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僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?  作者: 釈 余白(しやく)
僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?【本編】
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蘇る記憶

 一抹の不安を抱えながら帰宅した僕は、明日の決勝戦へ向けてもっと気を引き締める必要があると考えていた。


 それなのに、返ってきた途端目に入ったのは台所へ並べられた豪華な夕飯で、テーブルにはもう準備万端だと言わんばかりにお茶を酌み交わしている咲と母さんの姿があった。


「あのさ…… 明日が決勝でまだ勝ったわけじゃないんだけど……

 手巻き寿司は好きだし、豪華なのはありがたいけどさ」


「別に嫌なら食べなくてもいいわよ

 あんたのためじゃなくて咲ちゃんのために用意したんだから」


「前にカオリからお刺身送っていただいたことあったでしょ?

 あれを思い出したのよ」


「そうそう、咲ちゃんが日本へ来て一番良かったなって感じた食べ物何かってね。

 そうしたらお刺身だって教えてくれたから。

 聞けば生魚を食べること自体があまりなかったって言うじゃない?

 カズが気を効かせて教えておいてくれたらもっと早く用意してたのに」


「なんで僕のせいなのさ……

 でもあの時の刺身はおいしかったよね。

 咲が作ってくれてたマリネは母さんに食べられちゃったけど」


 あれこれと記憶がよみがえってきて、つい恨み節を言ってしまった。すると母さんから反論が飛んでくる。


「だって、カズがかわいい子と二人きりで良い思いしてると思ったら悔しくて。

 ちょっとだけ意地悪したくなっちゃったのよねえ。

 でもすごくおいしかったら食べて良かったわ」


 いやよくないよ! と言い返すも、咲と一緒になって笑っているだけで、取り合おうとする素振りすらない。まったくこの二人ときたら、僕をいじることが生きがいなのか!?


 そんなことをしている暇はないと、僕はシャワーを浴びて部屋着に着替えてから台所へ戻った。すると、二人はせっせと手巻きを始めており、それを弁当箱へ詰めている。


「あれ? なにしてるの?

 風呂入ってる間にもう食べ始めちゃった?」


「もうすぐお父さんが帰ってくるから、江夏さんにはおうちへ持って帰ってもらうのよ。

 前祝いのおすそわけね」


「なるほどね。

 明日は江夏さんも来てくれるといいなあ。

 やっぱ今までの集大成を見てもらいたいんだよね」


「早苗さんは絶対行くって言ってたわよ。

 土曜だから学校の生徒もかなりの数行くんじゃない?

 混みそうだから早めにいこうかしらね、咲ちゃん」


「ええ、以前カズ君に用意してもらったクッションを持って行きたいわ。

 あの時は結局別のお部屋で見ることになったけど、明日はそうもいかないでしょ?」


 僕はクッションをありったけ用意しておくことを約束し、父さんたちの帰りを待った。



◇◇◇



「ちょっと食べ過ぎたかもしれないな……

 結構苦しいや」


「カズ君はいつも食べ過ぎに見えるけどね。

 それを全部消費してしまうくらい練習してるんだもの、凄いわ」


 珍しく咲が当たり前の言葉で褒めてくれた。あの日、ちゃんと告白という形を取って付き合い始めてから何かが変わったような気がしている。


「少し散歩でも行かない?

 良かったらカオリもいっしょにね」


「えっ? どういう組み合わせなのそれ。

 散歩へ行くのは構わないけどさ」


「すぐ近くにいい場所があるのよ。

 ねえ、行ってみましょう?」


 こうして咲の突然の誘いで、僕と咲、そして母さんの三人で散歩へ出かけた。ちなみに父さんはすでに酔っぱらっているので置いてきた。


 家を出てから数分、これはいつものランニングコースである。毎日通っているけど、別にいい場所なんて思い浮かばない。咲は一体どこへ連れて行くつもりなのだろうか。


 流石に防災公園まではいかないだろうけど、本当にどこを目指しているのかわからずについていく。下手をしたら若菜亜美にでも会ってしまいそうでなんとなく落ち着かない。それでなくても今日は由布に泣かれているのだから……


「もうすぐ着くわね。

 ちょっと二人にお願いがあるのだけどいいかしら?」


 咲が不意に足を止めてなにやら言い始めた。二人って僕と母さんのことか? なんのお願いだろうと疑問を感じているところで母さんが言葉を返す。


「どうしたの咲ちゃん、なにかしら?

