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僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?  作者: 釈 余白(しやく)
僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?【本編】
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本気の戦い

 結局二回の表は後続が続かず、僕の三振でナナコーは攻撃を終えた。しかし次は一番からの好打順。凡退に気を落とさず投げることに集中するのだ。ちなみに今大会、僕と島谷だけが未だノーヒットだ……


 打つ方はからっきしな僕だが投げる方は絶好調で、木戸の名づけた、『打者の好きで得意な所のすぐ近くへ打ち頃のボールを予想外の回転で投げる作戦』は上手く運んでいる。投げてる僕はかなりドキドキで慎重に投げてるのだが、結果としては球数も少なく済んで結果的には助かっている。


 三回には嶋谷が絶妙なバントで出塁、ヒットかと思ったけどファーストがこぼしたせいで記録としてはエラーがついた。後続は凡退してツーアウトから木戸がヒットで一三塁、そしてさっきホームランを打っている丸山は歩かされてツーアウトながら満塁となる。しかし六番のチビベンはサードライナーで無得点だった。


 そのまま膠着したゲームとなって六回の表、ここで松白はピッチャーを交代するようだ。木戸の予想通り、あの一年生キャッチャーがマウンドへ登った。立ち上がってみると意外と細身で長身なのが意外で、うちで言うと木尾のようなタイプに見える。


「右ピッチャー出てきたな。

 コイツがエースに違いないから一気に打ち崩すぞ!

 気合入れろ!!」


「「おおおー!!

 ナナコー!ファイッ!」」


 野球部員がベンチ前で気合を入れる様は、まるで動物の威嚇行動だ。これは大体どこの学校でも共通だと思う。相手の松白はそれに加えてスタンドの応援までついているのだがら羨ましい、いや始末が悪いだった。


 おそらくバント作戦はもう通じないだろう。真っ向から打ち崩していくしかない。背格好からは縦の変化を使ってくるように感じるのは思い込みかもしれないのでしっかり見ていくことが大切だろう。


 しかしここでも木戸がアッと驚く作戦を聞かせてきた。


「全員一発狙いの大振りで構わねえ。

 でも、当たらなくてもいいけど、一応見てから振ってくれよ?

 こいつはまだ一年坊だからプレッシャーかけていこうぜ。

 不安を見せたら俺とマルマンで仕留めるから安心してくれ」


 打てなくてもいいからプレッシャーをかけていけとは大胆すぎる。しかしみんなはそれで気が楽になったのか、表情が柔らかくなった。エースが出てきたことで緊張してきたのを見越しての言葉だったのかもしれない。なんの影響も受けていないのは天才肌の丸山と、心ここに非ずなチビベンくらいか。


 二番手で出てきた一年は、確かにエースと言えるくらいの球は投げている。あとは打席でどう感じるかだろう。長崎先輩のところで左の涌井先輩へ交代し、木戸に言われた通り強振したあと、内野フライでワンナウト。


 しかし戻ってきた涌井先輩は、打てない球じゃなかったとのことだ。次は僕の打席だったが、また三振に倒れ情けない限りだ。一番に返って嶋谷はさっきのヒット性の出塁で機嫌が良さそうに見える。コイツはやっぱり気分屋でおだてに乗りやすいなと改めて感じた。


 だが気分の良し悪しだけで結果が出るほど甘くない。意気込んで出ていった嶋谷は、結局緩急に揺さぶられ三振で戻ってきた。


「確かに打てそうな球でしたね!

 あれならカズ先輩の練習投球の方が打つのきついですよ」


「全員ちょっと沈むボールに目が慣れちまってるみたいだな。

 目付を治すように、上目を振る意識で行こうぜ」


 木戸が的確に指示を出すと、実際にはともかく打てる気になってくるのはさすがである。こいつのプレイ以外の働きはとても大きくて、誰にも真似のできないところだ。


 気合を入れなおして守備へ散っていくナナコーナインだったが、そこからは打線の沈黙する投手戦となった。


 なんといっても圧巻は松白のピッチャーだ。ナナコー自慢の木戸と丸山を連続三振に斬って取るなど四者連続三振、かろうじてバットに当てたチビベンは内野ゴロで続く柏原先輩も三振だった。


「あれ、今日の腑抜けカズより早いな。

 しかも伸びがすげえよ」


「今日は木戸の指示で控えめに投げてるだけだよ。

 別に腑抜けてなんかないさ」


 僕は丸山に文句を言って名誉挽回を図った。でも全く聞いていない様子で話を続ける。


「でもコイツ変化球ないだろ?

