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僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?  作者: 釈 余白(しやく)
僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?【本編】
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意外な組み合わせ

 昨晩、ベロベロで帰ってきた父さんは、いつものように早朝ランニングへ出かけ、意識ははっきりしていたものの千鳥足だった母さんは、父さんと入れ替わるように兄さんの家へ向かった。どうやら義姉さんとプールへ行く約束をしていたらしい。


 そんなやたらと元気な二人を恨めしそうに見送った僕は、だるさの残る体に鞭打って交通公園まで散歩へ出かけたわけだが、行く前よりも疲れてるんじゃないかという状態で帰宅した。


 いや、康子とあって野球の話をしたのはともかく、亜美とも会ってしまったのが応えた。あの子はどうにも不気味というか、言いようのない陰を感じてしまう。家の近くで待ち構えていたり、突然後ろから現れたり、一つ間違えたらまるでストーカーだ。でもたまににこやかなこともあって、そういう時はまあかわいい顔を見せることもあるから、つい無碍にはできないと感じてしまうのだ。


 そんなさわやかとは無縁の朝だったけど、しばらくすれば咲が昼飯を持ってきてくれる予定だし、きっともやもやとした今の気分はカラッと晴れてくれるだろう。


 と言ってもまだ昼には早いので、ベッドからシーツをはぎ取って洗濯することにした。母さんが出がけに自分たちの分を置いていったので一仕事である。ちなみにランニングから帰ってきた父さんは、シーツの無いベッドでもう一眠りすることが許されず、客間へ転がって寝息を立てている。


 洗濯機を回している間に玄関や廊下、階段まで掃き掃除で暇つぶしだ。しょっちゅう出入りしているとはいえ、咲が来るがわかっているのに汚いままにしているのはやっぱり恥ずかしいのだ。


 昨日のことがあったからか今日はやけに落ち着かず、アレコレと手を動かしたくなってしまう。そんなとき、ポケットに入れているスマホが音を鳴らしながらブルブルと震えた。きっと咲からだと大喜びで確認すると、そこには意外な送信者が表示されている。


『昨日は親父さんたち無事に帰り着いたか?大分使ってくれて有難かったぜ。お礼言っといてくれ』


 メッセージの送り主は木戸だった。父さんたちは今まで何度もごっさん亭へ飲みに行っているが、その後こんな風に連絡をよこしたのは初めてだ。もしかしてなにかやらかして来たんじゃないかと気にはなるが、まあ久しぶりに、しかも江夏さんじゃなく母さんと言ったのは珍しかったから木戸も気を使ったのかもしれない。


 僕は父さんはランニングしてから二度寝、母さんはプールへ行ったと返信しておいた。そう言えば、帰ってきてから何も言ってなかったけど、真弓先生も一緒に飲んでいたのだろう。確か行く前にそんなこと言ってたっけ。余計な話をしていなければいいけど、と少し心配になったが、木戸が何も言ってこないので心配はないだろう。


 そうこうしているうちに十一時を回った。僕はさっきよりもますますソワソワしながら、台所と玄関を行ったり来たりしている。そうだ、どうせならコーヒーを入れる準備でもしておこう。コーヒーメーカーへ粉と水をセットしておけばあとはスイッチを入れるだけで済む。


 台所へ戻り準備を始めた僕が、コーヒーメーカーへ入れる水を測ろうと蛇口を開けたその瞬間、玄関のチャイムが鳴った。きっと咲だ! 僕は大慌てで玄関へ向かった。


 返事をしながらドアを開けると、マンガで見るような布巾をかけたバスケットを肘から下げた咲が笑顔で立っている。いつもは黒基調で大人しめな格好ばかりだけど、今日はウエスタンシャツにチェックのスカートを履いており、そのギャップがなんともかわいらしい!


「い、いらっしゃい、今日の格好…… すごく、あの、かわいいね」


「いつもと雰囲気違うからおかしいかしら?

 なんとなくハイキング気分だったから、少し明るめの服にしてみたんだけど。

 天気もいいし芝生の上でランチ、なんていいかもしれないわね」


「おかしくない! おかしくないよ!

 すごく似合ってるさ。

 でも今日はもう公園へは行きたくないな……」


「あら? なにかあったの?

 たとえ話なのに、キミったらおかしなこと言うのね」


 まあ朝何があったのかは別に隠すようなことじゃないけど、かといって積極的に話したいことでもない。あとで話題にでも出たら話すことにしよう。


「カオリは出かけるって言ってたから三人分作ってきたのだけど、お父様はいらっしゃるのよね?

 昨日の帰りが遅かったならまだお休み中?」


「うん、今は二度寝してる。

 でも朝は僕より早く起きて、日課のランニングへ行ってたよ。

 中学生のころから今まで一度も欠かしたことがないんだってさ」


「流石キミのお父様なだけあってすごいのね。

 キミは今日お休みしちゃったみたいだけど」


「そう言われてもさ……」


「うふふ、冗談よ。

 お父様の分は分けておいて二人で食べましょうか。

 今日はサバサンドを作ってみたわ。

 イスタンブールの名物料理だけど食べたことあるかしら?」


「イスタンブールってトルコか。

 まったく縁がないから初めてだよ。

 どんな味か楽しみだな」


 僕は食器棚から小皿を出して、父さんの分を取り分けてもらった。付け合わせはスライスしたじゃがいもにチーズとベーコンを重ねて爪楊枝を刺してあるオードブル的なものだった。準備が半端だったコーヒーメーカーをきちんとセットしてからスイッチを入れる。


 続いて咲は、ピクニックバスケットから、自分と僕の分のサバサンドを取り出し手渡してくれた。持ってみると固めのフランスパンに焼きサバ? がそのままはさんであるようだ。


