セクハラ?
特急がカーブに差し掛かる。
耳障りな音を立て減速することで激しい揺れに見舞われる。
何も掴まらずにただボケっと立っていれば巻き込まれることに。
もちろん普通の者はつり革か手すりを掴むはずだから揺れても大丈夫。
転んだり人にぶつかったりすることはないだろう。
カーブに弱いのは何も立ち客だけではない。
変な風に座ってると体が持っていかれることも。
ミホ先生も危うく持っていかれるところだった。
それを事前に察知し危機を回避。
弁当も無事だ。飲み物が少しこぼれた程度。
結果的にミホ先生を抱きしめる形になったがこれはわざとではない。
「そろそろ離してくれませんか? 」
ミホ先生が頬を赤く染めもじもじ。何と可愛らしい。
これもいわゆるつり橋効果って奴かな?
別に俺たちは付き合ってる訳でもないが。
カーブ地獄から抜ける。
さあゆっくりお弁当の続きだ。
「ミホ先生はサーモン苦手なんですか? 」
俺に渡そうとした。シャケは好きだけどサーモンが苦手と言う人もいる。
このシャケが本物ではなくトラウトやサクラマスなら避けても不思議じゃない。
「いえ…… そうではなくカロリーが気になって。つい避けてしまうんです」
それ分かるとタピオカ部の二人が頷く。
「はあ…… 塩分でなく? 確かにミホ先生はスタイル良いですもんね」
「ああ先生セクハラ! セクハラだ! 」
断定するような言い方をするんじゃない。勘違いするだろうが?
「そうですね。お気を付けください」
アイだけでなく部長まで。先生悲しいぞ。そんな子に育てた覚えないよ。
二人はタピオカ部ではあまり仲が良くなかった。
どちらかと言えば美人三姉妹は副部長派。
真面目な部長とは相性が悪くお互い受け入れ辛い。
悪いことを考えるのは大体あの二人で他の者は巻き込まれる。
もちろん嫌々やらされてるとかではないだろうが積極的に反対しない。
反対しないと言うことは賛成になる。なぜか部長も止めない。
そのターゲットは俺だがな。
「待て待てお前ら! 俺はセクハラのつもりはない」
「だからセクハラだって! 」
アイが引っ掻き回す。困ったな話が先に進まないよ。
「とにかくカロリー気にするのは構いませんが今回の旅はそんな甘くありません。
いつたどり着くとも分からない果てしない旅なんですから。
食べれる時に食べておかなければ体が持たない。それだけで済めばいいですが」
副顧問のミホ先生なら当然理解してとものだと思っていたが買い被り過ぎかな。
「充分理解してるつもりです。ですが…… 」
「いえあなたは何一つ分かってない! 旧東境村はそう簡単に見つかりませんよ。
それに異世界も見つけるんです。食事は体力作りの基本。疎かにしてはいけない」
食の重要性を説明する。
しかしこれくらいの心構えが無いなんてどうなってるんだ?
もはや副顧問失格の烙印を捺されるぞ。
「青井先生…… 」
「済みません言い過ぎました。ただ皆にも言っておくがここからは非日常だ。
心して掛かるように! 」
厳しいようだがこれも生徒の為。
「はい! 」
「はい。いつもの癖で」
「しっかり食べておくように! 」
「はーい」
ミホ先生が子供っぽく返事をする。どうも分かってんだかはっきりしない。
本当にここからは何が起こるか分からない。
皆でワイワイが理想的だが一人になることだって充分考えられる。
その時に俺は守ってやれない。
恐らく二手に分かれたらミホ先生はパニックになるだろう。
そうなっては生徒たちにも連鎖し大変な事態を招くことになる。
ボックス席を回転して楽しくお食事。
ワイワイガヤガヤと楽しむ。
混んでいたのも少し前まで。
大方の者は前の駅で降りてしまった。
トイレに立った時に気づいたがこの一号車だけでなく二号車も人の気配がない。
三号車までは見てないが大体分かる。もうこの電車にはあまり人が乗ってない。
夏休みで観光シーズンとは言え同じ方向に向かう者は僅か。
大げさに言えば貸し切り状態。
生徒たちも自由に席を移動してる。
教師として顧問として大人として注意すべきだろうな。
だが皆が寛いでる時に敢えて口を酸っぱくする必要もないと判断。スルーだ。
この後乗ってくるとは思えないが新たに乗ってくるまでは自由にさせておく。
少しぐらい甘やかしたっていい。
部長君とカズトはトイレに行くと姿を消した。
ミコは大人しく読書。本当に落ち着いてる。
タピオカ部二人は後ろの席でお喋りに夢中。
どうも皆緊張感がないんだよな。
今ミホ先生と二人きり。何を話そう。
もしやさっきのこと根に持ってないよな?
あれもアイがセクハラだって騒ぐから俺も仕方なく。
決してミホ先生だけのせいではない。
続く