一箇所目 5
本を捲って、ページを読み進める。
確かに、本の中に自分が産まれてから、今日この瞬間までの18年間が記されている。
しかも、何月何日に何が起きたのかまで、こと細かく記載されている。
ハッキリ言って、身に覚えのある事ばかり……?
いや待てよ。
確かに不思議だが……でもこれは、ある種の心理的トリックかもしれない。
室内にはアロマの濃厚な匂いが充満して、頭も何だかクラクラしている。
アロマのせいで認知力が低下して、本の内容が本当に有った事だと思い込んでいるだけかもしれない。
そう、きっと勘違いだ。
なら、どうする?
この内容を修正する?
してどうなる?
大丈夫だ、絶対に何も起こらない。
これは新手の冷やかし、嫌がらせだ。
そう自分に言い聞かせて、とにかくこの怪しい空間から出る為、僕は言われた通りに中学3年生から今日までの目次を消していく。
最後の項目、18歳の3月。
今日の日付に差し掛かった時、
「今まで自分の記録を修正するという事は、綺麗さっぱりやり直しが出来て、変えたい過去を変えられるという事よ。その反面、今まで築いてきたアンタの周りの人々との繋りも真っ白に元通り……」
女性は今までに無く真剣な口調で呟き、目の前に開かれているページを意味有り気に撫でた。
「そう…今は良好な両親との絆。この3年間で知り合った全ての人の絆もね。やり直した先の未来で、アンタ自身に苦しみや悲しみ、災いが降りかかるかもしれない。アンタがやり直した事で、誰かが犠牲になるかとしれない。そうゆう因果は全ては自分持ち。やり直せない最悪の未来になる可能性が有るという事をお忘れなく。もちろん今より幸せになる可能性もあるけど……」
女の人に真っ直ぐ、強い眼力で見据えられた。
その眼力に気圧され、僕は目を閉じてしまった。




