町内ノラネコ会議
半世紀前、高度成長期の集大成ともいうべきイベント、万国博覧会が大阪で開催されようとしていた直前、老人と子供がポルカに乗せてやめてケレと訴えたのは、ゲバ、ジコ、ストでした。
これを現在の世界情勢に置き換えるなら、さしずめデモ、サギ、テロといったところかしら。
ともかく、時代の急速な変化に押し流されて犠牲になりやすいのは、いつだって声の小さな力の弱い立場だということに変わりはないでしょう。
さて。
そんな私たちの不可思議な生態を、野良猫たちは、どういう目で見ているのでしょうか。
日も暮れた夜の空き地で、人間の耳にはニャオニャオウーウー言っているようにしか聞こえない彼らの会話を、ちょっと翻訳してみましょう。
「やぁ、靴下くん。ご機嫌いかがかな?」
「なんだ、ハチワレか。今日は満足に昼寝できなかったから、ちょいと睡眠不足だ」
「縄張り争いでもしたのかい? それとも、変な物でも食べたとか?」
「そんなんじゃねぇよ。俺を何だと思ってやがるんだか。ほら、最近、詐欺に注意しろだの、不審者に気を付けろだの言って回ってる車が増えただろう?」
「あぁ、あのパトロール隊だね。たしかに、僕も少し迷惑してるよ。日中に身体を休めなきゃいけない立場が、まるでわかってないから困る」
「あら。何が迷惑なんですの?」
「おっ、今度は三毛か。なぁに、こうるせぇ野郎が増えたなぁって話さ」
「あぁ、そういうこと。そうね。ここのところ、なんだか騒々しいわ。たしか、一昨日のことだったかしら。駅前で、差別を無くそうって演説をして、居丈高なお巡りさんに止められた人間が居たじゃない」
「その話なら、僕もサビさんから聞いたよ。ひと悶着あって、取っ組み合いになったんだってね」
「おぉ、そいつは物騒だな。勇気を出して声を上げたってのに、ねじ伏せられちまったのか。かなわねぇな」
「可哀想なことだわ。通りすがりの小さい子たちが、変なトラウマを覚えなきゃいいけどねぇ」
「そうだね。差別に抗議して暴徒と化しても、差別は無くなるどころか、より強固なものになるばかりだ。賢くならなきゃ」
「もっともだな。差別している側からすれば、差別されている奴らの訴えに耳を傾けるよりも、そうした一部の狼藉者を見て、やはり鎮圧しないと駄目なのだと再認識してしまう方が多いだろうからな。こんな簡単なことも分からないなんざ、人間って奴は大バカ者だ。フア~」
「あらあら、靴下くん。まだ宵の口なのに、おねむなのね」
「満足にお昼寝が出来なかったんだってさ。そっとしておいて、場所を変えようよ」
「まぁ、そうだったの。それじゃ、お寺の縁の下へでも移動しましょうか」
ハチワレ猫と三毛猫は、靴下猫を土管の中に残し、ヒョイと竹垣の上に飛び乗ると、そのまま夜の町へと消えていったのでした。