「魚とパンの組みあわせってありそうであんまりないよね。

 白身フライの惣菜パンくらいしか食べたことないや」


「これはね、多めのオリーブオイルでカリッと焼いたサバとお野菜を挟んだだけの簡単なものよ。

 でもすごくおいしいんだから。

 レモンを絞って食べてみてね」


 僕はカットしたレモンを咲から受け取ると、パンの切れ目に挟んであるサバへ向かってレモンを構えた。周囲へ飛び散らないよう片手で絞るのはなかなか気を使う。力いっぱいたっぷりと絞った割には眼には行ったりすることもなくて一安心だ。ただしぺちゃんこになったレモンは、相応に手のひらをびしょ濡れにしてくれた。


「あらあら、まるで小さな子供みたい。

 手を出してちょうだい、拭いてあげるわ」


 言われるがまま、なすがままとはこういうことを言うのだろう。黙って頷き手を差し出すと、バスケットの中からハンカチを出した咲が、僕の手のひら、そして指一本一本を丁寧に拭いてくれる。


 思いもよらぬ接触に、昨晩のことが思い出されて顔が熱くなっていくのがわかる。それと同時に、朝の防災公園で康子と握手したのも同じ右手だったことを思い出し、なんとなく気まずい思いも感じていた。


「なんかいつも子ども扱いされて照れくさいね……

 でもありがとう」


 人は気まずい時に饒舌になるものだと聞いたことがあるが、それを自ら証明するように僕は更に言葉を続ける。


「そう言えば今日の格好って、このバスケットに合わせてみたの?

 行ったことないから勝手なイメージだけど、スイスとかフィンランドっぽいっていうのかな。

 すごく似合っててかわいいよ。

 いつもの黒も似合ってて好きだけど」


「あら、今日はやけに褒めるのね。

 嬉しいけど何かあったのか勘ぐりたくなってしまうわ

 たとえば…… 朝の散歩で誰かとバッタリ、とかね」


 咲の勘が僕の心臓に深々と刺さった。毎度だけど、どこかで見ていたんじゃないかってくらい勘が良いから、きっとこの先永遠に隠し事はできないに違いない。というか永遠にって!? 我ながら妄想が突き抜けすぎだ。


「いや、そんな、隠すとかそう言うつもりはないよ!

 わざわざ言うほどのことがあったわけでもないし……

 まあ、あの…… 実は、先週練習試合をやった矢島学園野球部のマネージャーは中学の同級生でさ。

 その子と、あとうちの美術部の一年生が犬の散歩に来てたんだよね。

 でまあ少し立ち話してきたってだけで、別にやましいことがあったとかそう言うわけじゃないから!」


「あら、そんなにムキにならなくていいのよ?

 だって昨日も言ったけど、誰かに好かれ、慕われ、憧れを持たれるのはいいことなのよ。

 そうやって得られるキミへの想いが、キミの力となって返ってくるのだから。

 だからキミはその人たちに魅力的だと思われるよう、いつものように頑張ればいいの」


「そんなモンなのかな。

 特に何が変わったとか、得たとか、そう言う気はしないけどね」


「その場ですぐに違いが出るようなことじゃないわ。

 でも確実に力になっていく、それだけ理解していれば十分よ」


 話に夢中になり過ぎて、手に持ったサバサンドがそのままだったが、香り立つサバの香ばしさとレモンの酸味でお腹が音を立ててしまった。


「食事が中断してしまったわね。

 さ、話は後にしていただきましょう」


 僕は頷いて顔を下げた勢いそのままで、サバサンドへかぶりついた。


「ウマイ! 意外に合うのかななんて思ってたけど、普通にうまい組み合わせなんだね。

 サバもパンもなじみのある食べ物なのに、組み合わせて食べたのは初めてだ。

 それがこんなにウマイなんて、今まで食べたこと無くて損してたな」


「ふふ、いくらなんでもおおげさじゃない?

 でも作ったものをおいしいって褒めてもらえるのは嬉しいものね。

 キミのそう言う素直なところ好きだわ、ありがとう」


 脂っこさにパンチの効いた塩加減、それにさっぱりとしたレモンの酸味がこれほど合うなんて驚きだ、なんて言いながら二つ目に手を付けたあたりで、僕と咲の楽しく幸せなひと時に邪魔が入ってしまった。


「いちゃいちゃしてるとこ悪いんだけどさ。

 このうまそうな匂いを漂わせてるモンに俺の分はあるのか?」


「なんだ、父さん起きてきたのか。

 別にいちゃいちゃなんてしてないよ。

 ちゃんと父さんの分も作ってきてくれてるから、ちゃんとお礼を言ってからありがたくいただきなよ」


「咲ちゃん、ありがとね。

 それじゃご相伴にあずかるとしますか。

 あ、カズ、俺のコーヒーはブラックね」


「はいはい、わかりましたよ。

 酔っぱらってても起きててもうるさくてわがままなんだからさあ。

 そういや木戸が店使ってくれたからって、お礼の連絡来てたよ」


「ごっさん亭に行ったの久しぶりだったからな。

 カズが世話になってるし、これからはなるべくあそこ使うよ」


 別に木戸に世話になってるなんてことはなく、持ちつ持たれつな関係だ。まあなんにせよ、友達の家の店を使ってくれるのは有難い。それでも連日飲み歩くのはどうかと思うけど。


「それでさ、ちょっと面白いことがあったんだよ。

 聞きたいか? 聞きたい?」


 その意地悪い笑い方でなんとなく話が見えた様な気がして、僕は悪い予感が的中しないことを願った。


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