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第6話 燃えさかる火


 先に世界の果てへ落ち込んで帰ってきた時田は、明日の出発の準備を終えると、最後の調整に設置現場へ向かおうとして。

 ふと、そこに置かれた筒のような装置に目をとめる。

「なんだこれは?」

 近くにいたチーム斎のメンバーに聞くと、どうやらそれは望遠鏡と言って、琥珀が持ち込んだものらしい。

 使い方を教えてもらって覗いてみたが、見えるのはやはり延々と続く世界の果て。

「なんだ、ちっとも面白くねえ」

 などと言いながらも、そこはそれ時田のことだ。

 そのうち、望遠鏡を覗いたままクルクルと回り始める。

「やっぱりなんも見えねえなあ、お、こっちは砂嵐か。けど砂嵐はただの砂嵐だ。どれ、反対側を……」

 と、方向転換をしようとした時田は、勢いが付きすぎてぐるんと倒れてしまい。

「時田、何してるんだ」

 トニーが声をかけた時には、望遠鏡は砂嵐のある方向の、しかも上空を向いていた。

 言わずもがな、空は今日も晴れ渡っている。

「ああ! 時田さん、駄目ですよ。日の光をそれで見ないで下さいって、琥珀さんからきつく言い渡されてるんですから」

 チームメンバーが慌ててやってくるが、時田は望遠鏡を覗いたままだ。

「時田さん?」

「時田?」

「おい、トニー。通信持ってるか?」

「ああ、持ってるけど、どうしたんだよ」

「貸せ」

 そう言ってトニーから通信をひったくると、琥珀に連絡を入れるのだった。



「時田さん! どこですか?! どこにいるんですか一角獣!」

 ぐるんと飛び出してきた琥珀が、叫びながら時田を探している。

「あ、いた! え? 駄目ですよそれは太陽を直接見られるように調整してない!」

 琥珀が見つけたとき、時田は砂漠の上空高くに望遠鏡を向けて覗いていたのだ。

「まあまあ、ちょいと覗いてみな」

「え?」

 時田にそそのかされて? 琥珀は恐る恐る薄目を開けて望遠鏡を覗く。

 けれど次の瞬間には、思い切り目を見開いて中に映っているものを見ていた。


 砂嵐が空へ解けていく高い上空。

 時々砂の緋色に溶け込むようになりながら、紺碧の空を借景に。

 飛んでいたのだ。

 緋色の一角獣が。


「……燃えている?」

 しかもその一角獣は、背中まで一直線に生えたたてがみと、四本の足もとから炎が燃え上がっていた。

「火が燃えさかり、って、あいつのことなんじゃないの?」

 時田はのんびり言うが、琥珀にとってはこれは大発見だ。

「これは、急いで遼太朗に連絡しなくては! ああ、そうだ。水瓶の護りと泰斗たちにも、 ダイヤ国王と丁央にも……、それから」

 焦る琥珀の手に手を置いて、ララが落ち着かせるようにする。

「ララ……」

 頷いて手を離すと、ララは彼らより一歩前に進み出て、大地にしっかりと足を立て両手を広げる。

♪~♪♪

 そして心地よい呪文を唱え始めた。

 すると。

ザアーーーー

 金銀と、プラチナブルーと、ピンクシルバーがものすごい勢いでやってきた。

 リトルたちは、砂嵐の上に弧を描いて昇っていき、緋色の一角獣の回りを踊るように取り巻く。

 すると。

 リトルたちに誘われて、その一角獣が地表に降りてきたのだった。



 離れたところにいても伝わってくる炎の熱さ。

 首や足を動かすたびに揺れて燃え上がる炎は、とてつもなく美しい。

 ララに腕を取られていなければ、琥珀はフラフラと彼に近寄って炎に巻かれてしまいそうだった。

「なんて、美しくて、興味深い……」

 琥珀が一角獣に心を奪われていると、落ち込んだ世界の果てから泰斗たちがこちら側へ戻ってきた。

「琥珀さん、炎をまっとた一角獣って……」

 そこまで言った泰斗が口をつぐむ。

ブルウ!

