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少年は聖女の証を宿して 下

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


やりきりました!書いてて楽しかったです。

数ヶ月は風のように過ぎ、いよいよ王子と聖女使いの結婚式を迎える。王都中心にある大きな教会、ウェディングドレスに身を包むリーリムは、メイド達からずっと祝福されていた。この日のためにと駆けつけた彼女の両親も、娘の晴れ舞台に喜んでいるようだ。


そんな部屋の隅で、死んだ目をするラティ。式なんてどうでも良かった。今まで通りに戻っただけのはずなのに。魔法攻撃を受けるより辛い痛みに襲われ続けた結果・・・もうとっくに、感情など捨てていた。幸せなど、望まなくなるほどに。


そんなラティの状態を表すかのように、式当日の天気はかなり悪い。ここ数ヶ月やけに天気が悪いのだが、今日は朝から雨が強く、遠くでは雷鳴も聞こえる。しかしスケジュールも決まっているので、式はやらざるを得ない。「天気には勝てないわ」と、リーリムは仮面を付けつつ悔しがっている。


リーリムの入場にて、ドレスの裾を持つ役をやらされたラティ。男手が欲しいとか言われたが、どうせ式でパフォーマンスする、回復魔法ほしさだろう。どうせなら決まりを破って、回復魔法を発動させないでやろうか。そうすれば、解放されるかもしれない。魔物の森に置き去りにされようが、カルムを探すチャンスが出来るかもしれない。


しかしイスティア家一同の強い睨みが、彼の行動力を鈍らせる。言うことを聞け、無駄なことをするな。その恐怖が、彼をまた屈服させるのだ。


いつの間にか、指輪交換は終わったらしい。流れでは口付けの後、聖女使いによる回復魔法による光の祝福を行うのだ。つまり、ラティの力が必要になる。神父が色々話す中、こっそり力を準備するラティ。


そこには感情など無い。諦めて全てを捨てた、空っぽの心しか・・・・・・。



ーーーな、なんだお前らは!?今は神聖な・・・うわっ、おいっ!!



教会の外がやけに騒がしい。悪天候の中見張っていた兵士が、突然慌てだしたようだ。その声は、静かな式場にも聞こえてくるほど。やがて何やらドタバタと音がしたと思えば、バンッッッ!!と蹴り飛ばされた教会の扉。


そこにいたのは、ずぶ濡れになった男。黒髪とつりあがった目、見覚えのある衣服。



「・・・・・・カルム、さん?」



ザワザワと、参列者が騒ぎ出す。あれは第三軍の奴じゃないか。まさか、思い人の聖女使いを連れ去りに来たのか?あらぬ考えが次々と囁かれ、王子は「リーリム、どういうことだ?」と困惑する。「滅相もありません、あんな男存じ上げませんわ!」と、リーリムは慌てて否定する。


そんな中でも、カルムは1歩ずつ近付いていく。「ソイツを取り押さえろ」と王子が声を出そうとするが、それより先にラティはゆっくり、思い人であるカルムに近付いていく。やがて2人は、バージンロードの中央で向かい合った。


「・・・・・・カルム、さん」


ポロリ、またポロリと、ラティの瞳から零れていく涙。


「悪いな、何も言わずに去ってしまって。でもあの日、どさくさに紛れて国王の血を引く俺を消そうとする計画が出てると、進言を受けてさ。それで、何も言わずにここから離れたんだ」


一瞬静かになりかけた会場で、ざわめきが一層大きくなった。第三軍に、国王の血筋が?しかも、消されそうになったって?どういうことですか!?と、第一王子ですら国王に問いかける。国王は何も言わず、ばつが悪そうな顔をしているばかり。ラティもカルムが王子様だと分かり、目を丸くしている。


「でも、ずっとお前のことは見守っていた」


扉の隙間から、ずぶ濡れの烏が飛び込んでくる。よく見ると、足に小さな魔法石が付いているようだ。


「この魔法石、周辺の映像や音を記録できるんだ。例え傍にいられなくても、こうやって影から見守っていれば良い。静かに見守っていれば良いと思っていた。


でも、ここに残るお前はずっと苦しんでいたよな。ずっと泣いて、ずっと自分を押し込めて・・・。ここにいても、お前が幸せになれるはずがない。それにやっと気付いたんだ」


カルムはサッと跪くと、ラティに向かって手を差し伸べる。


「ラティ、俺はここからお前を連れて行きたい。俺ならお前を幸せにしてみせる。もう酷く辛い思いなんかさせない。誰かに縛られることなんかさせない。お前をお前として、全て受け止めてやるから。


だから、この手を取ってほしい。俺と共に来てほしいんだ!!」


第一王子と聖女使いの結婚式にて、第三軍兵士が聖女使いの使用人へとプロポーズをする。突然の状態に、周囲にいる人々はどよめくばかり。しかしラティには、ずぶ濡れになったカルムしか見えていない。嬉しいはずなのに、ずっと涙が止まらない。


