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僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?  作者: 釈 余白(しやく)
僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?【本編】
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秘密が後ろめたさになる

 金曜は木戸とやりあって途中で帰ってしまったが、朝練の時にはそんなことあったのかと思うくらいなんともなく、二人ともいつも通りだった。


 真弓先生はチラッと顔を出したがすぐに職員室へ戻って行ったし、金曜は校外学習で不在だったマネージャーの由布が朝から張り切っていて、週末一日いなかっただけであんなに平和だった野球部がまた騒がしくなっている。


「主将、いえいえ、せんぱーい!

 真弓先生が呼んでますよー」


 由布があのバカでかい声をさらに張り上げて、グラウンドの外にある水道の辺りから叫んだ。どうやら木戸が呼びだされてるらしい。


 わかったと大声で返事をした木戸は、部員たちへそろそろ片付けに入るよう指示を出しながら職員室へ向かって走って行った。練習が始まる時には何も言ってなかったのに、職員室へ戻ってからわざわざ木戸を呼び出すなんて何かあったのだろうか。


「真弓ちゃんが練習中に誰か呼び出すなんて珍しいな。

 なんかあったのかね?」


 どうやら丸山も同じ意見らしい。それくらい珍しいことなのだが、他の部員はあまり気にしていないようだった。まあ珍しいからと言ってトラブルとは限らないし、木戸が着替えに戻ってきた時には理由もわかるだろう。


 とりあえずは道具を片付けて部室へ戻った。一年は先に引き上げてシャワーを済ませていたので先に教室へ向かわせる。続いて僕たち二年生もシャワー室へ向かった。


「カズ先輩!

 まだ時間大丈夫ですから部室で待っててもいいですか?」


 いったん教室へ向かったはずの由布が戻ってき声をかけてきた。何の用かは知らないが一人特別扱いするわけにはいかないと説明し引き揚げさせる。


「よおカズ、マネージャーに冷たすぎないか?

 別に部室で待ってるくらいいいじゃないか」


「チビベン、そう簡単に言うなよ。

 なんと言ったって、僕はマネージャーに狙われてるんだぜ?

 昼休みにまた押しかけてくるに違いないしさ」


「だからさ、嫌いってほどじゃなけりゃ付き合ってみるとか?

 もうちょっと前向きに考えてあげりゃいいのに」


「ちくしょう、モテるやつらは会話が違うな。

 俺にも春が来ないもんかねえ」


 空気を読まず割って入って来たのは丸山だ。これ以上この会話を続けたくなかった僕には助け舟に等しい。バレー部の先輩と付き合い始めてからのチビベンは、二年生で一人だけ彼女持ちになってしまったのが気まずいようだ。


「丸山に誰か紹介してもらえるよう頼んでるけどさ。

 向こうも夏の大会があってなかなか難しいみたいなんだよね」


「木戸があんなんなっちまったから頼りになるのはチビベンだけだぜ。

 マジで頼むよ」


 なんでここで木戸の名前が出るんだ? 僕はたまらず丸山に聞いてみた。


「あんなんってどういう意味さ?

 別に変った様子はないだろ?」


「カズは鈍いからなあ。

 ホント野球しか頭にねえんだな」


 丸山はそう言って笑っている。しかし野球しか頭にないと言うのは的外れだ。とはいってもそこは秘密にしておかないといけないわけで、この場は言われるがままにしておこう。


「だから何があったのさ。

 木戸がどうなったわけ?

 チビベンも知ってるのか?」


「知ってるけど別に大したことじゃないよ。

 むしろいいことだから心配することは無いって」


 そんな会話をしながらシャワーを浴び始めたところで木戸が戻って来た。


「おいおい、人のうわさ話かよ。

 どうせいいことは言ってないだろうけどよ」


「いや、丸山とチビベンが木戸に何かあったっていってるんだけどさ。

 僕には思い当たることがないんだ。

 でも悪いことじゃないって言うんだけど、それってどういうこと?」


「さすがカズだな。

 普通本人へそんな風に確認しないぜ」


 丸山が口を挟んできた。そんなこと言うなら先に教えてくれりゃいいんだ。


「なんだよ、そんなくだらない話か。

 別に秘密にしてるわけじゃないんだけどよ。

 これからは女子に告白されても全部断ることにしたってだけだよ」


「う、うそだろ?

 なんでそんなことにしたんだ?

 信じられないな・・・・・・」


「まあ色々と理由はあるけどさ。

 もしかしたら高校で最後かもしれないじゃん?