 といななく炎の一角獣を目にしたからだ。

「わあ、ホントに火が燃えてる~」

「!」

 ジュリーはなぜかとても嬉しそうで、ナオは泰斗と同じく言葉をなくしていた。

「琥珀さん」

「うん、本当なら近寄って調べたいことがたくさんあるんだけど。けど、あいつは誰をも近寄らせないみたいだな」

 残念そうに言う琥珀の心境が、泰斗は手に取るようにわかる。自分だって、もし、見た事もないようなロボットが目の前に現れたら嬉しくてたまらないだろうから。

「そうですね。でも、何か方法はないのかな。うーん、防火服を着て近寄るとか、……あ、ロボット!」

「なんだ?」

「ロボットなら近寄れるかもしれませんよ。試してみる価値はあるかも」

 良いことを思いついたというように、琥珀に言う泰斗に、ララが待ったをかける。

「駄目よ、泰斗」

「え?」

「あの炎は、天の怒りと地の怒り。慢心で醜く肥大した心を焼き払うもの。近寄ることなどもってのほかよ」

「……ああ」

 ララの言葉に、素直に耳を傾けて反省する泰斗。

「ごめんなさい。あの子がどんな思いでいるか、考えていませんでした」

「わかれば良いのよ、その思いが一番大事」

 そんなやり取りをするララと泰斗の横で、ナオがふと言った。

「けど、なんであの子はここにいるの?」

「風が吹き荒れ、火が燃えさかり、よ。彼と砂嵐は外側の世界からこの地を守っている」

 すると不思議そうにジュリーが言う。

「でもさ、俺たちは砂嵐のこっち側にいるし、あの一角獣もなにを仕掛けてくるわけでもないよ? なんで?」

 ララは静かにジュリーの言葉を聞いていたが、しばらくするとその疑問に答えるように言う。

「私たちは、試されているのかもしれない」


「ふむ」

 彼らのやり取りを聞いていた時田が、何かを考えるように顎に手をやる。

「おい、トニー。通信貸せ」

「またか、今度は誰に連絡取るんだ?」

「丁央にだ」

「おいおい、この携帯通信じゃ、さすがにここからクイーンシティは無理だぜ」

 トニーが小さな音声画像装置を振りながら言う。

「移動車の通信なら大丈夫ですよ」

 泰斗が横から言うと、時田はニンマリと笑いながら言った。

「じゃあ、頼む」

 泰斗は自分たちの乗ってきた移動車へ行くとクイーンシティに通信を入れ、外の空間に画像を浮かび上がらせた。

「なんだあ、泰斗」

「よう、丁央」

「って、あれ? 時田さん?」

 てっきり泰斗からの通信だと思っていたそこに、時田がいたので丁央は首をかしげて言う。

「ああ、ごめん丁央。時田さんからの依頼なんだ」

「そうか。で、今度はどんなやっかいごとを持ち込むつもりですかあ、時田さん」

「やっかいごととは失礼な! 俺は、あの、天文台型移動部屋に使った扉の素材がまだ残っているか聞きたかったんだ」

「ええーと、あの高い壁の扉ですよね?」

 おかしな事を聞いてくるなと思いつつも、丁央は素材の残量を思い出す。

「たぶん……、今度の移動装置ならなんとかなったはずなんだけどな。足りませんでしたか?」

「いんや、十分だ。だが新しい移動部屋を作成するならどうだ」

 その言葉に、丁央はともかく、その場で通信を聞いていた全員が驚いている。

「なにを言い出すやら。おい時田、なんだそれは! また移動部屋を作る気か? なんのために?」

 トニーがさすがにあきれたように怒ったように言う。

「なんのため? 決まってるだろ、俺たちは今、移動車を運ぶための装置を作ってるんだ。だから今度の移動部屋は、普通の移動車を何台か運べるのを作るんだ」

「「はあ?!」」

 トニーと丁央が同時に声を上げた。

「と、と、時田さん? えーと、なんで? 今さら予定変更?」

「ここへ来てまたお前の気まぐれか! 俺が納得する理由を言え!」

 時田は2人の言い草にきょとんとしている。

「理由って……。トニー、お前もさっきのララの言葉、聞いただろ?」

「え? ああ」

 それと移動部屋とどういう関係があるのだと誰もが思っている。

「俺たちは試されている。その言葉でピンときた。なあ、もともとあの砂嵐はなんのためにあるんだ?」

 そう言って左右に延々と続く砂嵐を指さす時田。

「あれは、外から世界の果てを隠すため?」

 すると通信から丁央が言う。

「そう、それに加えて外からこちらへは決して通れないようになっているはずだ、本来ならな」

「けれど私たちは、星とリトルの導きでこちら側へ出られた」

 ララがつぶやくように言う。

「なんでだ? 試されてるんだよ。俺たちがジャック国みたいかどうか。もし今後、そんな気配を見せたならすぐさま」

「……風が吹き荒れ、火が燃えさかる」

 またララが、今度は心ここにあらずというようにつぶやいた。

「けどだな、なんでそれと移動部屋を作ることに関係があるんだ?」

 トニーが訳がわからないと言うように聞いている。

「ここには本格的な拠点を置くなってことだ。今あるヤツみたいな簡易型なら、そんなに大群は送れないが、もし移動車を何台も送るようなのを設置したら、いつまた侵略されるかわかったもんじゃない」

