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第11話 果てがつながるとき


 地上に復活した新しい水瓶の国を守るように、大きな円を描いて途切れなく続いている砂嵐はやまないままだ。その様子は、どこかクイーンシティの高い高い壁を彷彿とさせる。

 ロボットと一角獣はここが落ち着くと、誰に言われるでもなく砂嵐の向こう、水瓶の国へと帰って行った。


 怪我人の手当も滞りなく終わった。

 さすがというか、命に関わるような大怪我を負っている者がひとりもいなかったためだ。

 その上なんと! 出血大サービスで、R4の移動部屋から「医療ちゃん」が医療チームの助っ人に入ってくれたのだ。

 医療班は、噂に聞く「医療ちゃん」の見立ての正確さと手際の良さを目の当たりにすることになる。限られた移動車の設備も魔法のように使いこなす。その様子に驚きつつも、彼らも一筋縄ではいかない。ひとつも見逃すものかと、その一挙手一投足を目に焼き付けていた。

 丁央は、怪我人の手当がすべて終わるのを確認すると、勇んで新しい移動部屋へと飛んで行き、目を輝かせて内部をくまなく捜索させてもらっていた。


 水瓶の護りも怪我人の手当が終わるのを見届けてからあちらへ帰ると言った。

 今から帰ると言う彼を見送るため、皆、砂嵐の前に集合している。

「僕たちも行きたいんですが」

 泰斗が願い出てみると、水瓶の護りは少し考えてから答えてくれた。

「大挙して押しかけられるのは困る」

 それだけを言うと、返事も聞かず砂嵐の中へ消えていった。

「大挙してってどういう意味だろう」

「移動部屋とか、でっかいのは使っちゃ駄目なんじゃないか?」

 丁央が言うので、それならばと試しに移動車で入ってみることにした。

 だが。

「何故か押し返されています。………無理ですね」

 最大出力で進もうとしても、頑として移動車は動かなかったのだ。

「だったら、このまま1人ずつ入っていくしかないよね」

 また思い込んだら命がけの泰斗が、皆が止めるのも聞かずに単身入っていこうとして。

「わ、わわわ!」

 すげなく押し返されてしまった。

 ガックリ落ち込む泰斗に、ハリスが不思議そうに言う。

「1人乗りの乗り物なら、あるじゃないか」

 彼が指さす先には、あのダブルリトルがある。

「ホントだ! 何で気が付かなかったんだろう。ハリスありがとう!」

 喜び勇んでダブルリトルに駆け寄ろうとする泰斗の首根っこを、遼太朗がつかんで止める。

「わあ、何するんだよ遼太朗」

「お前はもしあっちへ行けたら、嬉しすぎて連絡もせずにいるだろう? だから俺がお目付役で一緒に行ってやる」

「え?」

 後ろではステラが肩をすくめて頷いている。

「ああ、きっとそうなる、よね。遼太朗もありがとう」

「も、とはなんだ」

 ポカンと泰斗の頭を軽くはたいて、遼太朗は事の成り行きを見ていた丁央に、了解を取るように目をやる。

「これを持って行ってくれ」

 すると丁央は、何かを遼太朗に投げてよこす。受け取った遼太朗が見ると、それは携帯型音声通信だった。

「いちど通信を送ってみてくれ。通じればこれほど便利なことはないからな」

「了解」

 笑って言った遼太朗は、「早く早く」と急かす泰斗に苦笑いしながらダブルリトルに乗り込む。

 2台のダブルリトルは、しずしずと砂嵐へ向かい。

 押し返されることもなく、砂の向こうへと消えていった。


 2人が操縦しなくても、何故かダブルリトルは進んでいく。不思議に思って伸び上がるように外を見ると、そこではリトルたちが楽しそうにはずんでいるのが見えた。

「リトルたちが動かしてくれてるんだ……」

 そんなつぶやきの間に、ダブルリトルはあっけなく向こうへ着いてしまった。

 遼太朗が屋根カバーを押し上げて外へ出てみると。

「ああ、少しも変わらないんだな」

 水瓶の国は、覚えている姿のままそこに広がっていた。

「すごいね! あのまんまだよ。……良かった」

 泰斗も飛び降りると嬉しそうに言う。

サアー

 泰斗が来たのを感じ取ったのか、ロボットが1体やってきて彼の手を取っていた。

「来ても良かったの? ありがとう」

 カクンと頷くと、今にも向こうへ連れ去ろうとする。それを少し制して泰斗は遼太朗に言う。

「丁央に通信入れてみてよ」

「お、落ち着いてるな」

 遼太朗が少し驚いたように言うと、泰斗はうんと頷く。

「遼太朗がいてくれるからかな、それに丁央には心配ばかりかけてるし」

「そうか……」

 納得したように言うと、遼太朗は通信装置を起動した。

「え? 遼太朗? どうした!」

 何故か慌てる丁央に、「着いたぞ」と一言言うと、丁央の言葉が一瞬途切れて、

「もう着いた? ええーーー!」

 叫ぶ丁央が、まわりに教えている声がする。

「すごい! もう着いたらしい!」

「ええー、うっそおー」

「何かの間違いじゃないのー」

「遼太朗、夢見てるんじゃないのお」

 後ろで皆、勝手なことばかり言っている。

「間違いでも夢でもない。俺はこれから水瓶の護りと少し話し合ってから帰る。泰斗は……」

