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第3話 果ての果て


 R4と泰斗が水瓶の国に落ち込んだあと。

 琥珀が運び込んだ望遠鏡の設置が終わる。


「なあーに? これ」

 設置を終えて満足そうにうなずく琥珀の所へ、ハリス隊の花音がやってくる。彼女は望遠鏡に興味津々だ。

「天体望遠鏡だよ。天文台にある望遠鏡のミニサイズ」

「へえー。でも星なんか見てどうするの?」

 遼太朗と同じ事を言う花音に、思わず笑いが出そうになって、琥珀はコホンと咳払いをした。

「ああ、違うんだ。世界の果てに果てがあるのかを調べたくてね」

「世界の果てに果てがある?」

「あはは、変な言い方だったかな。……まず、あっち」

 琥珀は立ち上がって、延々と続く世界の果ての向かって右側を指さす。

「うんうん」

 同じようにそちらを見てうなずく花音。

「と、こっち」

 今度は反対側の向かって左を指さす。

「「うんうん」」

 返事が二重奏になり、よく見るとカレブがいつの間にか来ていて、同じようにうなずいていた。

 その様子におかしさをかみ殺しつつ琥珀が説明を続ける。

「……この望遠鏡で見れば、人の目ではとても見えない果てが見えるんじゃないかと思って」

「ふうん」

「ふーむ」

 同じように首をかしげていた花音とカレブだったが、しばらくすると花音が言った。

「だったらR4に見てもらえば良かったのに」

「え?」

「あ、花音さえてる~。そうだよねえ、聞いたことないけど、R4ならこれと同じくらい遠くまで見えるかもしれないよね」

「え?!」

 2人の会話に琥珀は驚く。

「R4って、……そんな機能までついてるの?」

「ええっと、うーんと、もしかしてってこと。泰斗に聞いてみれば?」

「なぜ泰斗」

「だって、2人は仲良しじゃない」

「そっか」

 琥珀は、花音とカレブの話が違う方向へずれていくのを聞きながら、クイーンシティとネイバーシティの違いに思いをはせる。

 ここクイーンシティでは、彼らが生まれたときからロボットは当たり前にそこにいる。作業ロボ、護衛ロボ、家事介護ロボ エトセトラ、Etc.……そして彼らは、R4曰く「人を助けるようにプログラムされている」のだ。人とロボットがお互いの持ち味を出しながら、それを生かし合いながら暮らしている、それがこちらの次元だ。

