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海賊のショータイム~出航~

 エルフたちの活躍もあり、メダルカ含む十名の仲間を救出できた。

 全員怪我もあり今すぐ戦うのは厳しそうだが、素早く動く分には問題ないとのことだ。


 とはいえ、エルフに狙われたのを騒がれて早速仲間割れという事態は避けたかった。

 だが、


「この状況で旦那が連れてきたんだ。とやかく言うつもりはありませんぜ」


 とのことで、メダルカを筆頭に余計なことで騒ぐ奴はいなかった。


 一旦朝が来るまでポートリーフの裏通りに散って姿を隠す中、ニヤニヤしているニオへ肩をすくめていた。


「まさか、これも全部計算の内か?」

「サンランページについてはよーく調べさせてもらったからね。まぁこうなる可能性は高いと思ってたよ」

「だそうだメダルカ。そこらへん喋ったのお前じゃないよな」


 聞かれ、ニオをチラチラ見ていたメダルカは「えっ!?」と股間を抑えた。


「ち、違いますぜ旦那! 俺はそんなガキの体に興味なんてありません!」

「誰がコイツの体について聞いた」

「えっ、あっ、その……」


 やっぱりこいつか……。まぁ、今回は相手が悪かった。


「別に怒ってねぇよ。お前がそういう趣味なのは知ってるし、不利になるようなことは言ってねぇだろうし、ここまでついてきてくれてるからな」

「よかったね、いつかのロリコンおじさん」


 ポコン、とニオの頭を小突いておく。お門違いなのは承知だが、どうにも言い方に腹が立った。

 当然ニオは頬を膨らませたが。


「ボクの誘いに乗ったのはアイツだろう?」

「あーそうだな。自分は十四歳で、お金がないから体を売ってますで落としただっけか? 大人とか言ってるくせに、演技上手なことで」


 しかし、魔王を超える船員が欲しいとの理由だけで、自分の身など一切省みていない。

 本当に底の知れない奴だ。何があったらこんな小娘が、ここまで捨て身になれて頭が回るのだろうか。


「それで、そろそろ夜明けだがどうする」

「計画通り船を奪うよ。ちょっと待ってね」


 ニオは腰に巻き付けて隠していたアンカー付きの投げ縄を建物の屋上に投げると、ヒョイヒョイ登っていった。

 どうやら遠眼鏡で確認しているようで、降りてくると悪い笑みを浮かべている。


「計画通りに事は進んでるよ。じゃ、この後は作戦通り”エルドラード号”へ突入ね」

「俺一人だけでな……泣けてくるぜホントに」







 俺の処刑が終わったら出航する予定だったエルドラード号と、並んで浮かぶシルバーウィンド号。

 厳重な警備のせいでエルフ五十名と裏切らなかった十名は入ることからして難しい。


 更には六十人……時には百人を超える人数で動かすこの船に入り込めたとしても、まだ何の知恵もない俺たちでは出航準備もままならない。


 だがこの船でなければ、追いつかれて沈没させられるだろう。


「そういうわけだ、乗っ取らせてもらった」


 計画その一として、帝国海軍兵士諸君が早起きして出航準備を済ませたエルドラード号を、魔王を倒した俺が無理やり防備を突破して乗っ取ったのだ。


「罪人め……バカなことを……」

「俺もこんなバカなことするとは思わなかったよ」


 あくまで準備のために集められた兵士など物の数ではないが、この騒ぎで鐘を鳴らされた。とっくに脱獄に気づいているだろうグレインなら、俺がここにいるとすぐにわかるだろう。


 町中をアイツの電光石火らしき光がグングン近づいてくる。その他大勢の帝国海軍兵下たちも、すでに港へ迫っている。

 となりのシルバーウィンド号からも、全員が俺という魔王に匹敵する脱獄囚の”ヤケッパチ”に対応しようと必死だ。


「囲まれてもどうとでもなるが、別に恨みはねぇ。死にたくなかったら海に飛び降りろ」

「我らは誇り高き帝国海軍だぞ!」

「その帝国海軍にまだ属してないグレインがここに来るんだよ。アイツは金のためにエルフの山三つ焼いたんだぞ? これからグレインが帝国海軍に世話になるなら、余計な給金払いたくねぇってだけで殺すぞ?」


