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第7話 王宮にて


 燃えさかる火と炎の一角獣を目撃したあとのこと。


 一角獣の調査は続けて行うことにした。

 炎をまとう一角獣がいたとは言え、あれは特別な一頭だ。けれどあの一頭がいたことで、あのあたりにも彼らが生息しているかもしれないという希望がみえたのは一歩前進だ。

 水瓶の国の一角獣調査とロボット改良は言うに及ばず。


 もう一つ、第6拠点は撤退することに決定した。

 これはダイヤ国にも同意を得たことだ。天文台型移動部屋に加えて、新たに移動車を運べる移動部屋が増えるとなれば、拠点はもう必要ないだろう。

 それに時田が言ったように、あの地点に本格的な拠点を置くことは、何というか、この世界の意に反するように思えるからだ。


 そんな経緯があって、水瓶の国に演習に行く近衛隊は、天文台型移動部屋を使って一気に第6拠点へ行き、演習のあと拠点を解体して資材を持ち帰ることになっている。



 翌日、R4の移動部屋からハリスに背負われて降りてきた時田が、王宮広場で彼らを出迎えた丁央に、ハリスの背中ごしに大いに文句を言う。

「おい、丁央! なんだってあの素材がもうないんだよ!」

「後ろで騒がれるとうるさい、降りろ」

 騒ぐ時田に辟易したハリスが、ぽいっと時田を下へ下ろす。

「なんでって、時田さん。覚えてますよね、塩の水たまりを解消するときに、2つも移動部屋を作ったのを」

「ああ、もちろんだ」

「調べてみたらあれと今回の移動装置で、扉の素材は底がつきました。解体する第6拠点と今回の分を合わせても、移動部屋を制作するとなると足りませんよ」

「うわあー、なんてこったー」

 頭をかきむしる時田に、何やら考え込んでいたトニーが提案する。

「だったら……、丁央、たしか2台ある移動部屋の1台はまだ残っているよな」

「え? ええ、ありますよ。ブレイン地区の倉庫に」

 完全防水を施した2台の移動部屋のうち、無人の1台は、あのときに開いていた次元の扉に、溶岩とともに引き込まれてしまっていた、

 だが、もう一つの方は残っている。

「それを改良すればどうだ? 多分もうこちらの次元に完全防水の移動部屋はいらないだろうし、あれなら底が二重になっていて、強度も相当なものがあるだろう?」

「ああ! ホントだ!」

「それだ!」

 丁央と時田は同時に叫んでいた。


 そのあと、あろうことか時田は、新しい移動部屋作成のために、例の防水を施した移動部屋の解体作業を、このあとすぐに始めると言い出した。

「時田さん。まだ設計図も出来てないのに解体ですかあ?」

「ああそうだ。善は急げだ」

「って、ホントにせっかちなんですから時田さんは。俺が帰ってくるまで待ってて下さいよお」

「ダメダメ」


 うるさい彼らのやり取りに閉口したのか、R4の移動部屋はとっとと入り口を閉めて、またどこかへ行ってしまった。


「まあまあ、丁央。俺がちゃんと見張っててやるから、見る影もないほどにはならないよ」

 トニーが苦笑いして言うが、どこまで時田を引き留められるかわかったもんじゃない。

「とりあえず、俺たちは演習のあと、第6拠点を解体して戻ってきますんで、それまで何とかお願いしますよお」

 丁央が、トニーだけが頼りというように、その手を取って懇願していたときだ。

「おい、R4なんでまた来たんだ?」

 時田が言うそばから、また空間がグニャグニャとゆがみ始め、R4の移動部屋の出入り口が現れる。

 さすがにトニーも丁央も慣れっこになってあまり驚きはしなくなったが。

 フォンと音がして扉が開き、中から出て来たのは。

「さすがに早いなR4の移動部屋は。ああ、丁央。トニーと時田も、ただいま」

 なんと、斎だった。

「多久和さん!」

 丁央が驚きながらも嬉しそうに言う。

「どうしたんですか?」

「R4が迎えに来てくれたんだよ。早急に設計図がいるって言って。いったいなんの設計図なんだい?」

 なんと、時田がまた暴走しようとしているのを知ったR4が、斎を連れてきたのだった。

「え? 多久和さんが新しい移動部屋の設計図を書くんですか?」

「新しい移動部屋? ああ、昨日言ってたやつか」

 そこまで聞いて丁央は何故かむくれたようになる。

「だったら俺も残って、……けど俺は国王としての責任が、けど多久和さんが設計図を引くんだよな。いいなあまた一緒に仕事したい、だけど、だけど、……うわあ、どうすればいいんだよお」

 頭をかきむしりだした丁央の隣で、トニーから事情を聞いていた斎が頷きながら丁央に言う。

「大丈夫だよ丁央。これから僕が防水の移動部屋を見に行って、解体するにしても再利用できるものはそのままにしてもらうから。そのあとは音声画像をフル活用して相談しながら設計図を書いていこう。これでどうだい?」

