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白の魔女との旅  作者: 鶯餡
1章 旅立ち
3/4

3.「僕と、一緒に世界を知ろう。」



「……でも、シロはどうして眠ったの?」


 ポツリ、と疑問の言葉を口にする。

 眠る前、眠ったあと、という話があったが、シロはどうして眠ったのだろうか。

 いや、普通の睡眠なら必要だろうけど、何年も寝ていた口振りだし、魔女だし、封印みたいなのはあり得るだろう。



「ええと、一言で言うと、“殺されないため”かな」


 なっ!!……

 なんて物騒な!!……


「ど、どうして?昔ってそんなに怖かったの?」

「…………そうだね、魔女にとっては恐ろしかった」

「ひぇっ」


 その偉く本当のことのような口振りに背筋が凍る。戦争やらなんやらでもあったのだろうか。殺されないためって、この魔女がすごい大罪をおかしたとか?めっちゃ美形だし、意図も簡単にやりそう。偏見か。すまん。


「西暦……406年ぐらいだったかな?その頃に、僕は白の魔女としてこの家に生まれた」

「へえ」


 生まれながらに魔女だったのか。

 でも魔女っておとぎ話とかだと結構苛まれる役なのよねえ。


「白の魔女は代々受け継がれていってね。男の子を産んで、女の人を嫁がせるって感じだったんだけど。



やっぱり世間では、魔女は呪いの象徴だった」


 ……やっぱり。何処か予想できていた。

 だって私も、怖くなるもん。魔女だなんて、魔法だなんて、急にそんなこと言われても、怪しいとしか言いようがない。

 でも呪いは言い過ぎじゃない?いくら怖いとはいえ、悪魔の力とかでもないんだからさ。


「だから、政府も動いた。“魔女狩り”を始めた」


 魔女狩り……。聞いたことのある、その言葉。

 確か私の世界で言うところの何処かの国が魔女狩りをしていた。名前ぐらいしか知らないけれど、魔女ではない幾多の人も犠牲にされたという。


「やっぱり、残酷すぎた。人なのに魔女と関わった人間も、魔女の力が憑いているかもしれないと恐れられ処刑された」


 残酷すぎる。

 魔女であるからといって、処刑するなんて。

 それに、魔女と関わった人まで、だなんて。いじめみたいなもんじゃないか。

 魔女って、とってもすごい種族なのに。仲良くして、力を貸してもらえれば国だって栄えるはずだろうに。

 でも、皆はそれを信用できないんだろう。

 

「それで不満を募らせた残りの魔女達は対抗側と安静側とに別れた。対抗側は反乱を起こす魔女達。出来るだけ強い魔女を集めた側だ。お父さんも、そこに自ら入ったよ」


 まるで徴兵令だ。

 でもきっと、魔女達は自分達の権利と威厳を守りたかったんだろう。


「安静側は、子供の魔女やまだ力の弱い魔女が、魔女が絶滅しないよう後世を守るため封印、眠る側」


 これがシロって訳か。

 シロは自分を守るために、魔女を絶滅させないために眠っていたんだ。

 あれ、これ、私が起こして大丈夫だったんか。てかどうしてその眠りを私がとけられたんだろう。ちょっと、いやかなり意味がわからない。


「……その戦いの結果は、僕にもわからない。どうなったんだろう」

 

