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水に濡れて恥に塗れて

 俺にすべての注目が集まり、お陰で戦うことなくシルバーウィンド号を乗っ取ったニオとエルフと俺の仲間たちは、ロープを引っ張って引き上げてくれた。


「……ックシ!」


 クシャミをするずぶ濡れの俺へ、エルフも仲間も関係なくいたたまれない顔をしていた。


「……さみぃんだけど」


 最前列にいるメダルカですら、俺のつぶやきにどう声を掛けたらいいものか迷っている。

 イティも顔が引きつっていた。オロオロと歩み寄り、族長としてのせめてもの意地か声をかける。


「た、大儀であったぞ? そ、それに、お主らの潔白も証明されたではないか」

「……だから、さみぃ。簡単に風邪引く体じゃねぇが、さみぃんだよ」

「さ、左様か……おい誰か、なにか拭く物を持っておらぬか?」


 一応指示を受けたエルフは、何かの布切れなりを取り出していたが、こちとら全身ずぶ濡れなのだ。


「だ、旦那、えっとその……ごくろうさんでした。俺たちが怪我してるばっかりに……」

「いいから、さみぃんだよ。寝てねぇし、下手に加減して戦って疲れたしよ。それになんだこの様、まるで……」


 と、そこへ大笑いしながらニオがやってきた。


「アッハハハ! 当てようか? “ションベン”漏らしたみたいだって言いたいんだよね! まさにそのまんまだよ! アッハハハハハハハ!」


 もはや怒りも湧かなかった。とにかくドデカい溜息が出るだけだ。


「なんなんだよ、ったく……無理して突入して、また捕まりかけて、なんなら殺されかけて、冷えた海に落とされて憐れみと笑いの種……昨日からの引き続きで、いい加減泣くぞ」


 笑うニオは、涙を拭きながら語り掛けてくる。


「なんなら素っ裸になって地肌で温めてあげようか? そのまま船長室で慰めてあげようか? これだけやって、これだけ笑わせてくれたんだ! お礼にこの体好きにしていいよ! どんなマニアックなことでも付き合うよ! ハハハ! アッハハハハハ!」

「それこそ変な病気もらってマジで死にかねねぇから遠慮する……はぁ……」

「いやでも、ホントにご苦労様」


 いい加減笑いつかれたのか、それとも態度を少しは考えたのか、ニオは次第に真面目な顔をした。


「ボクの計画に足りなかった”力”を貸してくれてありがとう。文字通り、純粋に強い力を持った君がいないと、この船は手に入らなかったよ」

「……なぁ、今になってなんだが、小さな船奪ってヒッソリ行くとかできなかったのか? 自由の身になって、文字通り頭が冷えて考えてみたんだが、爆薬仕掛けてたんなら、アイツらの出航遅らせられたろ?」


 聞くも、ニオはムッとした顔をする。


「何言ってるのさ、それじゃこの船置いてけって言うの? 本当はエルドラード号が欲しかったのをタダでさえ妥協したのに、もっと譲歩しろって? 駄目だね、ボクの名が廃るよ。なにせボクは……」

「ただの海賊だろうがこの野郎!」


 海賊という言葉に、つい感情が爆発してしまった。


「あーくそ! なんか遅れて怒りが湧いてきやがった! 誰にもぶつけらんねぇ怒りがとめどなく湧いてきやがったぁ!! どこにぶつけりゃいいんだこの感情!! つーかいつまでもこんなビッチャビチャな服着てられっか! 脱ぐからな俺は!!」


 上着からズボンまで脱ぐと、パンツ一丁でメダルカたちへ投げつけた。


「日当たりのいいとこに干しとけ!!」

「へ、へい!」


 そのまま甲板に胡坐をかいて座ると、またドデカい溜息が出た。


「なんで俺は、知らねぇ船の上でパンツ一丁なんだよ、クソ……」

「だからボクが地肌で温めるってば」

「ならいっそひん剥いてやろうか!! テメェの服で体拭けるしな!!」


 ガバッと襲いかかろうとして、ニオが「あー……」と困った顔をした。


「悪いけどそれはお勧めしない。君たち調べるために方々回ったからお金使い果たして、売る物も売りつくしたからずっとこのシャツとズボン一枚だし。下着は特に高く売れちゃったし。水浴びはしたから体は綺麗だけど……」

「なんじゃと!?」


 俺が何か言う前に、イティが一人、まさかといった顔で駆け寄った。


「わっちと歳が変わらぬであろう女が、まさか下着まで変えていないと申すのか!?」

「あっはっはぁ……だから変えてないどころかもうずっと履いてない」

「急ぎついてくるのじゃ!! わっちの変えがある!!」

「おい、変えがあるなら俺にも……」

「黙らんか!! お主に女の何がわかる!!」


 怒鳴り散らして、イティはニオを連れて船長室らしき部屋に籠った。


「……そういや、臭かったな」


 旅暮らしでそういった感性が鈍っていた。それと女は色々と大変とも聞いたことがある。


「だからってここまでやったの誰だと思ってんだよ……」


 なんて言っていると、申し訳なさそうにエルフの男たちが集まってきた。


「あの、俺たちも旅の用意がありますので……屈強なその体に合えばいいんですが……」

「ックシ! ゥェックシ! ……もうひょろいエルフの服でパツパツでも構わねぇよ。一番デカい奴の服貸してくれ」

「は、はい……」


 最後の溜息を吐きながら、動物の革か何かで作られた服に袖を通したのだった。


「……獣臭せぇ」

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