「多久和さん……」

 斎の言葉に感激して、うるうると涙目になっている丁央。

「良かったな」

 トニーにポンと肩を叩かれて、「はい!」と返事をした丁央はガッツポーズなどしている。

 そんな丁央を苦笑しながら見ている斎と、「だったら早く行こうや」と、2人をせっつく時田。

「マッタク、世話の焼けル、人たちデスネ」

 彼らのやり取りを、プンプンと怒った〈ように見える〉顔で言うR4に、そっと斎が声をかけた。

「ありがとうR4。僕たちのお守りも大変だよね」

 するとR4は、「なんノ、これしき」と、ちょっとだけ機嫌を直したご様子。

「斎ガ、いれば、もう、ダーイジョウブ、だね」

 などと他のメンバーには失礼な発言をしたあと、

「じゃあナ」

 と、また扉を閉じてどこかへ行ってしまうのだった。



 王宮広場で、斎とトニー&時田と別れた丁央とハリスは、近衛隊長・副隊長とハリス隊が待つ執務室へと急いだ。

「悪い、待たせたな」

 丁央が執務室の扉を開けると、くつろいだ様子であちこちにいた隊員が彼を見る。

「あ、国王。ほーんとに遅いんですからあ、待ちくたびれましたよー」

 蓮がちっとも待ちくたびれていないように言うと、

「ほーんと、待ちくたびれましたよお」

 と、その蓮と肩を組んで楽しそうに言うカレブ。

「遅い、遅い」

「待ってたご褒美、おくれ、おくれ」

 肩を組んだまま歌うように言って横揺れしながらはずむ2人。

「まったく」とため息をついて言うハリスだったが。

 そんな2人の後頭部を、バシッバシッとはたくのは、ゾーイだ。

「いい加減にしろ」

「いってえー、なんで俺まで」

「お前とカレブは同類だ」

「あーひでえ」

 などと言いながら、隣のカレブと笑い合う蓮。


「もうトニーたちとの話し合いは終わったんですか?」

 ふざける2人はとりあえず置いておいて、ゾーイが丁央に問いかけた。

「ああ、移動車を運べる移動部屋は、今、ブレイン地区の倉庫に保存されている完全防水の移動部屋を改良して、新たな移動部屋としてよみがえらせることになった」

 ふむふむと頷きながら聞いていたカレブが、はーいと手を上げて言う。

「問題。今、国王は何回移動部屋と言ったでしょう」

「は?」

「はあ?」

 カレブの突然の発言にぽかんとする者たちの中、レヴィがひとり指を折っている。

「えーと、移動車を運べる~、完全防水の~……、はい! 3回です」

 皆が思わずカレブを見るが、当の本人はどうやら数えていなかったらしい。「あーどうだったかなあ」などとへらへら笑っている。

 すると今度はティビーがカレブの後頭部をパシンとはたいて言う。

「正解だ。お前も問題を出すのなら、回答まできちんと考えてからにしろ」

「てへへえ、けどさっすがティビー」

 ふざける隊員たちに、そろそろ活を入れた方が良いかとハリスが口を開きかけたところで、

「お前たち、そのくらいにしておけ」

 と、イエルドがよく通る声で彼らを制した。

「はーい」

「は~い」

「はい」

 すると、蓮、カレブ、レヴィの3人は揃って良いお返事? をした。

 ハリスは納得したように頷くと、自分の留守中を預かってくれたイエルドに、あらためて手を差し出した。

「よく留守を預かってくれたようだな、イエルド。感謝する」

「いや、これも俺の仕事だ」