 なによりここでグレインと俺とで戦いになったりしたら、その余波でタダでは済まないだろう。

 しかし、なかなか踏ん切りがつかないようだ。口だけではないのは見事なことだが、これ以上下手な犠牲は出したくない。


「はぁー……”サイクロン”」


 ニオの計画では好きにしろとあったので、適当に何人かへ低級風魔法を食らわせてやる。

 低級とは言っても、俺ではいくら加減してもズタボロになってしまうが。


「それで言い訳つくだろ? とっとと飛び込めよ」

「くっ……総員、海へ逃げろ……」


 指揮官らしき男の命令に、怪我人を担いだ兵士たちが落ちていく。

 代わりに、怒りの形相で血管のはち切れそうなグレインが雷鳴と共に飛び上がって表れた。


「貴様という男は、つくづくこの俺の邪魔をしてくれるな……!」


 剣を抜き、刃に稲妻を走らせた。青いはずの瞳が怒りと憎しみで真っ赤に染まっているようだった。


「いくら追い詰めようと、牢屋に閉じ込めようと無駄だというなら俺の手で終わらせてやる!! 貴様も抜け!! 風を纏わせ、ここにて俺と戦え!!」

「――グレイン、なんでそこまで俺のことが憎いんだよ」

「憎しみだけだと思うか……!?」

「いーや思わねぇ! 長い付き合いだ。テメェがそんな短絡的な奴だとは思えねぇよ。だからわかんねぇ! 何が気に食わなくてサンランページを乗っ取って、たぶんだが提督までいつか裏切って――なにがしてぇんだかサッパリだ」


 言葉に詰まれば暴力に訴えるような奴ではないはずなのだ。

 もっと頭を使うはず。余計な争いはひかえるはず。

 だというのに、グレインの謎の怒りは収まらない。

 

「貴様のような金しか頭にない愚か者にわかるか!」

「悲しいねぇ……同じく長い付き合いだってのに、テメェは俺のことそれくらいにしか考えてねぇのか」

「違うというとでも言うつもりか!」

「俺はもっと紳士的で、優しくて思いやりがあって……最近女に運がある」


 瞬時にかがむと、足元に伸びていたスルスルと引っ張られていくロープを掴んだ。そのまま一気に引っ張られて甲板を転がっていく。


「何のつもりだ貴様!!」


 一瞬訳が分からないといった顔をしたグレインだが、駆けつけてきた数えきれないほどの帝国海軍兵士たちと共にすぐに追ってきた。

 止まってやりたくても、俺は引っ張られる先――出航した隣のシルバーウィンド号へと向かっていくのだ。


「誰が操っている!? クソッ! ゼノもシルバーウィンド号も止まれ!!」

「止まれって言われても、出航準備出来てる船に俺がさっきから突風浴びせてるから波に乗っちまったあぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」


 当然だが、甲板を引っ張られて行き付く先は海だ。ロープを握っている限り真っ逆さまに落ちていき、冷たい海へと落ちていく。

 見下ろすグレインは必至な顔で、落ちた俺は溺れかけている。

 一触即発なところへ、シルバーウィンド号から陽気な声がした。


「ありがとね裏切者さん!! ゼノを殺すために絶対そっちにみーんな連れて行くって思ってたよ!!」


 なんとか浮き上がると、ニオの陽気で楽しげな声が風に乗って耳に届く。

 海の上を引っ張られながら、ニオによる煽りは続いた。


「おかげでこっちもみーんな乗る暇あったよ!! 出航準備から防衛を手薄にするまで、何から何までありがとーう!!」


 グレインの「とっととこの船を出して追え!」との怒鳴り声が聞こえてくる。おそらくまだ正規の船乗りが~とか言われたのだろう、「あの子娘と乗組員を皆殺しにしたら奪い返してやる!」とも聞こえた。


 そもそも俺を殺したきゃ、海に雷落とせばいいものを。怒りと動揺で判断が鈍っているようだ。

 そしてエルドラード号各所からの爆発音と共に、グレインの怒鳴り声はかき消え、悲鳴とニオの笑い声が聞こえてきた。


「その船もったいないけど昨日忍び込んだ時にたーくさん爆薬仕込んでおいたから!! 気を付けてね!! それじゃお先にフルーブデゾーロで待ってるよ!!」


 あの野郎、帝国海軍兵士から衛兵までとことん集まってる中、全力でグレインの邪魔した挙句に今後の立場が悪くなりそうなこと叫びやがった。


「……海賊め」


 冷たい海の中ロープをたどり、一人呟いたのだった。

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