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第5話 いざ! 出張


「ごめんねハリス、帰ってきたばっかりなのに」

 出張当日の朝、待ち合わせに選んだ王宮広場で、ションボリしながら泰斗がハリスに謝っている。

 と言うのは。


「いやあハリス、ごめんねえ。皆、心配性で~」

「なにがですかジュリー先輩! 先輩はきっとあちこちさわりまくって、移動部屋をグチャグチャにしちゃうんですから!」

「ええー? そんなことないってえ。だって前にR4が壊されたときにも乗ってるんだから、前例があるじゃない」

「あのときは切羽詰まってたから大丈夫だったんです!」

「もう、ナオってば厳しいんだから」

「当たり前です」


 実は今回の出張も、R4の移動部屋で行くことになったのだが、ここでひとつ問題が持ち上がった。

 ご存じのように、当然ジュリーもこの出張には参加する。

 当然ジュリーもR4の移動部屋に乗っていく。

 すると、ナオが言ったようにジュリーはあの性格だ、当然、時田や丁央と同じく、R4の目を盗んであちこちさわりまくって移動部屋を破壊してしまう恐れが予想される。

 そこで、ジュリーを力尽くで抑えられるハリスに同行を頼んだのだ。するとハリスは時田のときと同じように快くOKしてくれた。

「ああ、移動部屋ならすぐに帰ってこられるし、それに、水瓶の護りにあらためて礼を言っておきたかったしな。もし万が一があっても」

「ハリス隊の留守は俺が預かる」

 と、隣にいたイエルドが心強い返事をした。何を隠そうハリスの留守中、ハリス隊は近衛隊長のイエルドが仮りの隊長を務めることになっている。


 そんなわけで今、ハリスをメンバーに加えた4人は、王宮広場のそこここに自然に生えている果樹の下で、移動部屋が現れるのを待っている。

 ジュリーが、たわわに実ったリンをひとつもぎ取って、サクッとその実をかじる。

 リンはネイバーシティのリンゴに似た果実だ。クイーンシティでは、特に指定された農園以外の場所に生えている果実や野菜は、自由に取ったり食べたり出来るのだ。

「うん、このリン美味しいよ」

「ホントですか? じゃあ私も食べようっと。ちょうど喉が渇いてたんですよね」

 ナオもひとつもぎ取ると、シャリシャリした実をかじる。

「わあ、美味しいですね」

「でしょ?」

 2人が微笑み合っていると、目の前の空間がグニャグニャとゆがみ出す。

「来たな」

 ハリスの言葉とほぼ同じくして、移動部屋の出入り口がそこに現れた。


 R4の移動部屋は、今日も快適に旅を続ける。

「着いたヨー」

 R4が言うと、出入り口が開く。

 だが泰斗とナオ、そしてハリスにおんぶされたジュリーは降りようとせずに、ただそこを眺めているだけだ。

「お邪魔します」

「良いのかしら私まで、って、ジュリー、ハリス? なんなのその格好」

 すると入り口からよく知る2人が乗り込んできた。

 1人は言わずもがな琥珀、そしてもう1人は彼の恋人であるララだ。

 ここはダイヤ国。移動部屋は途中で琥珀たちを乗せるためにここへ立ち寄ったのだ。

 ララはハリスの背中越しに「琥珀~、ララ~、元気だった」とのんきに手を振るジュリーを見て最初は驚いていたが、ナオに訳を聞くと妙に納得している。

「ははあ、なるほど。ご苦労様です、ハリス」

「いや、そんなに頻繁ではないからな」

 真面目くさって言うハリスに笑顔で頷いたあと、あらためてララは泰斗とナオに挨拶する。

「お久しぶり、泰斗、ナオ、元気だった?」

「はい」

「もちろん。でもララが来てくれて嬉しい~女子でお茶会しましょうね」

 ナオはララが来ると聞いて、本当に嬉しそうだったのだ。するとハリスの後ろからジュリーが別の意味で手を上げる。

「はーい、俺もお茶会に参加した~い」

「むさ苦しい野郎はお断りです!」

「ええ、そんなあ」

 思わず吹き出す琥珀と泰斗。心なしかハリスの頬も緩んでいるように見える。

 なんとも和やかな雰囲気の中、移動部屋は出入り口を閉じ、また先へと進むのだった。


「着いたヨー」

 また同じR4のセリフに、今度は下船準備を始めるメンバーたち。

 出入り口が開くと、案の定。

「案外早かったな」

「ア、また時田ガ、いるー」

「あったりまえだ!」

 飽きもせずに同じやり取りをした2人は、不適に微笑み合う(R4はそんな風に見えるだけだが)

