少年は平凡に暮らしたい。
読んで頂きありがとうございます。
リベラ国の使者の一人としてメリベル国にやってきたクルト・ローレンは国王陛下の前に膝をつきながら思った。
「あ、詰んだ」
※
魔獣との戦いが始まったのは5年前
この世界に魔獣が突如現れ様々な国が被害にあった。
そこで全世界が協力して魔獣討伐に参加した。
その中心となったのが獣人が多くいるメリベル国だ。その次に魔法が特化している軍事国の我が国リベラ国だ。
俺は徴兵され、魔力が高かったから最前線に送り込まれた。仲間が次々とやられて上官が真っ二つになってしまった後は死を覚悟したが、他の奴らは上が居なくなると慌てる事しか出来なかったから俺が指揮をとるしかなかった。
援軍が来るまではかなりの時間が掛かり、仲間を死なせないようにしつつ魔獣を倒していくのはかなり大変だった。
援軍が来て周辺の魔獣を倒した後は、全体への指揮をとる能力を認められそのままその隊の隊長に任命されてしまった。
その後、メリベル国の軍人と協力し魔獣を次々と倒していく。
戦争が終わったのはそこから2年後
まだ世界に魔獣はいるが危機的状況は脱したと思われ、今後も周辺国と協力しながら全滅を目指す。
ところで俺はと言うと……
そのまま軍に残ってもいいとされていたが、元々軍人志望でもなかった為あっさり辞めた。
いや、辞めようとしたのだが上官が辞めさせてくれなかった。
その頃の俺はメリベル国の獣人とかなり打ち解けて顔が利いていた為、手放すのは惜しかったのだと思う。
けど俺だってせっかく戦争が終わったのだから故郷に帰りたい。
正直嫌すぎる。
そんな俺の気持ちを察知したのかリベラ国の使者として働くのはどうかと言ってきた。
実力があるから使者の護衛としてもいけるし、言われた事をするだけでいい思った俺は「それなら……」と言った。
そして、戦後の後処理が落ち着いた頃メリベル国へ行く様に言われ他の使者と共に向かった。
早速国王陛下に謁見する事が出来たのだが……。
今すぐ逃げたくなった。
国王陛下にじゃない。
その周りにいる、軍人が見知った顔ばかりだったのだ。
それもそうだ、俺は前線を駆け抜けていたから1番獣人と距離が近く協力して魔獣を倒していた。
……まさかその時の奴らが上層部になっているなんて思わなかったんだよ。
だが俺はその頃、魔獣の返り血でかなり汚かったし髪だって伸ばしっぱなしだったから今の俺とは分からないだろうと思う。
髪も短くしてさっぱりしたし爽やか青年になってるはず!
うん、大丈夫!!バレない!バレな「久しぶりだな」……なんで?
そろりと顔を上げるとそこにはかつて共に戦った戦友がいた。
しかもそいつとはどっちが強いかで揉めて大喧嘩をしたのだ。
「……なんで分かったの?」
「あぁ?お前オレが獣人だって事忘れてねぇか?匂いを嗅いだらすぐに分かった」
「………。」
「お前との勝負はまだついてねーぞ」
「はぁ!?俺が勝ったんだから俺の方が強いに決まってんだろ」
「いーや、あの時は魔獣との戦いで怪我をしていたから本気が出せなかったんだ」
「ぶさけんな!俺なんか腕を骨折してたんだぞ!!」
ギャーギャーと喚く俺たちをメリベル国の上層部が見てざわつく。
「え、嘘だろ」
「まさか…あいつなのか?」
いくら魔力があるからと言っても獣人と人間。
力の差はあるはずだがそこは俺の力技。最終的には魔法でなく絞め技で勝利した。
俺たちの大喧嘩で魔獣だけでなく周辺の仲間にも被害が出た為、危険人物にされていた。
くそっ、こいつのせいでバレたじゃねーか!
「久しぶりだな」
顔見知りの奴らににやりと笑うと「ひぃぃ!」と悲鳴が上がる。
勝負だ!とうるさい奴に関節技を決めながら今後の事を考える。
まさか速攻バレるとは思っていなかったから。
「うぐぐっ…」
「うん、辞めるか」
「え……」
めんどくさいの嫌いだし、別に仕事は他にもあるし。
なんて思っていたら同じリベラ国の使者に辞めないでぇー!!!っと泣きつかれた。
おっさんの涙でぐちゃぐちゃの顔は流石に見たくなかった。
仕方ないからもう少しだけ頑張るか。
ちょっと中途半端に終わってしまいました。