 2人ががっちりと握手したところで、丁央がコホンと咳払いで皆を注目させる。


「まあ、皆の連携がとれているのは、国王として本当にありがたいよ。あらためて礼を言う。皆、いつもありがとう。………って、なんだよお前たち、しんとして」

 今度は丁央の発言にぽかんとする隊員。その一部が大騒ぎを始める前に、丁央は急いで次の言葉を繰り出した。

「で、だな。俺と近衛隊はこのあと、準備が整い次第、天文台型移動部屋で第6拠点へ向かう。イエルド、出発までどのくらいの時間がかかりそうだ?」

「はい、国王さえよければ今すぐにでも」

 イエルドの言葉に、ヒュウ、とカレブが口笛を吹く。

「さすがイエルド、俺ですら口笛吹きたいぜ。けど俺は前国王に会わなきゃならないから」

 と、執務机の時計を確認して言う。

「1時間後にブレイン地区の天文台型移動部屋の前に集合だ」

「了解」

「イエスサー!」

 イエルドと蓮の2人は、返事をすると執務室をあとにした。

 そのあと丁央がハリスの肩を軽く叩きながら言う。

「ハリスはこのあと休暇だ。ご苦労だったな。で、隊長が休みなんだから、当然隊員も休暇とっていいぜ、どうする?」

 隊員たちから「休みなんていらない」と言われるかな、と思いつつ他のメンバーに聞くと、彼らは何故か、ニンマリしたりニカーっとしたり、とても嬉しそうだ。

 気のせいかゾーイまで口の端が少し上がっている。

「んん? なんだ?」

 丁央が眉をひそめて聞くと、ハリスがとても言いにくそうに説明する。

「なんだかこいつら、あっちへ行きたいって言ってな。クルスに聞いたら快く許可してくれたんだ、だから」

「SINGYOUJIホテルに行ってきまーす! イエイ!」

 ハリスの言葉を引き継いで、カレブが嬉しそうに言う。

「綴に聞いたら、まだ海で泳げる気候だそうです、楽しみですわ」

 パールが隣のティビーとうなずき合う。

「新作のネイルもあるようだしな」

 ワイアットが顎に手をやりながら言うと、花音が嬉しそうに頷いた。

「え? ええー!」

 丁央がまた頭をかきむしったのは言うまでもない。

「俺も行きたーい!」ってね。


 衝撃の? ハリス隊バカンスツアーの話を聞いてしまったため、ぶすっとしつつ前国王が日中執務している部屋へと入る丁央。

「失礼します」

「おお、丁央、よく来られた。……むむ? どうした? 腹でも痛いのか?」

「まあ、それは大変」

 丁央が笑顔でいないのは珍しいことだ。なので前国王は丁央の体調が悪いのだと勘違いしたらしい。その前国王のセリフを聞いてお茶の準備をしていた前王妃が少し慌てている。

「お腹が痛いの? まあ、冷えたのかしら。寝るときはきちんと腹巻きしてる? お薬を用意させましょうか」

 勘違いしている2人に、今度は丁央が慌てて言う。

「いいえ! 腹なんて痛くないです。他にも悪いところはなくて体調は万全です!」

「そうか、それなら良いのだが」

「気を遣わずに何でも言うのですよ」

 この夫妻は、実の娘の月羽よりも丁央の事が気になるらしい。だが、自分のことを実の息子のように扱ってくれるのがとても嬉しいしありがたい。

 だからそんな2人に心配をかけたことが申し訳なかった。

「ありがとうございます。ええっと、それで、ここへ来たのは、しばらく留守にしますので、父上に留守中の事をお願いに」

「ああ、わかっておる」

「月羽も同行するのですね」