「僕はあちこちに挨拶してくるからちょっと遅くなるかも。じゃあね」

「だそうだ」

 遼太朗があちらにもこちらにも肩をすくめて言うと、丁央がそれを察したように言う。

「ご苦労だな、遼太朗。それからありがとうな」

「いいや、それで、お前から聞いておきたいことはないか」

「うーん、大挙とは何名くらいを言うのか。それと、また演習をお願いできないかなって」

「わかった」

 了解して通信を切った遼太朗は、振り向いて言った。

「だそうです」

 そこには、微笑んでいるような表情の水瓶の護りが立っていた。



 長い1日もようやく暮れて、砂漠に夜が訪れる。


 水瓶の国の砂嵐から少し離れたところに、ふたつの移動部屋が暖かく灯をともして立っている。

 今宵は移動部屋の灯りが届くあたりで、ささやかな宴が開かれているのだ。

 飲み物を手に、夜空を見上げて月羽が言う。

「このあたりはトライアングル星座の領域なのかしら」

 その言葉通り、空には綺麗な三角を描くトライアングル星座が輝いている。

「もとはジャック国が侵略しようとした場所。星も不本意だろうけど、ここを照らすのはあの星座になるのでしょうね」

「星が不本意って、面白い」

 ステラの言葉に思わず笑顔になる月羽だ。

「でも、まだあんなにたくさんの戦闘ロボがいたなんて」

「あれは醜い人の念が作り出した亡者ども」

 悲しそうに言う月羽に返事を返したのはラバラだった。

「亡者ですって? それでしたら、どんなに倒しても復活するのではありませんこと?」

 パールが驚いて言う。

「うむ、普通はの。じゃが、今日の事で大掃除は済んだ。もう復活はせぬ。あとはわしらの心根次第じゃよ。平和を願う心に嘘があれば、奴らは何度でもよみがえってくるであろう」

 ラバラの言葉に、集まっていた女子たちは、あらためて平和を願う思いの大切さを胸に刻むのだった。

「あ、おばあさま」

「ラバラさま」

 ステラとララが同時に言葉を発する。

 空を見上げる2人の目線を追うと、そこには。

「まあ」

「また揃ったわね」

 トライアングル星座を真ん中にして、ペンタグラム星座とツインダイヤモンド星座が輝いていた。

「綺麗……」

 誰かがつぶやいた言葉に、レディたちはひととき、言葉を忘れて空を見上げていた。


 そこへむさ苦しい野郎がやってくる。

「ラバラさま」

 丁央だ。

「おお、どうした」

「また3つ星座が揃ったって、あいつらが大騒ぎしてるんですよ。何かまたおこるんじゃないかって。で、国王聞いてこいって」

 男子たちは大宴会をしていて、かなり酔っ払っている者が多いらしい。国王を使い走りにするくらいには。

「おお、何かおこるかもしれんぞ」

「ホントですか!」

「何かおこらないかもしれんし」

「何ですかそれ~、もういいです。何もおきないって言っとこうっと」

 そう言いつつ、また丁央はおぼつかない足取りで宴会へ戻っていった。

「男子はのんきでいいな」

「まあ、そういうもんでしょ」

 近衛隊女性隊員もいつもなら男子と酒比べをしているところだが、今日は女子会に参加している。やはりラバラがいる今宵は特別なのだ。


 遼太朗はあのあと、水瓶の国に1度に行くのは10名程度に抑えることと、演習なら砂嵐の外で行えば良いと言う答えを持ってこちらへ戻っていた。

 泰斗は?

 当然、向こうに行ったままだ。



 次の日。

「おわっ、何かおこってるじゃないか!」

 朝一番に移動部屋から出て来た丁央が叫んでいた。

「あっちの砂嵐が復活してる!」

 ここから少し先、第5拠点の手前に、また左右に延々と続く砂嵐がよみがえっていたのだ。

「早いの」

「あ、ラバラさま! 何かおこってましたよ。ほら、砂嵐」

 と、丁央が指さして言うと、ラバラはのんきに返事をする。

「おう、そのようじゃ」

「そのようじゃって、どうなってるんですかあ」

 すると、ここから見える限りの端から順に視線を動かしながら、ラバラが言う。

「昨日の戦闘ロボ、あいつらがまた復活したらどうなる?」

「どうなるって、ええ?! まだいるんですか」

「わしらの心根次第。じゃがもし復活すれば、一番に襲われるのは旧ジャックの国」

「というと、……あ!」

「そう、今で言うダイヤ国じゃ。されどあの砂嵐が、ダイヤの国を守ってくれる」

「ああ、そう、ですね」

 納得したように言う丁央に、ラバラがもう一度言う。

「ダイヤ国はその昔から平和を望み、争いを嫌う国。それだからこそ護りがついてくれるのじゃよ。心しておけよ、国王」

 珍しく真顔になってラバラの言葉を聞いていた丁央は、しっかりと返事をした。

「はい、胸に刻みます」

 すっとその手を取る者がいる。

「月羽」

「私も、心しておきます」

 いつの間にか来ていた月羽と丁央の2人を見ながら、ラバラはうんうんと頼もしそうに頷くのだった。



 その日、ようやく帰ってきた泰斗も入れて、クイーンシティに座標を合わせたふたつの移動部屋は、彼らの大切な人たちが待つ場所へと帰って行った。







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