「じゃあ、あとであっちへ行ったら聞いてみるよ」

「「そうしなさい」」

 2人に声を揃えて言われ苦笑する琥珀が、まず世界の果ての右側に向けて望遠鏡を置く。

「うん、これでよし。覗いてみる?」

 花音とカレブに先を譲る琥珀だが、さすがに2人はそこまで厚かましくはないようだ。

「ええ~? せっかく持ってきたのにい、君が最初に見られないなんて、それはあんまりだあ」

 芝居がかって言うカレブに笑顔を返しながら、「じゃあ遠慮なく」と、のぞき込んだ琥珀だったが。

「……………」

 微妙に角度を変えながら長いこと無言で望遠鏡を覗いていた琥珀が、唐突に顔を上げる。

「駄目だ」

「どうだった?」

「見えた?」

 3人は同時に言葉を発した。

 そのあと琥珀が、信じられないと言うように言った。

「果てが、見えないんだ」


 そのあと、花音とカレブが代わる代わる望遠鏡を覗いて、もしやと思って左側にも向けてまた3人で覗いたのだが、どちら側にも延々と落ち込んだ砂漠が続くだけ。

 まるで合わせ鏡をしたように、延々と同じ景色が見えているだけだった。

「どういうことなんだ?」

 呼ばれて覗いた遼太朗が琥珀に聞くが、琥珀もお手上げというように首を横に振るばかりだ。

「ネイバーシティから他の惑星までの距離よりも、こちらの砂漠の方が遠くまで続いていると言うことだろう、信じられないけど」

「そうか。けど俺たちも、ここまで来るのは本当に初めてなんだ。あの彗星の事がなければ今でも知らなかっただろう」

「それだけこの次元はわからないことだらけって言うことだよね」

「ああ、すまないが」

 律儀に謝ってくれる遼太朗に、琥珀は、

「俺たちだって宇宙の事はこれっぽっちもわかってないよ」

 と苦笑いして言いながら、目の前の落ち込んだ世界の先にいる存在に思いをはせる。

「一番長生きしてるR4に聞いたら、何かわかるかもしれないね」

「そうだな。それにしても遅いな泰斗のやつ。何しているんだろう」

 噂をすれば影。

「遼太朗、琥珀、チョット来てクレるー?」

 彼らの話を聞いていたように、R4から通信が入った。



 遼太朗と琥珀は、ハリスに断って自分たちも世界の果てからぐるんと落ち込んでいく。

「なるべく早く了解を取り付けてくれよ。こいつらがうるさいからな」

 そう言って、後ろのイサックとカレブを指さす。

「ああ?」

「なんだよハリス。うるさいのは俺たちだけじゃないってー」

 そんな2人にうなずきながら遼太朗たちは世界の果てから一歩足を踏み出した。


 遼太朗と琥珀が水瓶の国に降り立つと、どこからか、さあっと風が吹いてきた。

 そしていつのまにやってきたのか、すぐそばにこちらの一角獣が立っていた。

「お迎えに来てくれたみたいだぜ」

 遼太朗は微笑んでポンと琥珀の肩を叩くと、さっさとその場を離れていく。

「ああ、……わ、わかった! 歓迎してくれてるのは、よーくわかったよ」

 遼太朗が遠ざかると、一角獣は琥珀に顔を押しつけて、なでてくれと言わんばかりだ。

「よしよし、良い子だ」

 琥珀が嬉しそうに首と腹をなでていると、また一頭、あとからもう一頭、と、だんだん数が増えていく。

 そして、あっという間に琥珀は一角獣が押し合いへし合いする中にいた。

「わかったから、ちょっと並んで。いや、通じないか。ちょっと、遼太朗~! 助けてくれえ」

 助けを呼ぶ琥珀の声に、状況を目にした遼太朗が慌ててそちらへ引き返すと、ちょうど水瓶の護りもやってきたところだった。

「まったく、どうなっているのだ」

 と、彼は曲げた指を唇に当てて、ヒュウと鳴らす。

 すると、ざわざわしていた一角獣が落ち着きを取り戻し、きちんと一頭ずつ琥珀の前に並び出す。

「ありがとうございます。良かった助かったあ。……じゃあ一頭ずつね。でもすごいですね、あの指笛。さすがは水瓶の護りだ」

 琥珀の言葉にうなずきつつも、すごいのはロボットや一角獣まで手懐ける彼らの方だと、あらためて思う水瓶の護りだった。


 ここはしばらく琥珀に任せておけば大丈夫だろうと、遼太朗は水瓶の護りに泰斗たちのいるところへ案内してもらう。

 遼太朗がそこで目にしたのは、さっきの琥珀と同じ状況だった。

「どうなってるんだ?」

 泰斗の前にずらりと列をなすロボットたち。

 笑顔で彼らにハグをしてはいるが、もう泰斗はヘロヘロ状態だ。

「ハーイ、ちょっとトイレ休憩ー。人は、出すモノ出さないト、倒れちゃうンだよー」

 そこですかさずR4が助っ人に入る。

 ブーブー言っている〈ようにみえる〉ロボットたちを尻目に、R4は泰斗を背負ってトイレとおぼしき建物に入っていった。

 振り返ると、はるか向こうでも笑顔で並んだ一角獣を一頭ずつなでている琥珀が見える。

「デジャヴだな」

 ただ、一角獣の方が数が少なかったのか、しばらくすると琥珀がやってきた。

「はあ、任務終了。けど、なんでこっちの一角獣は飛べないんだろう。そのあたりを詳しく調べてみたい。まずこちらの一角獣の歴史を詳しく聞いて、彼らの生態を詳しく調べて……」

 そのまま学者モードに入ってしまいそうな琥珀だったが、苦笑いする遼太朗を見て我に返り、そこでようやくロボットの行列に気がついた。

「あれはなに?」

「琥珀と同じだよ」

 また可笑しそうに言う遼太朗の目線の先に、トイレから泰斗がR4に背負われて出て来る。そしてロボットたちの前に戻ると、一体ずつハグしていく。

「あっちの方が格段に数が多いみたいだな」

「ああ泰斗、君もか。……頑張れ」

 小声でエールを送る琥珀。

 だが、始まりがあれば終わりは必ずやってくる。

 ようやく最後の一体にハグをし終えた泰斗が、はあ、と息をついて、「お疲レー」と言うR4の腕に身体を預けた。遼太朗と琥珀もお疲れ様を言いに一歩を踏み出そうとしたそのとき。


