遅れてやって来たヒロイン 最後のピース揃う
集合時間まで十分弱。
ミホ先生がミコを連れて戻ってきた。
「どうしたんですか青井先生? 」
すぐに異変に気づくとはさすがミホ先生だ。でも心配させる訳にはいかない。
「いえ何でもありません」
「でも…… 頬を押さえてるみたいですが? 」
「ははは…… トイレに。ここを頼みます」
さすがにキスマークをこのままと言う訳には。
二人の思い出をきれいに洗い落とす。
部長とカズトが姿を見せる。
これで異世界探索部のメンバーは全員揃ったことになる。
残るはタピオカ部の部長。
俺の無茶な頼みを快く引き受けてくれた彼女。
その心優しい彼女を置いて行く訳にはいかない。
「そうだ。先生サプライズあるかもね」
「そうそう。あるんじゃない? 」
「サプライズ? 何を言ってるんだお前たちは?
変なことするなよ? 学校の恥になるからな」
「しないよ。先生じゃあるまいし」
「先生? 青井先生がですか? 」
間の悪いことにミホ先生が反応する。
鈍感なくせにこう言うところは聞き逃さないんだから。
「ははは…… まったくこいつら何を言ってるんだか。ねえミホ先生? 」
笑って誤魔化すが視線が刺さって痛い。まさか本気にしてるのか?
待ち合わせ五分前。
もう遅いな。まだ来ないのか彼女は? 時間厳守は基本中の基本だぞ。
「遅くなりました! 」
タピオカ部部長ようやく姿を現す。
無理に頼み込んだのだからこれくらい。
それに遅刻した訳でもないしな。
どうにか八時には全員が揃った。
さあ出発だ!
「よし全員集合! 」
メンバーは異世界探索部の三名。
部長君とミコとカズト。
タピオカ部から一名。
部長。
引率二名。
俺とミホ先生。
合計六名。
「よし出発だ! 」
点呼を終え改札を抜けようとした時だった。
遠くの方から叫び声がする。
「待って! 」
振り返るも人が多すぎてどうにもこうにも。
まさかあいつらの仕業か?
「待って! お願い! 」
やはり呼び止められている。一体誰だろう?
見送りの者? まさか誰か忘れ物でもしたか?
「先生待って! 」
ようやく顔がはっきりする。
女の子?
ああ…… まさかそんなこと……
ついに最後のピースが揃う。
「美人三姉妹の一番下? 」
「はあ? 」
ミホ先生が反応する。
つい嬉しくていつもの呼び方をしてしまう。
スケルトンがつけたもの。俺じゃない。
「遅くなりました! 」
このところ俺と距離を取っていた三女。
実は俺のお気に入りでもある。
その証拠に英語の試験を甘くしている。
これもすべて彼女が道を踏み外さないため。
俺って良い先生だろ? 最低などと言わないで欲しい。
「まさか君も参加するの? 」
「はい! 」
力強く返事する。
それにしてもどう言う心境の変化だ?
確か俺を嫌っていたはずだろ?
嫌ってる理由は恐らく上二人との関係を感じ取ったから。
俺が腑抜けになったのも彼女なら推測できるだろうしな。
だからこそ俺と距離を取った。
だが今はどうだろう?
まあ何でもいいか。参加してくれるなら大歓迎だ。
ロングにカチューシャ。
学校では見せない彼女の髪型。
後ろには大きなバックパック。
可愛くて小さいのでバックパックが異常にでかく見える。
もう少し身長とカップと頭が成長すれば完璧なんだが。
贅沢は言えないよな。ははは……
俺のお気に入りの三女が加わって俄然やる気が出て来た。
そう言えばサプライズがあるって言ってたな。このこと?
まさかあいつら三女が参加するの知ってたのか?
知ってて隠すなど水臭い奴らだ。
俺は驚かないぞ。喜びもしない。感激もしない。
「どうしたんですか青井先生? 」
「いや…… 嬉しいんですよ。彼女が参加してくれて。
タピオカ部の皆に頼み込んだ甲斐があったと言うものです」
三女が来たのが嬉しいんじゃない。俺の呼びかけに応えてくれたのが嬉しいのだ。
それはもう格別。夢心地。
「よし確認だ。名を名乗れ! 」
「アイです! 」
「アイっと。これで全員揃ったな? さあ出発だ! 」
「はい」
「声が小さいぞお前たち! 返事は? 」
「はい! 」
「よろしい。出発だ! 」
「オウ! 」
緊張感漂う異世界探索隊。
アイの飛び入り参加により合計七名に。
「行ってきます! 」
美人三姉妹の二人に見送られ異世界探索隊は旅立つ。
いつ戻って来れるともしれない異世界を探す旅。
ワクワクドキドキが止まらない。
こうして楽園は完全に閉ざされた。
続く
カウント ゼロ