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一箇所目 2

私事ですが、何故か左肩に炎症が……。

「あぁ、一回で良いからこんな女の子に〈だいしゅきほーるど〉されて、朝まで過ごしてみたい」


「えっ……」


女子高生が驚いた表情でコッチを向いた。

彼女の少し癖の掛かった栗色の髪が揺れる。

そして、大きくて真っ黒な瞳が僕の心を射抜く。


「……」


「……」


ヤバッ……妄想に耽りすぎて、声に出してしまった。


数秒見つめあった後、僕は弾かれたように立ち上がり、運動不足でダルダルになった足を必死にまわし、女子高生の横を走り抜けた。


…。

……。


僕は、近所の空き地まで駆け抜けて来た。

もう、その頃には息も絶え絶えで土管に座り込まずにはいられなかった。


そして、右手の妙な軽さに気付く。


「あれっ…カバンが無い……」


そう、右手にいつもの重みが無かったのだ。


カバンには、我が母校の卒業証書と卒隊記念の色紙が入っている。


まぁ……いいや。卒業証書なんてただの紙さ。カバン取りに戻って顔を合わせるよりマシだ。


自分にそう言い聞かせ苦笑気味に証書諦めた。


目の前には卒業式帰りの中学生の姿がチラホラ見える。


はぁ…三年前、中学生に戻れたら…。

あの頃もっと勉強してたら、共学の高校に入り直せるんだけどな……。


三年間を棒に振ったと思うと、虚無感に襲われ無性に悲しくなる。


ため息混じりに、ふと足元に目を落とすと紙が目に入った。


なんだコレ‥エロ本の切れ端?


少し期待して手に取り、中を見てみると広告らしき文章が書いてあった。


《人生やり直したい方に朗報!!あなたが持っている修正液で修正したい過去を修正出来ますよ!!

詳しくは泉区5番地 雑貨屋 ローズマリー》


数秒リアクションに戸惑った後、ふと我に返る。


ハハッ、タイミング悪っ…。ちくしょう…こんなインチキ広告、誰が捨てたんだよ!!


怒りと悲しみで紙をグシャグシャに丸めて遠投した。僕の渾身の怒りのエネルギーが加わった紙クズは距離を伸ばす。


そして、突然高度を下げ空き地の草むらにパサッという音を虚しく響せ消えた。


気分がどっとヘコんだ。

最悪の気分を抱えて、家に帰る事にした。



…。

……。


家で一段落して居ると、一階から母さんの声が聞える。

何やら嬉しそうな声色だ。


「欧介、お客さんよぉ」


ナンビトだよ。至福の時間をぶち壊すヤツは。


母さんに不満たらたらの文句をぶつけて、玄関に出た。


「ハイハイ、どちらさんっすか?」


明らかに迷惑な雰囲気を滲ませていたが、それを後悔してしまう。


そこに立っていたのはバス停で、気まずい展開に包んでしまった女の子が立っていた。


改めて見ると、人気アイドルと見間違えるほどの容姿だ。

 

軽くクセのかかった栗色のセミロングの髪に色白で整った顔立ち。


セーラー服がこの上なく似合っている。


スタイルも良い。

セーラー服の下から、主張している何かを目が捉えた。


そう。

僕がお金を貢いで育てていた、地下アイドルやオタサーな女子の比ではない。


本当にお人形さんみたいだな…。


僕は、思わずボーッと黙って見つめてしまった。


そんなアホ面の僕に女の子は笑顔を作った。


「あの……真田欧介さんですか?」


女の子がヤンワリと切り出した。


僕は、突然名前を呼ばれたのでビックリしてしまい、話し出すまで時間が掛かった。


「……はっ、はい。真田欧介は僕ですが何か?っていうか、さっきはごめんなさい」


自分でも驚くほど早く口が動いていた。


うわっ、すごい久しぶりに普通の女の子と喋ったなぁ。


「カバンをバス停に置いたまま、急に走り出したのでビックリしちゃって…それで、卒業証書が入っている様なので届けにきました」


あぁ…そんな、銘東の卒業証書ごときで家まで届けてくれるなんて…。


何て良い娘なんでしょう。


「では、夜分に失礼しました。おやすみなさい。」


感極まる僕を尻目に、幸せな会話の時間は突如閉幕した。


一礼し女の子はドアのノブに手をかけた時、


「あっ、あの、もう日も暮れてるし、ちか、近くまで送りますよぉ」


自分でも驚いたが、口が無意識に動いていた。


「あっ、でもそのTシャ……」


「お、送りたいんです」


勇気を振り絞って言った。


すると、女の子は微笑んでくれた。


「では、お願いします。」


「は、はい」


二人で歩き出して、自分が傍から見ても明らかにオタサーのモノだと分かるTシャツを身に纏っている事に気付き、脂汗が吹き出した。


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