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第1話 遼太朗と琥珀


 ここのところ、遼太朗と琥珀の仲が急速に近づいている。


 いや、変な意味(どんな意味?)ではなく、遼太朗の歴史学者としての興味と、琥珀の生物学者としての興味が一致したというか、お互いが持つ知識や情報を分かち合っているというか。


 今日もここ、王立図書館の閲覧室で、資料を回りにうずたかく積み上げている琥珀を見つけた遼太朗が、微笑みながら声をかけたところだ。

「何か新しいものは見つかったか?」

「うーむ、……むむむ、………え? ああ、遼太朗! どうした?」

 自分の考えの中に入り込んでしまい、回りの声が聞こえなくなっているあたりは、泰斗と同じだなと苦笑しつつ、遼太朗は同じ問いを繰り返す。

「何か進展はあったか」

 言いながら遼太朗は琥珀の隣に腰を下ろす。

「いや、残念ながら」

「そうか」

「一角獣の資料についての豊富さでは、クイーンシティの右に出るものはない、と、ダイヤ国王が教えてくれたんだがなあ」

「そうか」

「ほら、いつかナズナの伯父さんが教えてくれた僕のご先祖さま」

天笠あまかさ のぼるさん、だったっけ」

「ああ、その人の説によると、こちらの世界で一角獣が生息出来ない所はまずないそうなんだ。けれど……」

「世界の果ての手前、あの砂嵐が吹いているあたりにはいなかったんだよな」

「ああ、一頭も」

「不思議だな」

「ああ、不思議だ」


 そう、世界の果てを探す旅で、まるでその入り口を護るように行く手を阻んだ砂嵐。

 あのあたりには、どこにでもいるはずの一角獣がいなかったのだ。

 琥珀が言うように一頭も。

 そのため、迷い子となっていた彗星の水を水瓶に届けるために、砂嵐の手前〈第5拠点)と、落ち込む世界の手前〈第6拠点)にわざわざ一角獣を配置したほどだ。

 もし一角獣がリトルと連動したこの次元の守りであるならば、必ずそこにいなければならないはずだ。

 なぜいないのだろう。

 そして、もしいないのならば、どうやってリトルダイヤに姿を変えた水が、あのあたりを通るのだろう。リトルたちには自分の持ち場があり、決まった場所からは離れられないが、例外として一角獣を仲立ちとして融合出来るのだ。彼らが自由に動き回れるのは、一角獣がいてこそなのに。


 琥珀はその不思議を知りたくて、遼太朗は遠い歴史のそのもっと向こうを知りたくて。

 ふたりして、この謎を解くために協力し合っているのだ。


「遼太朗の方は? 何か進展はあったかい?」

「いいや、残念ながら」

「はあ~そうかあ。道は険しく長いね」

「ああ、だからこそ歩き甲斐もある」

「ま、そうか」

 2人は顔を見合わせて、苦笑ともとれる微笑みを浮かべ合った。


「あれ? 遼太朗、琥珀さん?」

 と、背後からよく知る声が聞こえた。

 2人が同時に振り返ると、たくさんの資料を抱えた泰斗の姿が目に入る。

 そして。

「アレー、最近ノ噂ハ、ホントウだったのダ」

 珍しいことに、泰斗はR4を伴っていた。

「なんだよR4、噂って」

「遼太朗と琥珀が、デキテルって」

 これには遼太朗も、琥珀も、そして横にいた泰斗も一瞬ポカンとした顔になる。

 そして、「ええ? なにそれ!」と焦りつつも、頑張って資料を落とさないようにしっかり抱えている泰斗。

「オウ、成長したネ」

 と感心したように言いつつ、ふと遼太朗の厳しい表情に目をとめると、R4はあさっての方を向いて口笛? の音を出している。

「ははーん」

 それに気づいた遼太朗は、頷きながら珍しくニヤリと微笑んでみせる。

「丁央だな?」

「エ? イイエ、違いマス。国王ガそんな悪ふざけヲ」

 いきなり機械読みの棒読みになってしらを切るR4。遼太朗はその態度で確信した。

 まったくこいつは、ロボットのくせに嘘が下手なんだから。

「嘘つけ。丁央が何か吹き込んだんだろう」

「チェ、遼太朗ニハ、通用しないネ。そうダヨー、最近遼太朗たちが遊んでクレナイッテ、丁央がつまんないって言っテ。ダカラ、2人に会ったラこう言えって脅されテ、仕方なく……、ウウ、R4可哀想」

 すると、最後まで固まっていた琥珀が、やっと息を吐き出した。

「ああ、そんなわけだったのか。丁央が……。あ、R4泣かないで。僕なら大丈夫だよ、遼太朗も、ね?」

 と、遼太朗に頷いたあと、鳴き真似をするR4を慰める琥珀。それを見ながら、やれやれと肩をすくめる遼太朗。


「R4!」

 けれど泰斗が黙っていなかった。

 ドン!