「時田~聞いてよお。俺ずっとこのままだったんだよお」

 すると、何故かハリスにおぶわれたまま出て来たジュリーが泣き真似などしつつ言う。

 それを見た時田は大笑いだ。

「ガハハハ、ジュリーお前もか! どうだざまあみろ」

「ええ~ちょっとは共感してよお」

「やーだね」


 そのあとから泰斗が、そしてナオが降りてくる。

「時田さん、装置の方は進んでますか?」

「あとで見に行きます」

「おう、けど俺は詳細に説明できないかもだぜえ」

「「え?」」

 不思議そうに言う2人に、あとから来たトニーが申し訳なさそうに言う。

「こちらの装置はだいたい整ったんだ。それで次は向こう、ダイヤ国の方を整えに行かなきゃならない。だから時田と俺は君たちと入れ替わりに、移動部屋に乗せてもらうことになっている」

「え?」

 ナオが思わず時田の方を見て、ジュリーを下ろしたハリスの方を見る。

「じゃあ、ハリスはすぐ帰っちゃうの? そんなの……あんまり、じゃないですか」

 ちょっと悲しそうに言うナオの背中を優しく叩いてハリスが言う。

「大丈夫だ。今すぐって訳じゃない。水瓶の護りに挨拶もしたいしな」

「そうだぜえ。俺たちだってそこまで横暴じゃねえよ、出発は明日だ」

 2人の言葉にほっとしたようにナオが言った。

「そうですか、良かった」

 そのあと何やら考えていたナオが、ぱっと顔を上げる。

「じゃあ、ハリスはあとで一緒にお茶しましょ! ね、約束ですよ」

 急なお誘いにきょとんとしていたハリスは、ちょっと困ったような顔で、「あ、……ああ」と、どちらともつかない返事をする。

 そこへ割って入るジュリー。

「ええ? ナオひどーい、じゃあ俺も俺も~」

「ダメです。ララと、ハリスと、私の3人で、です」

 すると、最後に降りてきてピッと手を上げた一体が口をはさむ。

「R4モ、お茶シターイ」

「R4は許可します」

 うんうんと頷いて言うナオ。

 すかさず時田が手を上げている。

「じゃあ俺も」

「ええっと、時田さんはR4の邪魔するからダメです」

「では、俺が代わりに行こう」

「はい、トニーさんならOKです」

「なんだそれ!」

 抗議をし始める時田だが、ナオには勝てない。

 