 寂しげに、彼は呟いた。

 多分その戦いからきっと数年もの時間が流れているだろう。

 いくらか予想はできた。

 勝っていたのなら、もしも勝っていたのなら、お父さんが彼を起こしていたはずだ。もう大丈夫だって、きっと言っていたに違いない。

 でも、私が起こした。それは、動かぬ事実。

 きっと、きっと、シロのお父さんは……。

 ギリギリ、と唇を噛む。目尻には涙が浮いてきて、どうしようもない感情に苛まれた。私は彼に、どんな言葉をかけてやればいいんだろう。


「……ふふ、泣きそうな顔しないで?可愛い顔が台無しだよ」


 チャラ男じみた言葉を付けて笑った彼は、服の腕の裾を私の目尻に押し当てる。それはひどく優しい涙の拭き方だった。

 にっこり、と微笑んだ彼の瞳には、寂しさというのがないのだろうか。

 先程はあんなに寂しげだったのに。

 私は、貴方の寂しさを、拭ってあげたい。





「ねえ、シロ」


 魔女狩りの反乱は、どうなってしまったのか。

 シロのお父さんは、どうなってしまったのか。

 他の魔女は、もういないのか。

 シロの気持ちは、どんなものなのか。


「知りたくない?全部」

「ぜん、ぶ……?」


 私の言葉に、彼は戸惑い始める。

 急にそんなことを言ったのだ、むりもない。


「今が西暦何年で、今のこの世界はどんな状況か。

反乱した魔女は、どうなったのか。シロのお父さんは、何処にいったのか。魔女狩りは、もうないのか。魔女は、ほとんど絶滅したのか。

私はどうしてシロを目覚めさせられたのか」

「…………」

「知りたくない?全部。私は知りたい。この世界に来て、見知らぬ土地で、見知らぬ場所でシロに会えた。それはきっと、私が知らなかったから」

「……」

「なら、もっと知らないことを見つけて、知ろう。世界を見てようよ」


 シロの真っ白な瞳が、潤い始める。

 光のなかった瞳に、少しだけ灯火が現れたようだ。






「私と、旅してみない?」


 日本では、到底しなかったであろう、「旅」。

 アニメや漫画では軽く書かれているが、きっと道先は困難だ。でも、その中で、知るものが必ずあるはずだ。

 残酷な未来でも、幸せな未来でも、一緒に向き合っていきたい。

 シロのその寂しげな顔を、なくしてあげたい。

 悲しみを、怒りを、喜びを、幸せを、分かち合いたい。

 過去を見るだけではなくて、未来を見よう。私と一緒に。


「た、び……」

「子供の頃、ちょっとした夢だったの、仲間と冒険……みたいな感じ」


 今なら、叶えられる。

 仲間(シロ)と共に、旅ができれば、冒険ができれば、きっとかつてないほど楽しいだろう。今までの社畜の人生に比べたら、天と地の差だ。

 




 ……あれ、でも旅って。


「あっ、や、やべえっ!私お金も食べ物もない!えまって旅できなくない!?ごめんんんん!!旅できない!!」


 バカだった!!私がバカだった!!

 ろくに金も持ってないくせに旅しようだなんて、シロに全面的にやらせるつもりだったのか私は。

 駄目だ。こんなの駄目だ!私から誘っておいて払えないだなんてシロに申し訳ない。

 仕方ない、旅はやめよう。でも、やめたら私、何処にいけばいいんだろうか。街に出て、住み込みで働かせてもらう?でも、異世界人と私とじゃきっと見た目も違うから、人を混乱させてしまうに違いない。雇ってくれるだろうか。文化も育ちも違う私を。

 あぁ、不安になってきた。何が知ろうだよ!何が知りたいだよ!!旅できねえじゃねえかよこのく○やろう!!





「行く」

「…………へ?」


 え、何処に。

 顔をあげた先の彼の顔は、決意を固めたような真剣な表情だった。そんな格好いい姿に、私は思わず息を飲んだ。




「僕も、旅がしたい」


 ………………えっ。

 こ、こいつはさっきよ話を聞いていたのだろうか。


「わ、私、お金持ってないから、働いてから……」

「多分この屋敷の中に遺産があるはず」

「い、いや!それに私、この世界の文字とか色々知らないし!……」

「僕も何年も眠ってたから知らないよ。

君はさっき知ろうっていってくれたじゃないか」

「そ、そうだ、けどさ……」


 シロにまんまと言われてしまい、どうにも対抗する言葉が浮かばなくなる。

 どうすれば、いいんだろう。

 旅を選べば、何もできない私はきっとシロに頼りきりになる。頼るのに慣れていないのだ。日本にいた頃も、ブラック企業だったせいか皆ピリピリしていてどうにも頼れなかった。

 それに、まだ少しだけシロが怖い。

 いつか私を裏切って、魔法で殺しちゃうだなんて、被害者染みた考えが頭の中によぎる。そんなことはない。そう信じたいのに、信じられない。


「アイカ」

「……………」

「……旅、したくない?」


 したいよ。したくないわけないじゃん。


「し、たい、……けど、さ」

「なら、しようよ」

「だ、だから!私はシロのお荷物に……」

「そんなことないよ」




「君が僕を目覚めさせてくれなかったら、君じゃなかったら、多分旅だなんて発想無いだろうし」


 こ、答えになってなくない?

 旅って言う発想は確かにちょっとぶっとびすぎてたかもしれないけどさ。


「それにさ、僕、頼られることに慣れてないんだ」

「え?」

「だって、僕にとってはついさっきまで子供だったんだよ?親に甘えて、頼って……。だから、頼られるようになりたい」


 シロ……。

 この気持ちは、同情だけじゃない。

 こんな真っ直ぐなシロを見て、うじうじしていた私が恥ずかしくなってきた。




「僕と、旅してみない?」

「……ふっ」


 思わず、笑みがこぼれる。

 _____完全なるパクリだ。

 それでも彼は苦笑いを浮かべるだけで、何も言わず手を差し出した。



「僕と、一緒に世界を知ろう」






 私は、頼ることに慣れてないんだ。

 だから、君を頼れるようになりたい。


 その手に、自らの手をのせて。




「うん!」



 私たちが見る世界は、残酷なのか、それとも輝いているのか。

 見よう。

 触れよう。

 

 そして、知ろう。


 君と、一緒に。


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