 投げたのはカーブとチェンジアップにフォークか。

 緩急と縦変化だから真っ直ぐだけ見てけばイケるな」


「そんじゃ小粒組はボールの上目を狙って転がしていくこと。

 俺とマルマンはテキトーに。

 シマとカズは、先にヒット打てなかったほうをたい焼きおごりの刑に処す!」


「ワンパターンだな。

 真弓先生の財布が悲鳴を上げてるぞ?」


 ハカセが横やりを入れると真弓先生が頷き、それを見てみんなが笑った。この砕けた雰囲気もうちの持ち味だと言いたいが、どちらかというとやり過ぎな印象のほうが強く感じる。こうしてチームの雰囲気は良かったが結果は付いてこないまま七回表の攻撃に入る。


 まこっちゃんファーストゴロ、池田センパイ三振のあと、木戸が良い当たりで三塁線を抜いた、と思ったらベースに当たりシングルヒットとなってしまう。


 なんだかツイてなくて流れが悪いなあ、とこぼした僕へ丸山が言う。


「一つでも二つでも一緒だろ。

 どうせ歩って返ってくるんだしよ」


 そう言いながら高笑いで打席へ向かった丸山は、その後本当に歩いて返ってきた。もちろんその前には木戸も歩いて、だ。


「今日も二本か、絶好調だな。

 これで四打点追加だから大分置いてかれたぜ。

 打率はいい勝負かもしれねえけどホームラン数は追いつかなそうだ」


 真っ向勝負を挑んできた松白の一年はがっくりとうなだれている。おそらく真っ直ぐには自信を持っていたのだろう。まあ相手が悪かったと諦めてもらうしかない。


 その後はまた沈黙が続いていよいよ最終回、松白は下位打線の七番からだ。最後は全力で投げたいなと考えながらマウンドへ向かおうとする僕へ、木戸がいいタイミングで話しかけてきた。しかしその内容は僕の想定していたものではなく……


「なあカズよ、次七番からだな?」


「そうだな、だから全力で投げてもいいって言ってくれるのか?」


「まあそうしたいなら構わねえけどさ。

 それよりもよ、今んとこ完全試合だって気づいてるか?」


 えっ!? そう言えばずっと三人で終わらせているってことはそう言うことなのか!? いやまあそりゃ当然か。二十七個のアウトを取って終わるの野球なんだから、今は八回まで終わって二十四個ってことで、八で割ると三ってことは三人でずっと来てて、あと三つで二十七個になって試合が終わるってことになるから……


「やっぱ気が付いてなかったか。

 こういうのって言わねえ方が良かったのかねえ」


「いや、もう手遅れだろ。

 カズよりもバックが緊張するしな」


 チビベンの言う通りだ。僕は突然湧いて出た話に驚いてしまっているし、守備に付こうとしてた選手たちも立ち止まっている。だからどうすればいいのかなんてことはなにも思い浮かばないが、結果を気にせずできるだけ精一杯投げようとだけ考えていた。


「じゃ、じゃあさ、全部三振取ればいいんだろ?

 僕は別に、わ、わかってたから、き、緊張してないし……」


「おうおう、さすがだな!

 そういうことにしてやっから気合入れてけよ?

 バックスクリーンとこにはスカウトもいるし、ナナコーこそが真の強豪だって教えてやろうぜ!」


「「マジで!?」」

「「ホントですか!?」」


 木戸のあおりで全員が浮足立っている。こいつ…… 本当に僕が全部三振取ると思ってるんじゃないだろうな…… いやまて、そう思ってくれているならその期待に応えるのが相棒ってもんだ。


 僕は興奮か焦りか自分でもよくわからない精神状態のまま、最終回のマウンドへ向かった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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