「時田、振られた者どうしで寂しくお茶しよ?」

「なんでむさ苦しい野郎と顔つき合わせてお茶なんだよ」

「むさ苦しい野郎というなら、琥珀と泰斗もだよねえ」

 ガバッと2人の肩に手をかけ、「君たちも参加したまえ」とギュウと締め付けるジュリー。

「むぐ」

「ぐるじい」

 慌てて止めに入るナオが言う。

「もう、わかりました。あとで皆でお茶しましょう」

 今日のお茶タイムは賑やかになりそうだ。



 泰斗たちロボット研究所の3人と、琥珀とララが水瓶の国へやってくると、サアー……ザアー……と、2種類の風が吹いてきた。

 と、思う間もなく泰斗はロボットに手を取られ、琥珀の横には一角獣が現れている。

「お出迎えありがとう。君はこの間の子とは、違うよね?」

 泰斗がロボットに聞くと、そのロボットはカクンと首を縦に振る。

「先輩すごいです。何でそんなことわかるんですか?」

 ナオが驚いて聞くが、泰斗自身にもなぜだかわからないらしく、首をひねっている。

「うーん、なんでだろう。なんとなくの、感覚?」

 そう言って、優しくロボットと繋いだ手をユラユラさせながら言う。

「あ、紹介するね。彼女はナオ、そして……、あれ? ジュリー先輩は?」

 辺りを見回してもジュリーの影も形もない。泰斗とナオは「ジュリー先輩!」と急に消えた彼の名を焦って呼ぶ。

 すると。

「こ、ここだよ、……なんで? どうしたのこの子たち……、ムグ、ムクグ……」

 なんと、声のしたあたりには、一角獣がぎゅう詰めだ。

 どうやらジュリーは、一角獣に熱烈歓迎されているらしい。

「あれ? ジュリーって一角獣に好かれるんだね。けど、なんか俺の時より数が多いみたいだけど……なんだろうこの複雑な気持ち」

 琥珀がちょっとションボリして言うと、途端に一角獣たちは彼の元に集まってくる。

「はあ、助かった~、あれ、今度は琥珀がたいへんだあ」

 ようやく抜け出したジュリーが見たものは、一角獣に取り囲まれる琥珀の姿。

「わ、わわわ、……わあ、ララ、この状態どうしよう」

「自分が引き起こしたんでしょ? 納めるならご自分で」

 なんと薄情なことに、ララは助ける気はないようだ。

「そんなあ、……あ、よーし」

 と、琥珀は水瓶の護りがしていた指笛を、見よう見まねでやってみる。

スカアー

 けれど出るのはため息のような音ばかり。そんなに簡単に指笛は吹けないようだ。その間にも一角獣はどんどん増えていく。

「わあ、ララ~助けてよお」

「もう、仕方ないわねえ」

パン

「はい、あなたたち、少し落ち着きましょうか」

 可笑しそうに笑ったララがひとつ手を打つと、一角獣がとたんにおとなしくなる。

サアーーー

 そして、なんと言うことか、リトルペンタ、リトルダイヤ、リトルジャックの3つのリトルが現れて、ポンポンはずみながら一角獣の回りで遊び出し、こっちへおいでというように散らばって誘いをかける。

 彼らに導かれるように、大半の一角獣はてんでバラバラに走り去ってしまった。

「はあ、助かった。ありがとうララ」

「どういたしまして」

「俺も助かったよお~、ありがとう琥珀、ララ~」

 ジュリーはそう言うといつものごとく琥珀とララをまとめてハグし、また泰斗とナオに引っぱがされる運命をたどるのだった。


 そんな彼らの一連のやり取りを、我慢強く眺めて待っていた水瓶の護りがようやく彼らの近くへやってきた。

「ようこそ。泰斗と琥珀はお帰り、だな」

「水瓶の護りさん!」

 泰斗が嬉しそうに走り寄っていく。

「しばらくお世話になります」

 続いてやってきた琥珀が頭を下げながら言う。

「それで、えっとR4から聞いたと思うのですが」

 そこまで言ってから泰斗は後ろを振り向く。

「ロボット研究所のジュリー、ナオ。そしてララは琥珀の恋人、魔女の血を引いている」

 水瓶の護りは心持ち口の両端を上げながら言う。

「わあ、よくご存じなんだ。ジュリーです、お世話になります」

「ナオです。よろしくお願いします」

 ジュリーはうやうやしく、ナオはぴょこんと頭を下げる。

 ただ、ララは違っていた。

「お噂はラバラさまからお伺いしています。よろしくお願いします」

 瞬間移動で水瓶の護りの前に立つと、その両手を取ってゆっくりと顔の高さまで持ち上げる。

「ラバラさま? ああ、……わかった」

 水瓶の護りはそのあと珍しく、笑いをこらえるようにうつむいてしまう。

「本当にラバラさまったら、可笑しいわよね」

 どうやらララは、ラバラからの伝言を伝えたようだ。

 けれど、そのあとジュリーが、

「ええー? なにー? 2人だけで楽しんでずるーい」

 と、またハグハグしに行ったが、そんなことで口を割る2人ではなかったようだ。



 水瓶の国にいる者たちは、どうやら世界の果てに落ちていくことは出来ないらしい。

 水瓶の護りからそう聞いたナオが、ある提案を持ちかけて了解を得た。

 その提案とは。


「時田さん、それ私が食べようと取っておいたんです」

「知るか。ここにあったから食べただけだ。ムグ、……それにしても美味いな」

「もう!」

 ここは水瓶の国、ひろい草原に特別にしつらえてもらったテーブルを囲んで、お茶を楽しんでいるのは、出張にきたメンバーたち、トニー&時田のコンビ、そして空間移動施設の設置のために来ていた斎とそのチームメンバーだ。

