一枚ずつゆっくりと
邪な気持ちを読まれることなくミホ先生を説得して見せた。
これで彼女は俺の忠実な僕となるだろう。
顧問と副顧問との関係以上に強固な繋がりができる。
これでいいこれでと邪な気持ちとは別な何かが訴え続けている。
ただ本当にこれで良かったのかもはや自分ではよく分からない。
確かに俺はミホ先生に好意を抱いている。だが美人三姉妹とのこともある。
それだけじゃない。アークニンの戯言も頭から離れない。
彼女をそのままでと思う反面自分の手で何とかと言う反対の感情があり混乱する。
俺は彼女を求めているようで拒絶している。それでいて求めている。
複雑な感情がぐるぐる回ってその時々で違う答えを出す。
まったく情けない。どの感情でミホ先生に接すればいい?
純粋で優しい素敵な彼女を救いたいし守りたいのは事実なのにどうしてかな?
恐らくあるんだろうな絶望的な未来が。残酷などと言うレベルを超えた何かが。
だとすればやはりここは異世界探索は中止すべき?
だが生徒たちが悲しむ。もはや中止は不可能。証拠など当然示せない。
何となく嫌な予感がするだけではな。第六感などと言ったら笑われる。
ここは危なくなる前に俺が止めるしかなさそうだ。決して兆候を見逃さない。
それが引率する教師の役目。
「ふう…… そうですね。青井先生に従いましょう。
それではそろそろ始めましょうか? 」
ただ静寂を嫌ってつけていたテレビを消し立ち上がるミホ先生。
「何をですか? 片づけは終わったしお土産ももらった。
残るは…… まさかミホ先生そんなこと! 」
念の為の確認。慎重だろ?
「ですから手掛かりを見つけるんでしょう! 」
怒ってしまった。ふざけ過ぎたかな?
「ああそうでしたね」
ビーフシチューとタピオカで汚したテーブルをきれいに拭き再び紙束を置く。
うん自分は心底雑できれい好きにはほど遠いんだろうなと自覚する。
得体の知れない汚らわしい謎の紙の束を置くのだから。
俺ってワイルドだろ?
貴重な資料だから汚さないよう傷つけないよう濡れないよう気を遣う。
取り敢えず手袋を嵌めてマスクをする。
最低限のマナーだ。保存と管理の徹底こそが命。
紛失でもしたら取り消しがつかない。
マスクと言えば当然持ち物リストにも。
未知の世界を目指す旅。できる限りの対策はすべき。
風邪やインフルエンザだけでなく未知のウイルスが襲ってこないとも限らない。
「青井先生の見解は? 」
もう探索モードに入ったミホ先生。
「うーん。俺はちょっと…… まだよく分からないかな。
確かアークニンの助手が何か手掛かりを見つけたとか……
でもこの紙束にあるとは限らないし」
助手本人にでも聞かない限り俺たちでは不可能。
時間ばかりが無駄に過ぎてしまう。
アークニンだってこれが分かってれば俺たちには見せないだろうしな。
「青井先生? 」
「ミホ先生はどうお考えですか? 」
ここはミホ先生の直感に頼るしかなさそうだ。
「間違いなくこの紙束には異世界に繋がる何かがあると思います」
自信満々の彼女。
「はあ…… だから異世界の地図…… 」
「アークニン博士もこの紙束に何か隠されてるかもと言ってましたし」
興奮して俺の話聞いてないや。
ミホ先生はアークニンを信じてるようだがどうかな?
危険人物なのは会ってみて充分に理解したと思うが。
いや会う前から良識のある大人なら疑うのが当然で。
ミホ先生はお嬢様だからかその辺が疎く甘い。
これでは良いように騙されてしまうぞ。
「ははは…… ミホ先生はまだ信じていたんですね。
あれはアークニンが俺たちに吹っ掛けるために吐いた嘘ですよ。
真に受けるとは可愛いところありますね」
そう言って完全否定する。
「ですが何らかの方法で旧東境村を探し当てた訳ですよね? 」
俺が詳細を知る由もないが嘘に決まってる! 冗談でしょう?
「いや偶然じゃないのかな…… 」
そう言って紙束をパラパラめくる。
しかし続けたからと言って特段何が起こる訳ではない。
もし毎日やって異世界に繋がるキッカケが掴めるなら文句言わずに繰り返すさ。
でも違うんだろ? しかもこれは真っ赤な偽物の可能性がある。
もっと慎重になるべきだろう。それが生徒たちを預かる者の務め。
「では一枚ずつ確認してみますか? 」
やる気満々。俺は関係ないと思うけどな。
「ミホ先生! それだけは…… 面倒くさい! 」
「何を言ってるんです青井先生? 一枚一枚根気よく見て行きましょう」
嘘だろ? 冗談じゃない。付き合ってられるか!
「では俺はこれで…… 」
「ダメですよ青井先生。半分お願いします」
頼まれては断れない。汚らしい紙を一枚一枚根気よく見て行くことに。
続く
カウント 7