 と、持っていた資料を琥珀が積み上げた資料の横に置くと、腰に手を当ててR4の正面に立つ。

「いくら丁央にそそのかされたからって、2人ともステラさんとララさんって言う素敵な恋人がいるんだよ? その恋人が誤解したり悲しんだりするっていう考えには至らなかったの? まったく、僕はR4をそんな子に育てた覚えはありません!」

 プンプンと怒る泰斗を見て、遼太朗は思わず吹き出してしまう。

「なんだよ遼太朗まで!」

 そんな遼太朗に、泰斗はまたおかんむりだ。

「ああ、すまない。けど、そんな子に育てた覚えはないって……まるでR4を泰斗が生み出したみたいな言い方だなって思って」

「あ……」

 自分の発した言葉のおかしさに気づいたのだろう。泰斗は怒りをすぐに引っ込めて、頭をかく。

「あはは、そうだよね。でもなんだかR4は他人と思えなくて。……でも、それとこれとは話が別! R4、2人に謝りなさい」

 照れくさそうにしていた泰斗だったが、そこはそれ、きちんとけじめはつけるタイプだ。R4に向かってピシリと言う。

 すると。

「ワカッタ。……遼太朗、琥珀、ごめんナサイ」

 いつもならそれでもくどくど文句を言い出すはずのR4が素直に謝ったので、遼太朗はR4らしくないなと思いつつ、けれど素直に彼の謝罪を受け止めてうなずく。

 琥珀も同じようにうなずいている。

 泰斗は素直なR4に嬉しそうだ。

「うん! R4えらい!」

「ホント? もっとほめてホメテ~」

「もう、すぐ調子に乗るんだから。でもあと1回だけ褒めてあげるよ。えらいよR4」

「ワーイ」

 楽しそうにじゃれ合う2人だが、遼太朗には、R4がなぜか寂しさを押し隠しているように見える。

 いや、待て待て、R4って機械だよな? 

 自分の思い過ごしだろうと、遼太朗は楽しそうな2人の肩に腕をかけ、思い切り締め付けてやるのだった。



 R4からの伝言? を受けた遼太朗は、資料整理のために個室に向かう泰斗とR4を見送ったあと、琥珀に了解を得て王宮に連絡を入れた。

 幸い丁央は執務室にいた。

「おう、遼太朗か、どうした?」

「いや、今、噂の琥珀と2人で過ごしてるんだ」

「おおそうか、……って、え? ええっ?! いや、あれはだな、その、なんだ……」

 慌てて取り繕う丁央に、しおらしい声音を作って言ってやる。

「丁央に脅されたって、泣いてたぞ、R4」

「ええ?! あいつがそんなタマか」

「とにかく、通信では埓があかないから、俺たちの顔を見てきっちり説明してもらおうか」

「えーと、あー今ちょっと忙しくて~、? ……」

 何とか逃れようとする丁央の言葉が少し途切れたかと思うと、通信の向こうから違う声が聞こえて来た。

「大丈夫ですわよ。今、休憩だあーって応接のソファにダイブしてたから、お茶を入れてあげてたところなの。今どこにいるの? ……図書館ね。お茶はポットに詰めて持って行ってもらうから、開いてる個室で待ってて下さる?」

 丁央の愛妻にしてクイーンシティ王妃の月羽だ。

「月羽~」

 少し向こうで情けない声が聞こえているが、丁央が月羽にかなうわけがない。

「5分で到着しますから、ちょっとお待ちになってね」

「わかったよ、行けば良いんだろ行けば。俺をなんだと思ってるんだよまったく」

 ブツブツ言う丁央に、遼太朗が事もなげに言う。

「俺たちの自慢の国王さ」


「お待たせしました! 自慢の国王が参上しました!」

 両手にバスケットを抱えた丁央がやってきたのが、数分後。

 なんと言ってもここは王宮に隣接した図書館だ。全力疾走すればここまで1分とかからない距離だ。

 あのあと、図書館の個室の空き状況を聞いたところ、あいにくその日は満室と言うことだった。それで、R4が嫌がるだろうなと思ったものの、ダメ元で泰斗にわけを話して隅っこを貸してくれないかと頼むと、こちらはすんなりとOKしてくれた。

「いやあ、お二人様、どうも驚かせてすまなかったねえ。これは俺の心からの謝罪の品だよ。月羽の入れた紅茶に月羽がさっき焼いたパウンドケーキ。ああそれから……」

 なんと、バスケットの中にはR4のエネルギーボトルまで入っていた。

「さすがはクイーンシティが誇る王妃さまだな」

「ほんとだ、することにひとつの落ち度もないね」

「月羽、エライ」

「あのさあ、持ってきたのは俺だぜ」

「ああ、頼まれて運んできたとも言うか」

「王妃さまの心づくしをね」

 皆に散々言われたが、丁央は嬉しそうだ。

 丁央は遊んでくれないと言っていたようだが、本当に日々あちこち駆けずり回っているのは丁央自身なのだ。

 たまには息抜きを。

 月羽はそう思ってここへ丁央をよこしたのだろう。

 ただし、遼太朗と琥珀の話は、息抜きだけで終わるものではないようだったが。


 泰斗が借りているのはかなり広めの個室だったので、大きな机をふたつ置いてもまだスペースが余るほどだ。その机のひとつでR4に大量の演算を頼んだあと、資料に没頭してしまった泰斗を横目に、遼太朗と琥珀が丁央に相談を持ちかけている。

「砂嵐が吹くあたりを調査したい?」

「ああ。お前も知っているとおり、あのあたりには一角獣が生息していないようなんだ」

「そうだな」

 丁央は天井を見上げてあのときのことを思い出しているようだ。

「リトルダイヤを通すために、わざわざ一角獣を配置したんだよな」

「そう。どんなに荒れた地でも、延々と続く砂の山でも、たいてい一頭は見つけられる一角獣が、あの砂嵐のあたりにだけいないんだよ」

 琥珀の言葉を引き取るように遼太朗が続ける。

「もしそうだとしたら、前回の水運びの時は、どうやったんだろうなと思って。歴史学を学ぶものとしては、非常に興味のあることだ」

「一角獣の生態を研究するものにとってもね」

 2人の言葉に考え込むようにうつむく丁央の横から声がした。


「じゃあ、水瓶の護りに聞いてみたら?」

 いつの間に没頭から解放されたのか、首をかしげつついとも簡単に言う泰斗がいた。


「きっと、教えテ、くれナイと、オモウ」

 そして、そのアイデアを即、打ち消すように言うR4がいた。







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