 なんとナオは、大胆にも? 水瓶の国でお茶会を開いてしまったのだ。


「僕たちまでお招き頂いて、本当に良かったのですか?」

 斎が時田とナオのやり取りに苦笑しつつ、恐縮気味に水瓶の護りに聞いている。

「ああ、もちろん」

「ありがとうございます。……それにしても」

 と、斎はぐるりとあたりを見回しながら言う。

「ここは本当に気持ちの良いところですね」

「そんな風に言われると恐縮だ」

 その堅い返事にまた苦笑しつつ、斎は何か言おうとしてはやめるような仕草を見せる。

「どうした。言いたいことがあるのなら、言った方が気が収まるぞ」

 水瓶の護りは、そんな斎の様子を見て促した。

「わかりました。駄目で元々かもしれないですが、実はここへ来てからどうしても気になっていて。……あの水瓶を近くでよく見てみたいのですが」

 この斎の提案には、さすがの水瓶の護りもすぐに返事出来ずに固まってしまう。

「……」

「ああ、すみません。やはり無理ですよね」

 困ったように笑う斎に、水瓶の護りがようやく口を開く。

「何故だ?」

「え?」

「誰かの差し金か?」

 少し声のトーンが上がった水瓶の護りを、皆が驚いて見る。

「またあれを我が物にしようと企む輩が現れたのか? お前は見たところ誠実そうだ、自らそんなことを企むようには見えない。誰かに脅されているのか?」

「え? いいえ! 水瓶を我が物にするなんてとんでもない! 僕はあの建物と言っていいのかな、水瓶を支えている支柱、そして水瓶自体の曲線をよく見てみたいだけなんです。建築家としての純粋な気持ちから……」

 斎がそこまで言ったときに、泰斗がふたりの間に割って入る。

「水瓶の護りさん、多久和さんは貴方が言うように誠実な方です。なので水瓶をどうこうしようなんて絶対に思っていません」

 1つ息をついて、泰斗が話し始める。

「……それで、多久和さん。他の皆さんにもお話ししてなくてすみません、この世界がこんな風になったいきさつがあるんです」


 そのあと、泰斗はジャック国と水瓶の国に何があったのかを、そこにいた全員に話して聞かせたのだった。

 皆、驚きながらもさっきの水瓶の護りの対応に納得している。

「申し訳ありません。知らなかったとは言え貴方を恐れさせるようなことを」

 深く頭を下げてわびる斎。

 泰斗も「ごめんなさい」と、話をしていなかったことを反省するように頭を下げる。

 そんな2人に、水瓶の護りは顔を上げるように言うのだった。

「誤解が解けたところで、斎、だったか。それなら特別に水瓶の近くまで案内しよう」

「え? 良いのですか?」

「ああ、ただし彼も一緒だ」

 水瓶の護りが目をやる先には、

「え? 僕?」

 と、自分を指さす泰斗。

「お前が来ないと、最後の護りに潰されてしまう」

 水瓶の護りは何故か楽しそうに言うのだった。

 斎は近くに寄れないチームメンバーや、クイーンシティにいる仲間にも見せたくて、動画を撮っても良いか聞いてみたが、それは却下された。

 ただし静止画なら良いと言うことだ。

「最後の護りを刺激しないようにな」


 お茶会が終わると、トニー&時田とハリス、そして移動装置設置チームは一足先に世界の果てへ戻ってしまったので、今、水瓶の国には出張メンバーと斎だけだ。

「ここで待て」

 と言われたあたりで、緊張気味の斎と泰斗。

 ジュリーと琥珀は、早速各々の仕事に取りかかったが、ララとナオは斎と泰斗の少し後ろにいる。

 ララは水瓶の護りに何やら相談を持ちかけて、万が一の時のために術を使う許しを得ていた。とは言え、最後の護りをどうこうするわけではなく、結界を使おうと思っている。

 ナオは?

