一箇所目 5.1
「その覚悟が有るなら、今日までの自分を修正しなさい」
この言葉を聞いた瞬間、僕の手は修正作業が出来ない程にガタガタと震えた。
何より、心の奥底にズシンと響いた。
そうだった…修正するって事は後悔しながらも今まで歩いて来た3年間……今まで自分の記してきた道が消えるんだ。軽い気持ちじゃダメなんだ。
そんな強い覚悟、僕にあるのか?
本当に後悔しているのか?
変えたい人生なのか?
目を開けると、体が半透明になりつつあり、部分的な淡く光っている。
本当だ……本当に、この修正は実行されてるんだ。
正直に言うと、怖い…。
もし、人生の分岐点が今だとしたら……僕は。
その想いが浮かんだ瞬間、別れ際の蒼ちゃんの笑顔が浮かんだ。
蒼ちゃんの身近に居て、一緒に高校生活を送りたい。
もっと蒼ちゃんの事を知りたい。
もっともっと、彼女のたくさん笑った顔が見たいんだ。
蒼ちゃんの笑顔が、僕の心に絡みついた迷いの鎖を断ち切った。
「僕は変えたい。今のままじゃ一生後悔する。例え失敗しても良い。だから……やり直す!!」
女の人に笑いかけ、一気に18歳の最後、今日の項目を修正ペンで白く塗り潰した。
そして、目の前の女性に力強くピースサインを叩きつけてやった。
「ったく、アンタも良い顔できんじゃないさ」
辺りが修正液の白に包まれる。
今日までの三年間の自分が稀薄になっていく様に感じる。
女の人が、顎の下でピースを作って、ウィンクした。
「Good luckよん。頑張って良い修正しなよ、欧介」
小意気なマダム流ピースに見送られて、僕の意識は消えた。