どおん、どおん

 どこからか地響きが聞こえてくる。

「何ですかあれは?」

 琥珀が驚くのも無理はない。

 水瓶のあるあたりからこちらへ向かってくる大きなシルエットがあった。それを見て遼太朗がつぶやく。

「ロボット?」

「そうだ。水瓶の最後の護りの四体だ」

 それらは高い高い壁、とまでは行かないが、クイーンシティ王宮の一番高い塔ほどもありそうだ。

「あれらも、お前にハグしてもらいたいようだ」

「え、と、いいけど。でも………僕が帰ってこられなかったら、丁央やロボット研究所の皆によろしく言っておいてね」

 引きつったような笑顔でそう言う泰斗に、琥珀は青くなって叫ぶ。

「泰斗!」

 すると水瓶の護りがまあまあとなだめるように言う。

「大丈夫だ。彼らは泰斗が大好きなんだから」

 やってきた四体のうちの一体が、ぐうんと手を伸ばして泰斗を手のひらに乗せ優しく抱え上げる。

 そして、ハグではなく、自分の頬のあたりに泰斗の身体をスリスリと優しく擦り付けるのだった。

「わ、くすぐったい。へえ、君たちは身体は大きいのに、すごく繊細に出来てるんだね。……へえ」

 さっきまで覚悟していた? 泰斗が、急にロボット研究者の表情になる。

 思わずロボットの顔に手を差し伸べると、「ちょっとこのままでいてくれる?」と、なでたりゆるく叩いたり、あげくに引っ張ってみたり。

「へえ、君は何で出来ているんだろう。どんな構造でどんなプログラムで動いているんだろう」

 と、唖然とするギャラリーを忘れたように調べ始める。

「泰斗がはまっちまった」

 遼太朗がどうやってこっちに戻そうかと考えたのもつかの間、横にいた二体目が一体目の手からひょいと泰斗を奪う。

「え?」

「えこひいきハ、ナシ! だって」

 R4が説明すると、泰斗は頭を掻いて言った。

「あ、ごめんごめん。今はハグの途中だったね」

 水瓶の最後の護り四体は、順に頬ずりをして満足すると、また水瓶のまわりへと帰って行った。


「お疲れさまだな、泰斗」

「お疲れ~」

「うん、ありがとう。でもさ、ハグしててわかったんだけど、小さい方の彼らはやっぱりもともと護衛型のロボットなんだね。身体がものすごくしなやかなんだ。そう、クイーンシティの護衛ロボみたいに。改良した人はその柔軟性を上手く生かしてくれてるんだけど。……だけど、かなり無理してるところもありそうだから、もし、このまま戦闘ロボで行くのなら」

 そこまで言うと、泰斗は水瓶の護りの前に出て、珍しくきつい表情で言う。

「僕に彼らを少し改良させて頂けませんか」

「改良?」

「はい。そのために一体連れて帰りたいんだけど」

「それハ、だーめ」

 すかさずR4がダメ出しをする。

「え、なんで?」

「一体ダケ、連れて帰ルのは、ムリ」

 それを聞いた水瓶の護りが大きくうなずいた。

「ああ、そうだな。ハグですらすべてのロボットにしなくては収まらないんだ。連れて帰るならすべてのロボットを、だ。それに、もし、こいつらがここから向こうに行ければ、の話だ」

「この子たちが何とか向こうに行けるように努力してみる。それと、全員連れて行くのは1人じゃムリなので、……丁央に頼んでみるけど」

「おい、泰斗、お前ここのロボットすべて運ぶつもりなのか?」

「うーん、出来れば……」

 あきれたように笑う遼太朗に、横から琥珀がとても魅力的な提案を持ちかける。

「泰斗、じゃあ2人でしばらくここに出張しようよ」

「え?」

「僕もね、こっちの一角獣のことをもっと詳しく調べたいなって思ったんだ。けど、泰斗のロボットと同じように全員連れて帰るわけにいかないからね」

「ホントですか! じゃあ早速今日から」

 勢い込んで言う泰斗を、さすがに遼太朗がなだめる。

「おいおい、今日は話を聞きに来たのと、それに、向こうで待ってるハリス隊のため、だろ?」

「あ! そうだった。ハリスに怒られちゃう」

 また頭を掻く泰斗を可笑しそうに見やって、遼太朗が水瓶の護りに向き直る。

「水瓶の護りさん、とりあえず俺たちの話はあとにして、まずはハリス隊とロボットの演習の話から進めてもかまいませんか? 向こうの奴らからの通信攻撃がうるさくて」

 言ったそばからカレブの「まだー? ねえ、まだー?」とか騒ぐ声が聞こえてくる。

「カレブ、うるさーイ」

 どうやら待ちきれないカレブが、R4にまで通信を送っているようだ。

 すると、また珍しく口元を上げた水瓶の護りが、泰斗の方を向いて言う。

「そちらは、彼に聞いた方が早いだろう。どうだ泰斗、ロボットたちに聞いてみたのだろう?」

「ああ、はい。ハグするついでにお願いしておいたよ。だからR4、ハリスたちに来て良いよーって言ってくれる?」

「ロボ遣いが荒い。けど、仕方ナイ」

 そう言うとR4は通信を入れ始め……

 たかと思うと、

「到着!」「あーカレブずるい」「お前たちうるさいぞ」

 ハリス隊のメンバーが次々に到着し始めた。

 とそのとき。

ズッ、サアッ

 降りたばかりのハリス隊に、ロボットが襲いかかる。

「ええ?! ダメだよ! お願いしたじゃない!」

 泰斗が思わず叫んだが時すでに遅し。

 ロボットは手を緩める気はないみたいだ。最初に入ってきたカレブにまっすぐ襲いかかっていく。

「うわっ」

 カレブの、何故か楽しそうな叫び声がして。

「奇襲作戦なんて、ずるいぞお」

 カレブはロボットにハグハグされていた。


「はあ、一時はどうなることかと思ったよ」

 泰斗が胸をなで下ろしている先では、ハリス隊とロボットの攻防が続けられている。

 なんとあのハリス隊がかなり苦戦を強いられているようだ。



 それを遠目に見ながら、水瓶の護りの回りに3人と一体が集まっている。

 遼太朗が代表して声をかける。

「あなたにお聞きしたいことがあるのですが」







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