「はい、今回は危険度が低いと思われますので」

「ならば安心。さて、それでは引き継ぎ事項を聞こうかの」

「はい」

 丁央はお茶を飲みつつテキパキと引き継ぎの説明を済ませ、部屋をあとにした。

 それから執務室に帰り、緊急の要件がないことを確認すると、いったん自宅へと帰るのだった。


「ただいま」

「あら、おかえりなさい。ええっと、大体の準備は整えたんだけど、あとは自分でパッキングしながら確認してくれる?」

 王宮近くの落ち着いた住宅街、その入り口に一番近い所にあるのが、代々国王が住まいしている家だ。

 丁央がリビングに入ると、ソファには蓋が開かれたトランクケースが用意してあり、横のテーブルには丁央が出張に行くときにいつも持っていく物が、だいたい揃えておかれている。

「サンキュー月羽」

 丁央はそれらをケースに次々詰めていく。最後の荷物を詰め込んで蓋を閉めると、月羽に頷きながら言った。

「うん、さすが月羽、完璧。ありがとうな」

「どういたしまして」

 その月羽は当然、すでに用意を終えて準備万端だ。

「んじゃ、行くか」

 ケースを床に置いた丁央が、「あ」と何かに気づく。

「どうしたの?」

 尋ねる月羽の腰を引き寄せて「忘れ物」と、丁央はその唇にKISSを落とすのだった。


 玄関から外へ出ると、2台のダブルリトルが待っている。

 ご存じだろうが、ダブルリトルというのは、一角獣に乗れない子どもやお年寄りにも自由にあちこち出かけて欲しいからと、泰斗たちが中心になって開発した1人用の乗り物だ。

 小回りの利くそれは、大きな移動車が仰々しいと感じるようなとき、まさしく今のような場面でちょくちょく使われている。

 大人と幼児2人くらいなら余裕で乗れるそれにトランクを積み込んだ丁央と月羽は、うなずき合ったあと、ブレイン地区、天文台型移動部屋に向けて飛び立った。

 2人が到着すると、もうすでに近衛隊の第1班が移動部屋に乗り込んで出発の準備を整えていた。

「悪い、遅れちまったかな」

 丁央が言うと、蓮が「早いくらいですよお」と言う。

「まあでも、さっさと行ってとっとと帰ってきて、交代して欲しい所ですけどね」

 蓮がふざけて言ったように、さすがに近衛隊が全員王宮を離れるわけにはいかないため、演習は2班に分けて行われることになっている。

 第1班は、イエルドが率いる第1から第4までの部隊。

 第2班は、蓮が率いる第5から第8までの部隊だ。

 蓮が隊長って、大丈夫~? と思った人のために(なんだよお、それはあんまりだよお、と蓮が文句を言っているが)言っておくと、第5部隊の隊長が、イエルドに負けず劣らず生真面目で厳しい人物なのだ。

 けれど蓮が無能と言っているわけではない。彼は十分すぎるほど有能で、いくつもの部隊を率いる度量はもちろん持っている。だが、いかんせん遊び好きな所もあるため、脱線したときの引き締め役が必要だ。それが第5部隊長と言う訳なのである。


「じゃあ、留守中の事はよろしく頼むぜ、蓮」

「イエッサー!」

 さすがにこのときは綺麗な敬礼を見せて、蓮は丁央に応えた。


フィン……

 涼やかな羽音のあと、グニャグニャと空間がゆがみ始め、天文台型移動部屋は陽炎のように消えていった。








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