一箇所目 4.1
「いらっしゃーい」
甘っるい声と共に、先程の女の人が正面の窓際に立っている。
店の中はアロマの匂いが漂い、正面の窓と部屋の中心に置かれた机と椅子以外は、分厚い本や薄っぺらい本で埋め尽されている。
これは……どうゆうテーマを表しているんだろ……。
うず高く積まれた本の山を見回していると女性が声を掛けてきた。
「さっそく始めよっか。例のアレ出・し・て」
その言葉の怪しい雰囲気に心臓が跳ね上がる。
「は、はい!でも、あ、あの僕は、こうゆうの初めてで……」
「アァン!!何、モジモジしてんのよ気持ち悪い」
般若の如き形相で睨まれた。
「ヒ、ヒィィ〜……」
「チッ!!ケツのポケットに隠してるモノを出せって言ってんのグズ」
「ふえぇ……ポケットですか……」
会って5分程しか話してない女性にゴミを見るような目で見据えられ、気持ち悪い&グズと吐き捨てられた、僕の気持ちを優しい誰かと分かち合いたい。
素早くズボンのボタンから手を離し、左尻のポケットに手を突っ込むと細長い何かが手に触れた。
これは……。
勢い良く取り出したモノ。
それは、修正ペンだった。
「えっ。な……んで」
こんなモノ、修正ペンなんてズボンに入れた記憶はない。
確かにない。
断言できる。
いつもこんなモノ、持ち歩かない。
「ハァァー。ったく……コッチに座んな」
深いため息と共に、女の人が手招きして椅子を指差した。
無言で指示に従い、テーブルに向かって歩く。
椅子に腰掛けて前に置かれた、厚みの少ない本を見た。
《真田欧介 18歳 男 18年間の記録 》
そう題名が書かれている。
「それで…どっからやり直したいの?赤ちゃんから?それとも一週間前から?」
まるで、いつも通りの事を。
当たり前の事をするような、そんな口調だ。
「うわっ!!嘘くっさぁ〜」
突然の展開に、ついていけず僕は反射的に本音を溢してしまう。
言い終えて、しまったと思った。
これは、絶対殴られる……。
歯を食いしばって、身を怖張らせた瞬間、女性は不思議な雰囲気をかもし出した。
「あんたは、人生を強くやり直したいと願ったでしょ?その強い思いがアンタをこの店に引き寄せたのよ」
女の人は諭すような優しい口調で、僕の名が記された本を手渡してきた。