 私にできることならいいわよ」


 すると咲は思いがけない願い事を口にし、僕と母さんは困ってしまった。いや、困ったのは僕だけなのかもしれないが、とにかく恥ずかしくて言うことを聞きたくない。それでも結局は押し切られてしぶしぶと引き受けたのだった……


「カズとこうして手をつなぐなんて何年振りかしらねー

 こんなにゴツゴツですっかり大人の手になって、母さん気が付かなかったわー

 でも昔を思い出して、なんだか若返った気分もするわね。」


「あんまりはしゃぐなよ、恥ずかしい……

 いい歳になって母親と手を繋いでるなんてさあ。

 咲もなんでこんなこと言うわけ?」


「さあどうしてかしらね。

 カオリみたいに若返りたいのかもしれないわよ?」


 僕と同じ17歳なのに何を言ってるんだろうか。今までで一番意味不明だなと考えていた。


「さ、着いたわ、いきましょ」


 咲が連れてきた場所は、防災公園と自宅の間にある児童公園だった。ここはすっかり変わってしまっていて、小さいころに遊んでいた遊具はほとんどなくなっている。その場所はもう、何の変哲もない広場と言ったところか。


 咲は公園の中へ進むと、バネの上に動物がのっかったような遊具へもたれかかった。そして僕の方へ向かって両手を広げ、まるでこっちにおいでと言わんばかりの態度を示す。


 しかしなんと言っても母親と一緒だし、しかも片手は繋がれたままだし、いったいどうすればいいと言うのだ。咲のイタズラ好きにも困ったものだ。そう感じていたその時……


「カズ、ほら、お友達が呼んでるわよ。

 遊んでらっしゃい」


 突然母さんは我を失ったようなおかしなことを言って、僕の手を離してから送り出すよう背中を押したのだ。一体何が起こったのかわからず、僕は母さんへ向かって振り返った。


 すると母さんの表情は、今まで見たこと無いような柔らかい笑顔だった。もしかして咲が何かしたのだろうか。いったい何が起きているんだろうか。


「どうしたのカズ?

 向こうで彼女が待ってるわよ。

 それとも思い出せない?」


「思い出すって何を!?

 母さんこそ大丈夫? 正気なの?」


「何言ってんのよ、この子ったら。

 入り口についた瞬間に昔を思い出しただけよ。

 もうなんだか懐かしくてね」


 僕はフラフラと咲が待っているところまで歩いて行った。そして促されるままに指定された場所へしゃがみ込む。すると咲も、少し離れた場所でこっちを向いてしゃがんだ。


 その瞬間! 僕の頭の中で何かが起こった。体が縮んでいくような感覚と共に、過去の記憶が掘りかえされていくようだ。そうか、そうだったのか!


「咲、思い出したよ!

 この場所はすっかり変わってしまったけど今ならわかるよ!

 あの時一緒に遊んでくれていた女の子が咲だったんだね!」


「ええそうよ。

 家へ来たときに、私が描かれた絵を随分見ていたから気づいたかと思ったのだけどね。

 どうやらキミは私のこと忘れていたみたいでガッカリしたわ」


「ごめん、言い訳しようがないけど、流石に十年以上前だからね……

 もっと小さくて今とは全然違うでしょ?」


「でもそれはお互いさまだと思うのだけど?

 まあいいわ、こうやって二人に思い出してもらって嬉しいわ」


 そんな過去があったことなんて完全に忘れていた。確かこの公園で数回遊んだくらいだったかはず。それなのに咲はずっと覚えていたなんて驚きだ。


「もしかしてさ、最初の頃、僕に会うために来たって言ってたの、まさか……」


「キミったらもう、そういうのを思い上がりって言うのよ?

 私だって覚えていなかったんだからね。

 でもここへ引っ越してきて、いいえ、戻ってきたのほうが正しいけどキミを見かけた。

 二階の窓から見えた走っていく男の子の姿、お父さんの後ろを追いかけててね。

 それを見ていたら思い出したのよ」


「あんな小さい頃のこと、良くすぐに思い出したね。

 いつも僕はついて行けなくて、途中まで来てくれた母さんに連れ帰ってもらってたっけ。

 でも咲と会ったのはあんな朝早くじゃないよね?」


「もちろんよ、たまに早く目が覚めてしまうことがあって窓から外を見てたのよ。

 公園に来られるのは、少し具合が良い時だけだったから。

 そんな事情もあってお父様の実家へ引っ越したってわけ」


「体弱かったって言ってたもんね。

 今はもういいの? 治った?」


「それはもう元気よ。

 キミも良く知ってるように、ね」


 思わず赤面したであろう顔を母さんに見られるのは結構恥ずかしい。するとそれを察したのか、母さんは家へ戻ると声をかけてきた。


「それじゃ私は先に戻るわよ。

 あまり遅くならないよう、カズはちゃんと咲ちゃんのこと守ってあげなさいよ?」


「そんなの言われなくても当然のことさ。

 早く帰って父さんの相手でもしてあげなよ。

 置いてきぼりですねてるかもしれないからさ」


「はいはい、おっじゃまさまでしたー」


 冷やかしながら去っていく母さんを見送っていると、咲は向かい側から僕の隣へ移ってきた。まさかこんな所で!? と思ったが、意外にも咲はおとなしく肩を寄せただけだった。


 しばらく身を寄せ合っていた後、僕たちはのんびりと帰り道を歩いた。今度は咲と手を繋ぎながら。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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