 ただただ、泰斗が心配なのだろう。

 けれど彼女も研究チームの1人、この時間を無駄にするわけにはいかないと、ロボットを何体か連れてきてその構造やプログラムを確認している。

「ここからなら2人のことはよく見えるわね。ふふ、大丈夫よ、ナオ。あの最後の護り? 本当に泰斗が好きみたいで、全然警戒していないから」

「ホントですか?」

「保証する」

「良かった。じゃあ私も頑張らなくちゃ」

 ほっとしたように言ったナオは、ロボットに向き合った。

 そしていよいよ水瓶の護りに許しを得た斎が、水瓶の近くまで行くと、感嘆のため息をついている。

「ああ……、なんて美しい。近くで見ると、繊細さが本当によくわかる」

 写真を撮ろうとタブレットを取り出す斎の手を押さえて泰斗が言う。

「あ、多久和さん、ちょっと待って。護りたちに許しを得るから」

「わかったよ、よろしく」

 泰斗は彼らより少しだけ歩み出て、護りたちに手を振る。すると護りは、なんだ? と言うように顔を近づけてくる。

「あのね、ちょっと水瓶の写真を取りたいんだ。ほら、この支柱とか、あの曲線とか、とっても美しくて、クイーンシティやダイヤ国の建物に応用したいんだよ。だからお願い」

 そう言って顔の前で手を合わせる泰斗をしばし眺めていた護りたちは、各々頷いた。

 だが、そのあと♪♪♪と歌うような音がする。

 何かと思っていると、水瓶の護りが、仕方がないなと言うように泰斗を見る。

「撮らせてやると言っている。そして、近くで撮りたいのなら、泰斗、お前だけ手に乗って良いそうだ」

「ほんと?」

「ああ、本当だ」

「わあ、ありがとう。じゃあ僕は彼らの手に乗りますんで、多久和さんは場所とか角度とか指示して下さい」

 そのやり取りを聞いて、斎が焦り出す。

「手に乗るって、泰斗、大丈夫なのか?」

「はい、前に来たときも乗りましたから」

「そ、そうか」

 事もなげに言う泰斗に、すこしあきれたように、けれどほっとして斎は写真をお願いすることにした。

ぐいん

 と差し出す手に乗る泰斗を見たナオが、真っ青になる。

「え? なにがあったの? 泰斗先輩がさらわれる!」

「もう、大丈夫よ。よく見て、泰斗は自分から乗りに行ってるでしょ」

 ララは可笑しそうにナオの手を取った。落ち着いて見ると、泰斗がタブレットを持っているのもわかるし、何よりその表情がとても嬉しそうなのだ。

 そして、斎の指示に従って、泰斗は縦横無尽に動きながら写真を撮っている。

「良い写真が撮れそうね」

「はい、多久和さんもとても嬉しそうだし、先輩は楽しそうです」


「やれやれ、斎って結構大胆な所もあったんだね。プロフィール書き換えておかなくちゃ」

 すると、いつの間にかジュリーが隣に立っている。

 そして琥珀も。

「大胆というか、今は子どもみたいに嬉しそうだ、……と言うか、丁央みたいにかな」

「おふたりとも、仕事はどうしたの?」

「してるよ。僕たちも彼らをよく見たくてこっちに来たんだよ」

 そう言う琥珀の隣には、一角獣が来ている。

 ジュリーの横にはロボットが。

「偉いです、ジュリー先輩!」

 褒めるナオに、どちらが先輩かわからないと微笑み合う琥珀とララだった。


 彼らの会話の間に、無事撮影会も終わったようだ。

 最後に四体の護りの手から手へと移ってお礼を言った泰斗が地上へ降りてくる。

 タブレットを斎に渡すと、しばらく彼はそれを確認していたが、本当に感激した様子で水瓶の護りに丁寧に礼を言い、また、護りたちにも最敬礼で感謝の意を表していた。


 嬉しそうに帰ってくる2人を、あとの4人が出迎える。

「良かったねえ、斎」

「ああ、皆に良い土産が出来た」

「丁央が悔しがりますよ」

「おっと、忘れていた。あいつのことだからきっとまた無理を言うぞ。泰斗、そのときはすまないがよろしくな」

 まだ興奮しているのか、斎はいつになく饒舌だ。

 泰斗は、こちらはいつになく静かに水瓶の方を振り返る。

「はい。あの子たちの手にまた乗りたいと思ってたんです。なんて言うか、すごく癒やされる」

「そうか」



 そんなふうにのんびり話している時だった。

フォン……

 琥珀の持つ通信に連絡が入る。

「おーい琥珀、いるかあ」

 それは先に世界の果てへ帰っていた時田だった。

「はい? ああ、時田さんですか、どうしたんですか?」

「いたぞ、一角獣」

「え? ええっ?! どこに!」

 大慌てで言う琥珀に、時田は思わせぶりに言う。

「まあ、来ればわかる」

 それだけ言って通信をプチッと切ってしまった時田に、琥珀が呼びかける。

「ちょっと、時田さん! 説明して下さい! ああもう、通信切ってしまってる」

「行ってこいよ」

「そうですよ、善は急げって言います」

「逃げちゃうかもよ?」

 斎と泰斗、そしてジュリーに言われて、

「ありがとう!」

 と叫ぶと、琥珀は取るものも取りあえずと言う感じで、ララを伴って風のように向こう側へと戻って行った。









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