なのは間違いない。
「先生が部費を横領した? 」
目が泳いだ。まさか図星?
「冗談は止してくれ! 心外だな。私はそのような人間ではない! 」
えらい剣幕で怒りだした。少々やり過ぎたかな?
「ではこの写真に誓えますか? 」
「はああ? 何を言ってるんだ君は? 」
相手にするつもりはないらしい。困ったな……
「でもおかしいんですよ。聞けば聞くほど違和感がある」
「それは気にし過ぎだと言ったろう? 」
「何の理由もなく断りますかね? 」
疑惑がある以上追及の手は緩めない。
もし引き受けてからとんでもないことが発覚したら?
すべての責任を押し付けられるのは俺。
「ははは! 恐らく男子部員がいないのが原因さ」
「一人も? それはただの推測では? 」
男子がいない? 女子何とか部なのか?
それならそれで早く言って欲しいな。
もちろん俺だって男子多めより女子多めの方がいい。
「本当に男子が一人も居ないんですか? 」
冗談だろ? いくら元女子高だったとしてもその割合はあまりにも露骨。
結局どちらかに偏るとバランスを取ろうともせずにそのまま傾いていく。
これでは今年も男子の入部希望者は期待出来ない。
男子禁制の女の園になぜ男を求める?
「あの…… でしたら顧問は女性にすべきでは? 」
筋は通ってるはず。求めるかは別として同性の方が何かとやり易いだろう。
「それがどうしても女性教師は嫌だと言うんだよ」
困った顔を浮かべる現顧問。
「副顧問でも? 」
「いえそこまでは確認が取れてない」
絶対に嫌なのではなくなるべく男性教諭がいいと言い張ってるらしい。
「しかしワガママが過ぎませんか? はっきり言って先生は彼女たちに甘い。
ずっと甘やかして来たのではないですか? 」
そのせいで生意気になって俺がやりにくくなったらどうする?
その時は責任取る? はずもなくロンドンで優雅にティータイム。
「ははは…… 言葉が過ぎるよ。これでも厳しく接してきたつもり。
ただ少々甘え上手なところもあるかな」
彼女たちを擁護してばかり。まったくそれでよく顧問が務まるよ。
どうにか誤魔化してるようだが教師と生徒以上の関係を築いた可能性も。
俺も彼女たちの餌食になるのかな? それは困る。決して嫌ではないが。
この時ばかりは未来を予知出来ていた気がする。
「分かりました。それよりも男子が一人もいないのは珍しいですね」
率直な感想を述べる。別にたくさんいて欲しいとは思わない。
それこそあまりいないで欲しい思う。でもそれとこれとでは話が違う。
部の管理には居てくれた方が助かる。一人だけでもいいんだ。
「残念ながら二人もいるんです。ただ一人は大怪我で入院中。いつ戻れるか未定。
それに仮に退院出来ても部に戻るかどうか。
もう一人も幽霊部員で文化祭や行事の時ぐらいしか顔を見せない。
前回の合宿にはとうとう不参加。
もうどれだけ彼にやる気があるかは分からない。
辞めないでしょうが年に数回しか顔を出さないような子ですから。
残念だが顧問になって彼を見ることはないかもしれないな」
ラッキー! いない訳ではないのか。期待は出来ないが新入部員だっている。
これでいつの間にか先生と生徒の関係が逆転するようなことはないだろう。
俺が生徒に飼いならされることも当然あり得るが。
「今年何人か入ってくるでしょうから。俺としても女生徒だけでは気まずい」
正直に不安をぶちまける。
「ははは…… 気にしない。女生徒だけと言うのも良いもの。慣れたら天国」
そうやって勧誘を続けるがやはり安易に乗るべきではない。
もう少し慎重になるべきだ。この人の噂はあまり良いものを聞かない。
いくら頼まれても決して関わってはいけないとか。
今回だって甘言に惑わされて引き受ければ何らかの落とし穴に嵌る可能性も。
だがもうこうなっては断れない。疑わしいが俺を信用してもくれているんだ。
それに俺が引き受けなければ廃部になってしまう。
顧問を打診されてるのにそれを無視するほど神経は図太くない。
一度決めたこと。一度引き受けたことだし文句は言うまい。
ただ俺には夏部がある。
夏部で忙しくなったらさすがに毎日は顔を出せない。
顧問がいないと活動出来なければこちらとしてもどうにかやりくりするしかない。
それこそ副顧問を置くことも考えるべきだろう。
続く