「で、でも、僕・・・僕は・・・」


今までずっと、道具として生きてきた。リーリム・イスティアが聖女使いとして活躍できるよう、回復魔法の力を代役する。それだけのために生きてきた、いや、生かされてきた。


自分をずっと押し殺し、求められたことだけしか許されなかった。この場面も、リーリムの晴れ舞台をぶち壊し、イスティア家の者からの視線が痛い。


「ラティ、もうお前は自分を殺す必要なんて無いんだ。ずっとお前はそれで苦しんでいたんだ。何度も言う、俺はお前を幸せにしたい。お前が望む方に進んで良い、お前の声を聞かせてくれ」


そんなラティでも、ずっと優しげに見守ってくれるカルム。1度は諦めた思いが、再び芽生えていく感覚。ここで逃してしまえば、もう2度と幸せを掴むチャンスが無くなってしまうだろう。もう、イスティア家の者の視線など気にしていられなかった。



「連れて行ってください!僕を、貴方の元に・・・!」



震えながらもそっと置かれた手を、カルムはしっかり掴む。そして立ち上がりそのまま強く抱き締めると、「ああ、約束する」と優しく耳元で囁いた。その言葉が嬉しくて、ラティは久しぶりに心から笑顔と幸せに満たされる。


思わず、ラティは泣きじゃくった笑顔のままカルムの胸に飛び込む。


刹那、ラティの体から真白な光が現われ出し、妖精が羽ばたくように彼らを包む。


まるで、結ばれた2人を祝福かのように。


さらにはその光が豪雨の空に向かい、降り続いていた雨が途端に止んだ。分厚い雨雲が急に切れ、久しぶりの日光と青空が王都の上空に広がっていく。人々のざわめきが、さらに増すばかり。


「あ、あぁ!?これは、聖女様のお力・・・!」


神父の言葉に、バッとラティに視線が集まる。


「なっ、どういうことです神父様!?」


「えぇ。今まで王族の血を引く者と聖女が結ばれた暁には、聖女様から真白な光が放たれるのです。これからのお2人の幸せを願うため、ですな。この光は「祝福の光」であり、王族の血を引く者と選ばれた魔導師が結ばれた時のみ見られるのです。


さらに優れた魔導師は、感情によって天候に影響を与える力があります。無論、今まで聖女に選ばれた魔導師も皆、このお力を持っております」


本当か!?と大声を出す第一王子。リーリムを一旦置いておき、ラティの元へと駆け寄る。


「そ、そこの使用人!どうやら君は、聖女に選ばれた魔導師の可能性があるぞ!その力で、この王国はさらに豊かになる・・・」


だがラティに伸ばされた王子の手は、隣にいたカルムにガッ!と掴まれる。先程までの優しげなカルムと異なり、冷え切った光の無い瞳で王子を睨み付ける。



「コイツに触るな」



威圧感のあるカルムの低い声。メキメキと、あわや腕でも折るのかと不安になる強力な握力。ヒィ!と情けない声と共に、王子は慌てて距離を取る。ラティをこれ以上、この国に縛り付けなどしない。もうその意志を変えるつもりなどなかった。


「もうお前には、王妃となる聖女使いがいるだろうが。国にも認められてるんだ、コイツと同じくらい使えるだろ」


「えっ、なっ!?」


当たり前のことを言っただけのカルムだが、リーリムは一瞬ギクッとした。今までの回復魔法の力は、全てラティによって誤魔化しているのだ。ここで連れ去られる訳にはいかない!またもや虚弱で心優しい娘の仮面を付け、大根役者の演技をする。


「お、お待ちになって!その使用人は、私が幼い頃からずっと支えて下さったんです。彼のことが大切なんです!彼がいなくなったら、私・・・もう、どうしたら・・・」


グスングスンと聞こえる泣きじゃくり。周囲は同情の目を向けているが、これは完全な嘘泣きだ。既にカルムも理解しているのか、魔法石のとある音声を再生させる。



“いい加減になさいよ、出来損ない!”


“誤魔化すくらい、子どもでも出来るじゃない!”


