序章
全てがどうでもよかった。
あの日以来ずっと、そう思ってきた。生きているのではなく、死んでいないだけ。
誰と関わるでなく、ただ空虚な時間を過ごすだけの毎日。こんなのは生きているとは言わない。
誰かが、人は平等だと言っていた。
学校に通っていた頃、道徳の教科書にも書いてあったような気がする。
けれど、それは間違いだ。…平等なものなんてない。誰かが幸せを得る分だけ、どこの誰かが不幸になっている。
その誰かが、私なのかもしれない。壊れてしまった私にはもうわからない。
生きていたいと思ったことはないし、死にたいと思ったこともない。
なぜなら、もうそれが分からないかだ。実際、私がこの世から消えても誰も気づかない。
だから今、私の目の前にいる見知らぬ男が、私の首を絞めて殺そうとしていても、心はざわつかない。むしろ、これでようやく終わると思えるくらいだ。
息を切らした男が私に何か言っているが、どうでもいい。早く楽になりたい。
息苦しさを感じると共に、少しずつ意識が遠くなっていく。視界の端が明滅し、光っている。
光の粒が乱反射し、虹色に光る。他の人はこれを見て、綺麗だと思うのだろうか。
でも私は何も思わない。壊れた心では何も感じない。
少しずつ光が強くなり、私の視界を埋めていく。
(ああ、ようやく死ねるんだ。)
もう目の前もわからない、後はこのまま意識をなくせば終わる_____。
"マダオワリデハナイ…ココカラハジマルノダ"
(え…?)
私の首の骨が折れた最後の瞬間、そう聞こえた気がした。