だって思春期だもの
僕達二年生がグラウンド整備を終えて部室へ戻ると、一年生と三年生の部員がちょうど帰るところだった。
「お先に失礼します!」
「明日、一年生は校外学習があるので部活は休みになります」
「ああそうなのか、了解、今年はどこ行くんだ?」
「県立美術館と科学館です、つまらなそうですけど……」
「なんだ去年と一緒か、まあ授業だから仕方ねえよな。
仕出し弁当が出るんだけどアレがまたうまくねえし少ないんだよ」
「そんなの丸山だけじゃないのか? 僕は十分足りたよ、味はともかく」
「俺らの時も同じとこだよ、その前もさらにその前も、毎年同じなんだ」
涌井先輩が自分たちの時のことも教えてくれた。なるほど毎年同じなのか。確かに天候にも左右されないし、施設は県立だしで行きやすいのかもしれない。
「それと関係ないんだけど木戸よ、三年全員で話し合ったんだけどな。
今年のレギュラーは実力のみで決めてもらいたいんだ」
「どういうことすか? もちろんそのつもりではいますけどね」
「うん、わかってるけどな
一年生にも動きのいいやつがいるし、三年は最後だからとかは考えないで欲しいんだ。
吉田のピッチングや木戸に丸山のバッティング見てるとさ、今年はもしかしたらいいとこまで行けそうに思えるんだよ」
「やっぱり先輩たちもそう思いますか。
でも野球はレギュラーだけでやるわけじゃないし、その時の調子も考えながら柔軟に決めるつもりですよ」
「おう、頼むよ、俺らは最後だから余計に足引っ張りたくないんだ。
これは三年生の総意だから遠慮なくやってくれ」
「わかりました、わざわざ言ってくれてありがとうございます。
来週早々には決めるんでもう少し待っててください」
「頼りにしてるぜ、キャプテンよ」
そう言って先輩たちは帰って行った。木戸は考慮することはないと口にしながらも、きっと気にしていたに違いない。これでやりやすくなるのなら良かったのだろう。一年生達はそれを聞いてお互いを見合ってざわついている。誰がレギュラー入りできるのかが気になるのだろう。
「聞いたか一年坊ども、三年の先輩たちがああいってくれてるんだから気合入れないといけねえな。
もちろん俺たちも期待してるぜ」
「はい! 頑張ります!」
一年生がそろって気合の入った返事をしたことで、僕達も安心して練習に打ち込めるというものだ。やはり意識がそろっていると言うのはいいことである。
「佐戸部先輩、後でデータをメールしておきますね!
私も明日の準備があるので今日は早めに帰ります!」
引き揚げていく一年生とともに、マネージャーの由布も帰って行った。さてとこれでゆっくりシャワーをして僕達も帰るとしよう。
部室の外にはシャワーサンダルの入ったバケツが出してあった。スパイクとソックスを脱いでサンダルを履いてから部室へ着替えを取りに行く。
すると部室には洗濯物を入れるよう張り紙をしたかごが置いてあり、一年生の分だろう、すでにいくつかのソックスやタオルが入れてあった。
「マネちゃんは良く気が付くいい子だよなあ、カズがうらやましいぜ」
「いやいや、僕にはそんな気はないから迷惑とまでは言わないけど、マネージャーに悪いことしている気分だよ」
「悪いと思うなら付き合えばいいじゃんか、俺なら絶対付き合うけどな。
もうこの際だから誰でもいいわ、木戸、誰か紹介してくれよ」
「俺も最近は練習と店の手伝いで忙しいからあんまり遊びに行ってないんだよ。
店に来るお客のおばちゃんなら紹介してやれるけどよ」
木戸はそう言って笑っている。確かに最近は休む暇もなさそうだが、体力的に大丈夫なのかが心配である。
「じゃあチビベンよお、バレー部の女子紹介してもらえるように彼女へ頼んでくれよ。
タッパが大きい女子なら俺とも釣り合うだろ」
まったく丸山は見境なくて野球に影響が出ないことを願うばかりだ。そう思っているとチビベンが強めの口調で答えた。
「何言ってんだよ、俺だってまだ付き合ってるわけじゃないんだからそんなこと頼めるわけないだろ!
試合で活躍すれば木戸みたいにキャーキャー言われるようになるかもしれないんだから、まずはそっちを頑張れよ」
「まだってことは付き合う気はあるってことなのか。
これは己の気持ちを白状したも同然だな」
ハカセが珍しく茶々を入れている。チビベンは首を振って弁解しているが、顔が少し紅くなっているように見えた。
なんだかんだ言っても僕達は思春期の高校男子だ。いくら女っ気のないハカセと言えど色恋沙汰の話題がが嫌いなんてことはないのかもしれない。
そして案の定、シャワーを浴びてから部室へ戻り着替えて表に出た僕達を、バレー部の先輩、つまりチビベンの彼女候補が待っていた。
「山下君、練習終わったんでしょ? お疲れ様。
一緒に帰れるかなって思って待ってたんだ」
「かー妬けるねえ、チビベンよ、先に引き上げていいぞ。
もうやることもねえし二人で先に帰れよ」
「う、うん、じゃあ悪いけど先に帰るよ、おつかれさん」
チビベンたちの後ろ姿を見ていると、ああやって公然と仲良くできる関係が羨ましく感じた。僕は咲と校内で親しくすることはできないし、このまま女子嫌いで通していくしかない。約束したからには守りぬくつもりだけど、僕には最愛の女子である咲と言う存在がいることがわかれば由布や園子も諦めてくれるのに、なんて思いながら部室の鍵をかけた。
丸山と木戸はまだ女子の話をし続けている。モテないのは別に悪いことじゃないなんてとても言える雰囲気ではなく僕は横で静観していた。ハカセも一応聞いてはいるがあまり興味はないようだ。
僕はそんなことより、咲との関係が始まってから自分の身に降りかかる女難が明らかに増えていることを、どう捉えてどう対処すればいいものかを悩むようになっていた。