“アンタはイスティア家のために利用されるのが決まってるの。余計なことは考えないで頂戴”



「こんな汚い言葉をかけておいて、大切だと?都合が良い女だな」


手で覆うリーリムの顔は、どんどん青くなっていく。「リーリム様が、あんな暴言を?」「利用とはどういうことだ?」と、イスティア家の者も揃って、ジロジロくる視線にうろたえてばかり。今まで騙していた分、この裏切りは大きいだろう。もう頃合いだろうと、カルムはラティの肩をグッと寄せた。


「俺たちはもう、この国にいる意味が無いしな。失礼させてもらうぜ。聖女使いとの婚約おめでと、義母兄(にい)さん」


そのまま教会の外へと走って行くが、第一王子が「ま、待て!」と慌てて叫ぶ。


「せ、聖女の可能性がある者を逃がすわけにはいかない!それにその黒髪、我らの結婚式を妨害して・・・ソイツは罪人だ、捕らえろ!!」


その声を無視して、カルムはラティを抱きかかえ、教会の扉を再び蹴り開けた。目の前の入り口にいた兵士は、突如現われた狼のモンスターの群れに苦戦しているようだ。一瞬驚くラティだが、カルムは騒動で混乱する現場をすり抜け、狼の引く車(ソリと言うのが正しいか)に飛び乗る。その車にはカルムと同じく消えていたナストニアが、制御人として乗っていた。


「ナストニア、出してくれ!」


「仰せのままに」


ナストニアが指笛を吹くと、車を引く狼たちが遠吠えを始めた。それを合図に、兵士を相手にしていた狼たちもピタリと止まる。車が進んだと同時に、群れは一斉に移動していく。「後を追え!」と、慌てて追いかける兵士達。やがて騎士隊も導入された。


「くっ、アイツら意外と早いな!?」


「このままだと、ずっと追いかけられますね。一気に引き剥がすか、こちらが瞬間移動でもしないと、埒が明きません」


「瞬間移動・・・」


ラティはグッと力を入れる。本当か分からないけれど、自分には力がある。今までずっと、回復魔法の力しか使うことしか出来ないと思っていた。


でも彼らを救いたい、僕をこんなにも見捨てずにいてくれた彼らを・・・!!



「瞬間移動の力よ、我が手に・・・・・・!!」



刹那、眩い真白な光に包まれた狼の群れ。その輝きに、追ってきた騎士達は目を瞑る。やがて光が消えると、黒髪の男に逃げた魔導師、狼の群れの姿はどこにもなかった。


その日、王都からとても離れたどこかの地。魔物使いと狼のモンスターの群れが、隠し子の王子とボインセチアの印が付いた魔導師の門出を祝福したという。





今回の騒動後、第三者機関がリーリム・イスティアの魔力を再度調べたところ、彼女からは一切回復魔法の力が無いことが明白になった。聖女使いの執務に大量の支障が生じたことから、もはや言い逃れは出来ないだろう。これを機に、過去の虚偽報告が次々に露呈する。


イスティア家は呆気なく取り潰し。不正に関与した者は皆、最果ての地に飛ばされたという。リーリムや彼女の両親などはその地にて、過酷な従事労働を余儀なくされた。


隠し子問題や暗殺計画、国家の財政難を長い間放置したこと、さらには聖女使い選抜にてあった不正を見逃したことから、信用をなくした国王と第一王子は揃って失脚。ブレイズ王国は、王政自体が崩壊した。新たな主導者でも立てるのか、新たな制度でも導入するかは、これからあの国を改革する者に任せるつもりだ。


ラティは現在、ブレイズ王国から幾つも山を越えた場所、カルムの実家バセット男爵家に住んでいる。貴族特権はほぼなく、屋敷や領地はそこまで豊かではない。そんな大変な環境での生活だが、屋敷や王城にいた時よりずっと幸せだった。もう誰も騙したり、利用されたりすることなど無いのだから。


ナストニアが束ねるモンスターの群れを世話したり、カルムの男爵家経営を手助けしたり、荒れた領地を少しずつ開拓したり。忙しくも、充実した日々を送っている。


ちなみにカルムには「ブレイズ王国に戻ってくれ」という旨の連絡が何度も来ているが、彼は断固拒否を貫いている。曰く「俺の大切な人を苦しめておいて、何様のつもりだ」ということらしい。怒っている彼にハラハラする一方、そんなに思ってくれていたのかと嬉しいラティ。


ところで・・・王都を離れてからというもの、ラティのお腹にあったボインセチアの印が、以前と比べ薄くなっている気がした。あの時の瞬間移動で弱くなったのだろうか?それとも、この印は王都にいるときだけ示されるモノ?まだまだ謎が多いボインセチアの印だが、このままだと本当に回復魔法の力が消えそうで、内心焦っている。


それでも、ラティに不安は無い。聖女の称号や回復魔法の力だけではなく、自分を必要としてくれる人がいるのだから。


「お前を聖女の力欲しさで見る奴はいなくなるし、別に良いんじゃないか?


まぁ、俺はそんなモノ無くても、好きなお前の傍にいたいけどな」


そう言ってくれる彼とこれから、どんなことがあるのだろうか。今、生きるのが楽しみでしょうがなかった。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


しばらく毎日投稿出来てましたが、これでストックが尽きます。またコツコツ書くので、次の投稿はもう少し待っててくださいね!


2023/06/12 追記

1000PV超え&ユニーク500人超え、ありがとうございます!!

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