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寝かせてくれない

土曜日の夜。

何か無駄なことしてる気がしてきたな。

夜遅くまで異世界から生還した男の残した紙の束とにらめっこ。

保証があるなら俺もやる気が出るのだがただの無駄足の気がして。

それでもミホ先生と一緒ならと浮かれていたがあまりに熱心だから。

一人置いてけぼり状態。構ってくれないのでいじけたくなる。

そうすると情熱よりも面倒が勝ってしまう。


「ではこれくらいで」

「ダメですよ青井先生。半分はお願いします」

頼まれては断れない。汚らしい紙を一枚一枚丁寧に見て行く。

「大変申し訳にくいのですがこんなこと最初にアークニンがやってるかと?

本当に面倒くさいよ」

もう反応しなくなった。ただいいから早くやれと目で合図する。

意外にも怖い人なんだな。怒るとこうなのかな?

てっきり女神様のようだと思ったが違ったらしい。

困ったな。一枚一枚やるなんて本当に冗談じゃない。パラパラでも限界なのに。

せっかくのお泊りが進展もせずにただ作業に没頭するなんてやってられない。


黙々と確認作業を続ける。

百枚ほどを束にしてまとめるので時間が掛かる。

ゴホッ! ゴボッ!

マスクしていても咽てしまう。これがどれだけ体に負担があるかよく分かるはず。

「大丈夫ですか? 今お水を…… 」

「いや結構です。さあ続けましょう」

下手に水なんか持ってこられたら貴重な資料が水浸しになる。

俺はどちらかと言えば不器用だから期待に応えようとしてしまう。


詳しく見て行く。表と裏を丁寧に。当然何も見つからない。

あまり期待し過ぎないようにしよう。

表が白紙なら裏も白紙。

染みで汚れていてこんなことでもなければ触りたくもない。

ゆっくり時間を掛ける。

もう間もなく開始から一時間のところでようやくすべての紙のチェックを終える。

ふう本当に疲れたぜ。何か発見があればいいんだが。


「どうでしたミホ先生は? 」

大発見を期待するあまり強く迫る。

「何も…… 恐らくただの紙でしょう」

あれだけ調べた結果がこれか。あらかじめ予想していたとは言え辛いな。

もちろん今ここで諦める必要はない。


「そうですか。やはり手掛かりはなさそうですね」

正直に言ってみる。そうすると意外な反応が返って来る。

「そんなはず…… もう一度調べてみましょう。今度は逆にして」

「そんなまだやるの…… 」

ミホ先生のスイッチが入ってしまった。こうなったら止めようがない。

せっかくこの後二人でイチャイチャできると思っていたのに大誤算。

まあ仕方ないか。諦めよう。


二回目の確認作業を終える。

「ミホ先生はどうでしたか? 」

まずい欠伸が出そうだ。

「眠そうですね。大丈夫。もうすぐにでも」

三回目の作業を始める。


四回目、五回目。いい加減同じことを繰り返すのはやめて欲しい。

何度やっても同じだと言うのに困った人だな。

「ミホ先生その辺でお願いします。もう眠らなければ明日に響きますよ」

こんなはずではなかった。ミホ先生を誘ってのロマンティックな夜。

ワインを片手に愛を語り合う。そして愛し合い求め合う。

そんな演出が…… 計画が狂ってしまった。

どこで? ビーフシチュー辺りから?

ミホ先生の説得の仕方に問題があったか?

俺には顧問としての資質がないがミホ先生には十分な適性がある。


「何か気付いた点はありますか? 」

「ありません…… もう眠くて眠くて」

「青井先生! 青井先生! 」

「おっと…… いや大丈夫。大丈夫」

ロマンティックな夜はどこに行った?

これでは受験勉強の生徒と家庭教師ではないか?

もちろん俺はそんなに若くないが。


「眠いよ…… そろそろ一緒に寝ません? 」

どうにかしてミホ先生の気を紛らわすように冗談を。

「もう青井先生ったら! 」

どうやらふざけてると思ってるらしい。

だがこれはおふざけでも何でもない。俺の偽らざる気持ち。

ミホ先生さえよければこのまま一緒に暮らしたっていい。

ミホ先生の為なら金曜日の密かな楽しみも捨てる覚悟……

いや無理だ。俺がいくら吹っ切れてもあの二人は俺を放してくれない。

新しいターゲットを見つけるまで決して放しはしないさ。

それに俺だってまだ二人を忘れられない。

俺は何て罪深い人間なのだろう?


               続く


カウント 6

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