顧問に求める条件
お困りのようなので顧問を引き受けることにした。
これも一種の人助けって奴だ。
勢いでOKしてしまったが果たして何の部活だろうか? まだ聞かされてない。
「助かるよ。何しろ顧問が居ないと廃部なんてことになってしまう。
それだけは阻止せねばと後任を探していたんだ。これで皆に良い報せが出来る。
本当にありがとう」
何度も何度も頭を下げ感謝の言葉を述べる。らしくない。
人助けするのも悪くない。そんな気持ちにさせられる。
これもお酒の力かもな。一杯二杯と勧められたから。
「それにしてもこんなにも人材が豊富なのになぜ後任が見当たらないんですか?
もったいない限りです」
率直な感想を述べる。これならいくらだって引き受け手が現れそうなものだが。
「中々条件が合わなくて。決め切れないと言うか…… 押し切れないと言うか……
うーんどうにも説明しづらいな」
「条件ですか…… 顧問に求める条件って何です? 」
気になる。条件などと言う大げさなものがあるのか?
たかが高校の部活動だろ? 単なる甘やかしでは?
生徒想いの良い先生なのかもしれないが判断を誤れば取り返しのつかないことに。
大体生徒想いなら隠れて写真収集などしない。
ここまでするのはまさか弱みでも握られてるとか?
「ふうう…… その何だ…… 」
語りにくそうにため息を吐く。察せよとでも?
もう約束したのだから隠しごとをせずに何でも話してもらわなければ困る。
「いやね…… 彼女たちは少々ワガママでね。若く頭の良いおじさん以外の男性。
その条件だと君を含めてこの学校では数名しかいない。
独身となると三択になる。どうしてもそうなってしまう」
なぜ生徒のワガママなど聞いてやる必要があるのか?
もっと威厳を持って優しさの中にも厳しさがなくては部活動など務まらない。
もう子供じゃない。格好いい先生に憧れるのも分かるが現実を見せてやれよな。
ワガママ言っても無駄だと分からせてやらないと。
「へえ…… 生徒の希望ですか? 」
その希望に見事合致するのが俺と言う訳だ。
光栄だが何となく嫌な予感がする。
俺は生徒には媚びないぞ。そんな情けない教師になってたまるか。
「他の二名の先生方は運動部の顧問をされてまして不可能とのこと。
改めてどうか生徒たちの為にも顧問をお願いします」
ここまでされると無下には断れない。一度引き受けたしな。
「他の方にも当たったんですよね? 俺が断ったらどうするつもりでしたか? 」
「もちろんその場合は手の空いてる先生を片っ端からピックアップ。
ただどの先生方も乗り気ではないと言うか嫌がってる節があるんだよな」
手応えなしと。俺に逃げられたら一大事な訳ね。
それにしたってこんな美味しい話を受けないのはどう言うことだ?
まさか今は絶滅危惧種の理想高き教師なのか?
それとも不祥事を起こして学校を首になりたくないからなのか?
必要以上に関係を深めない為か?
まあどうであれ冷静な判断が求められる。
単に時間がとられるのが嫌なのかもしれないな。俺もその口。
「不思議ですね。何か問題でも? 」
「いやいやさっきの通り少しワガママと言うだけでかわいい生徒たちさ。
私を慕ってくれるしね。決してマイナスなイメージがあるとかでは。
なぜなのか私も不思議でね。もしかすると女生徒しかいないのが原因かも」
誰も顧問を引き受けたがらないのが気になったがそういうことだったのか。
確かに女生徒だけでは気が引けるのも頷ける。
俺も決して話が得意と言う訳ではないので最初は慣れるまで大変そう。
それでも引き受けない選択肢はない。
これも人の為であり部存続の為。一肌も二肌も脱ぐ覚悟だ。
「先生。まだこれ以外にも何か重大な隠しごとをしてませんか?
どうも俺には信じられなくて」
「ははは…… それは考え過ぎ。君みたいに喰いつく人の方が珍しい。
教師は情熱的であるべきだが最近の方は職業の一つとして見てる節がある。
そうなれば楽な方を選ぶ。顧問は引き受けない。それが面倒な部なら尚更。
昔と時代は変わってるのさ。残念ながらもう聖職でも何でもない」
そう言ってごまかすがやはり怪しい。
女生徒だけだとか注文がうるさいなどの理由だけで本当に断るだろうか?
それ以上のどうしても引き受けたくない何かがある。
そう考えるのが自然だろう。
続く