「まあ、そうだが」

「時田さん」

 すると、納得したトニーとは裏腹に、丁央が通信の向こうで手を上げて言う。

「大丈夫です! クイーンシティもダイヤ国も平和が何より大事だって思ってますから。それは両国王が自信を持って言えます!」

「駄目だよ……」

 それに反論したのは泰斗だった。

「丁央、今の僕たちなら必ずそれは保証できる。けど、僕たちにはキングの血が流れているんだよ。この先、僕たちの子孫が絶対に平和だけを願うのかと聞かれたら……、そんなことはもちろん認めたくないけど、けど、僕にはそれは保証できない」

 泰斗の言葉に、周りの皆が黙り込む。

 それを打ち破ったのは時田だった。

「だから移動部屋だ、丁央」

「けど時田さん。移動車を何台も乗せられる移動部屋だったら、同じ事じゃないですか?」

「ん? むむむ、そうか? ん? 言われてみれはそうだな……」

 丁央に問い詰められてあらためて矛盾に気づく時田。けれどそんなことであきらめる彼ではない。

「だったら、最大2台、いや、うーん、最大3台って事で手を打たないか? 移動装置なら連続で何台も送れるが、移動部屋なら1回に3台限りだ!」

「いや、俺は世界の果てじゃないし、何台なら良いかなんてわかりませんよお」

 あきれたように言う丁央に、ララが可笑しそうに言った。

「けれど時田。天文台型移動部屋がここに来られる時点で、私たちは充分試されているんじゃない? あれってかなり大型の重機や資材やロボットがたくさん運べるじゃない? なんなら移動車だって運べるわよね」

 とどめのように言われた時田は言葉に詰まったあと開き直る。

「うーむむむ……、だが俺たちは他を侵略したり支配するために移動部屋を使ったことは一度もねえよ。トニーも、チーム斎の連中もだ! 俺たちはただ純粋に、移動の利便性を図るためだけに拠点の材料と作業ロボを運んでるんだ。その上空間移動の研究もせにゃならん。斎とそのチームは建築に心血を注がにゃならん。この上移動車を運べとか言われたら、俺たちが忙しくなりすぎて倒れちまう。だからもういっちょ移動部屋を作れば万々歳だ。どうだまいったか」

 するとララは思わず吹き出すと、可笑しそうに笑い出す。

「アハハ、時田は本当に面白い。けれどそうね、あなたたちの移動部屋が戦闘ロボを運ぶのはすべてのっぴきならないときだけだった。ハリス隊や近衛隊だって、襲ってくる敵から仲間を守るためだけに戦っている。移動車を運ぶのも戦闘のためではない、か」


 ララは、この長い会話の間中、ずっとたたずみながらこちらを眺めていた一角獣の方を向く。

♪♪♪~

 そしてまた耳に心地よい呪文を唱え始めた。

 すると先ほどやってきたリトルたちの一部が降りてきて、ララの周りでポンポン弾み出す。ひととおりはずんでいた彼らが、サアーーっと天に昇ると、一角獣もそれを追うように飛び上がった。

「あ……」

 琥珀が名残惜しそうに声を上げる。

 一角獣は炎を揺らめかせながら、砂嵐の方へと飛んで行った。

 次の瞬間。

「あ!」

「「ええ?!」」

「わあ」

 なんと、一角獣が砂嵐を駆け上るように触れた途端、砂嵐が火に包まれていく。まるで炎のカーテンが順に開かれていくようだ。

 しかも、ここから砂嵐までは、かなり離れているというのに、一気にそのあたりの気温が上がり、彼らに熱い風が吹いてくる。その上ゴウゴウと燃える音までが聞こえてくるようだ。

「燃えさかる、火……」

 チーム斎の1人がつぶやいた。


 ララがトランス状態に入ったのだろうか、あたりに響き渡る声で言った。

「人の英知は、平和をもたらすためにのみ授けられたもの。ただ心穏やかに、喜びを思い幸せを願え。それを誓う者だけが砂の嵐を通り抜けられる。慢心に酔いしれた者は、風に飛ばされ火に焼かれ地の底に落ちていく」


 天高く昇った一角獣が肉眼では見えなくなると、炎のカーテンも消えていった。









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