 主将も任されたことだし、マジで気合入れてやってんのよ」


 最後と言うのはもちろん野球をやることがという意味に違いない。木戸は卒業後に家業の居酒屋を継ぐつもりだと言っていたので、野球がやりたいからという理由での進学やノンプロへ行くことは考えてないのだろう。


 しかし、まさか女癖の悪さで名高い木戸がそんな風に考えていたなんて夢にも思わなかった。それほど野球に本気と言うことなんだろう。


 それなのに僕は咲と過ごす毎日にうつつをぬかし、練習の手を抜くことは無いにせよもしかしたら取り組む姿勢には影響が出ていたかもしれない。


 部室へ戻った僕がそんなことを真剣に考え込んでいると、木戸がそんな大層なことじゃないからあまり考え込まないようにと言ってきた。


「大体よ、今までがおかしかったんだよ。

 こいつ今までに電車のホームで女子から告白されたことが何回あったっての。

 学校でもそうだけど、いくらなんでもモテすぎだろ。

 羨ましいとか通り越して不思議で仕方ねえわ」


 過去にも同じようなことを言っていたが、丸山が大げさに言っていると思っては話半分に聞いていた。しかしそれはどうやらほぼ事実らしくチビベンが続く。


「そうそう、俺は駅までしか一緒じゃないけど、この一年ちょっとで木戸に何人話しかけてきたって。

 いちいち数えてられないし、そんなの覚えてられないくらい多いんだよ。

 マルマンが言う様に俺だって不思議に思ってるよ」


「マジか。

 学校内だけじゃなかったんだな。

 さすがナナコーいちのイケメンだよ」


「だってさ、いつだかなんて全然知らない社会人風の女の人にナンパされたんだぜ?

 そんでこいつサインとかしてんだよ。

 ほんの少しでいいからその才能か? 分けてほしいわ」


「去年の十二月の話か。

 あの時の二人組は結局うちまでついてきちゃって参ったよ。

 今じゃすっかり店の常連さ」


 話を聞いているとまるで別世界の事みたいだ。学校内なら野球部の主将でイケメンで、しゃべりもうまいのでわからなくもないが、まさか見知らぬ女性から声をかけられるほどだとは思わなかった。


「まあ木戸がモテモテなのは知ってるからいいとしてさ。

 これまで以上に練習に励むってのはいいことだね。

 僕も見習わなくっちゃいけないって感じるよ」


「カズは十分野球漬けだろ。

 朝から何キロメートルも走ってるやつなんてそうそういないぜ」


 僕は胸がチクリとしたが、手を抜いているわけじゃないのか確かだ。


「それで真弓先生の話はなんだったのさ。

 あれか? 取材の事か?」


「お、よくわかったな。

 水曜の取材の事と、今週美術部がデッサンでうろうろすっからって説明だな。

 バスタオル一丁でうろうろしないようにってまた言われたよ。

 それと取材が来た時に軽口言わないように、だってさ」


「真弓先生、随分心配してるんだな。

 そんなに僕たちが信用されてないなんて心外だよ」


「まあ主に俺が言われてることだから気にすんな。

 当日は真面目で爽やかな野球少年を演じるさ」


 普段おちゃらけているようでも木戸なりに考えていることはあるのかと感心すると同時に、彼女が欲しくてたまらない丸山、できたばかりでちょっとだけ浮ついているチビベン、ハカセはそんなそぶり見せないけどやっぱり彼女は欲しいっぽい。


 そして僕には…… 咲と秘密の関係がある。


「じゃあまた昼休みにな」

「おーう、おつかれー」


 通学の波に合流した僕たちはそれぞれのクラスへ別れていった。よし、僕も野球にかける情熱は誰にも負けないつもりで取り組もう。そう思いつつふと思い出す。


 教室へ入って鞄を置いた後、まだ時間があることを確認してからメールを打った。あて先はもちろん咲だった。


『今日の夕飯用に刺身の盛り合わせが送られてくるから一緒に食べよう』


 手早く打ってから送信し、スマホをすぐにポケットへ突っ込んだ。真後ろにはすでに咲が来ていたがメールを確認している様子はなさそうだ。そもそも学校へはもってきていないかもしれない。


 朝から体は軽いし、午前中は眠くなることもなかったしで体調は万全だ。部活をきっちりこなしてから咲と一緒の夕飯を楽しめたらな。


 明日には母さんが帰ってくる。ということは咲と二人きりで過ごせるのは今日までなのだ。


 わかりきってる現実に、僕は寂しさを感じながら席でぼうっと授業の開始を待っていた。


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