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白の想い

 白の未のリリアは迷っていた。

 黒の未のリリィと自分のどちらを優先すべきかを。


 羊季(ようき)とは闘争と解決の季節。


 未として羊季の舞踏会に招かれた1匹の羊だったリリア=リリィは、会場に辿り着くなり、白と黒に分かたれた。

 

 白のリリアは白く長くうねるウールとケンプを複雑に編みあげ、螺旋模様の短角を美しく見せた。

 白い刺繍を重ねた膝上丈のドレスに白の編み上げ靴が、似合が細い体格によく似合うので、無垢を好む者たちに持て囃された。


 黒のリリィは艶のある夜のような黒い直髪をハーフアップにし、螺鈿のような複雑な色を持つねじれ角が美しく見せる。

 黒の膝下丈のドレスは袖や襟が繊細なレースでハイヒールと共に幻惑を好む者達に囲まれていた。

 

 羊季の舞踏会ではリリアとリリィのそれぞれの思いを闘わせ、決着をつける。敗者は勝者の願いを叶える為の対価になり、勝者は敗者を換毛の贄とする事で願いを叶え、その成果を持ってあの山に帰る。

 

 ここは世界を運行する人外達の代理戦争の場でもある。彼らにとって、世界状況を把握する指針のひとつであり、そしてまた比較的直接世界に介入できる場でもあるようだ。


「かわいい子、君が僕を好きになるのは仕方ないことかもしれないけど、順番は守ってね」

「どちら様ですか?」

 初見ですれ違ったところで、急にこちらが迷惑をかけているかの様な言葉をかけられて、リリアは戸惑った。

「そんな風に言って、悲嘆の僕の気を引きたいのかもしれないけど」

「お引取りください」

 関わるべきではない類のものだと気づき、即座に撤退を試みる。そこへ救援が上手く繋がってくれた。

「リリア嬢!ああ、良かった。こちらにいらっしゃいましたか」

 主催より高位の招待客が駆け寄ってくる。悲嘆の精霊は分の悪さを感じたのか、慌てて去っていった。


 この舞踏会の参加者達はそれぞれの思惑から、リリアとリリィを応援し、気まぐれに祝福や災いを落とす。それすらも季節の天秤の内側の出来事だ。

 リリアを今担ぐのは、主に信仰、白檀、白霧、明星、希望、そしてこの贖いを司るものだ。

 とはいえ、気まぐれな方達でもあるから、こちらが適さないと判断されたら、あっという間に去っていくだろう。

「贖い様、お探しさせてしまいましたか」

「いえ、なんだかお困りのようでしたからね。……心は決まりましたか?」

「……いえ。ごめんなさい」


 踊り合って27夜。


 大抵は一度の舞踏で決着がつくものらしく、ここまで互いが譲り合わないのも珍しいらしい。

 最初の数回は踊りで決めようとしたが、あまりに決まらないので、夜ごとにあらゆる分野で舞いあうことになった。


 ある晩は知識で踊り、ある晩は剣舞をし、ある晩は会話で舞いあかした。

 しかし、あまりに互いの見ているものが近いからか、どうしても勝負つかずで終わってしまう。

 

 今夜で28夜目。

 

 今日ここで勝敗が着かなければ、決着ならずとして、リリアもリリィも願いを叶える事なく、この季節に今年の豊穣の対価として差し出されるだろう。 

 対価は1匹分しか受け入れられない。

 対価からあぶれた半分の身は厄災となり、黒の半身と共に荒れ山の愛する全てを自分達の手で壊す事になるのだ。


 願いが叶わないのも嫌だし、あの方を害するなんて論外だった。

 でも、この場から逃げ出して、それであの方の生きる世界が厳しくなるのも嫌だった。


 だから、リリアはリリィを生かすのか、彼女を押しのけて生き残るのか、覚悟を決めなければならなかった。


「……せめて、最後にあの方をもう一度見たかったな……」


 隣にも聴こえぬよう、そっと静かに零した。

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