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僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?  作者: 釈 余白(しやく)
僕が一目惚れした美少女転校生はサキュバスなのか!?【本編】
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二人だけの時間

 目の前には小皿に載せたブラウニーが二種類並べてある。どちらに手を伸ばすべきか、その選択次第で天国か地獄かどちらかに転ぶのかもしれない。


 僕が片方に手を伸ばしその一切れを口に運んだとき、隣で密着している咲はニコニコと微笑んだままだ。


「へえ、そっちを選んだのね。

 私が焼いてきた方じゃなくて若菜亜美がキミのために焼いて持って来た方を。

 やっぱりそっちがおいしそうに見えたのかしら?」


「そ、そんな、そう言うわけじゃないよ。

 たまたま手に近い方を取っただけさ」


「いいのよ、選ぶのはキミだから。

 結果は選べないわ、仕方のないことよ」


「違うんだ…… 違うんだよ!」



◇◇◇


「うう……」


「あら? 苦しかったかしら?

 でもそんなにうなされるなんて夢見が悪かったのね」


 僕が目を覚ましたとき、視界に咲の姿はなかった。いや、正確には咲の姿はすぐ目の前にあるけどあまりに近すぎて見えないということだ。


 咲の両腕が僕を抱えていて、顔は…… その…… 柔らかな感触に押し付けられていた。


「ご、ごめん、また寝ちゃってた!?

 そんなつもりなかったのに」


 咲の胸に密着して抱えられているまま、僕はもごもごと言い訳をした。もう目はすっかり覚めているというのになぜか動けない。


「いいからしばらくこのままにしていなさい。

 急に動くと危ないわよ?」


 そう言われてもいつまでもこのままではいられない。すでに目が覚めるどころか、逆に体温が上がり顔が紅潮してきているのがわかる。


 僕が頭を上げようともがき、抵抗していることがわかると咲は腕の力を弱めた。柔らかなふくらみの魔力から解放された僕は思わず大きく深呼吸をする。


 ようやく自分の椅子に腰かけなおしてみると、当たり前のように咲がすぐ隣にいた。今の今まで顔をうずめていたそのいただきに目を奪われていると咲が言った。


「キミったらいきなりもたれかかってきて寝てしまうんだもの。

 どうせなら寝言じゃなく、目が覚めているときに言ってもらいたいわね」


「えっ!? 僕何か言ったの?

 なんて言ったか教えてくれよ」


「うふふ、教えない。

 いつも言っているようなことだから気にしないで」


 そんなこと言われたら余計に気になってしまう。僕は自分がなんと言ったのか咲から聞き出すために食い下がる。


 咲は笑いながら僕をいなし、僕は負けじと聞き返す。そんなじゃれあいが続いているときにふと二人のやり取りに空白ができた。


 その一瞬、ほんのわずか言葉が途切れたことが切っ掛けなのか、僕は吸い込まれるように咲の唇へ自分の唇を重ねてしまった。


 初めは軽く触れる程度に唇を重ねる。二度三度と触れては離れ、そのたびに体温が上昇していくように感じる。


 もう何度も繰り返されている二人の重なり合いだが、最初に抱いていた罪悪感のような感情はすでに僕の中から消え去っていた。


 咲の吐息が僕の思考回路を狂わせるのか、すぐ目の前にいる咲の唇が僕を吸いつけているようにしか思えないのだ。


 何度か繰り返した後、僕と咲は静かに、そして今までよりも長く唇を重ねていた。背中に回された咲の腕が僕の体を引き寄せていく。


 数十秒かもう少し長いキスの後、二人はおでこをくっつけたまま唇を離した。


「ふふふ、このままじゃ椅子の上から転げ落ちてしまうわ。

 こんなことで怪我でもしたら大変でしょ?」


 僕はうん、とだけ返事をしてから、ピンク色に濡れている咲の唇へ吸い込まれていった。


「ほら、ダメよ、危ないでしょ?

 こっちにいらっしゃい」


 背中に絡めていた腕をほどくと咲は立ち上がった。それを見て僕も椅子から立ち上がる。自分の家の台所で向き合って立っている男女とはおかしな絵面だけど、今はそんなこと気にならない。


 僕を向い入れるように両手を広げた咲、そこへ一歩進み寄って抱き寄せる。それぞれの背中にそれぞれの腕が回されたあと、二人はゆっくりと床に腰を下ろした。


 朝使っていたクッションに咲がもたれかかり、その上に僕が覆いかぶさりながら抱きしめる。しかし、自分の体重が咲を押し潰してしまうように思えて思わず体を浮かすように両肘を床へ立てて踏ん張った。


 すると咲は、平気よとささやき、下から僕を抱きしめてくる。僕はためらいながらも咲へ体を預けた。僕の体が咲の柔らかさを味わう様にうずもれていく。


 再び唇を重ねた二人、今度は椅子から転げ落ちる心配をしなくて済むからか、何の遠慮もなくお互いを求め合い体を重ね続ける。


「んん…… んっふ……」


 言葉にならない声が咲から漏れ出てくる。やっぱり重くて苦しいんじゃないかと心配になり、僕は思わず顔を上げた。


 しかし咲はそんな僕の頭へ手を回し、再び自分のもとへ引き寄せた。咲に抑えつけられ身動きの取れなくなった僕の口の中に咲の舌がぬるっと差し込まれてくる。


 それに応えるかのように僕の舌がそれを迎えて絡み合う。深く、心の奥底へ沈み込むように頭の中が咲で満たされていく。


 いつの間にか、お互いの片手は手のひらを合わせ握り合っていた。咲は僕の背後へ腕を回して手をジャージの中に差し入れてくる。


 少しだけひんやりと感じた咲の手だったが、それは僕が火照っているからそう感じたのかもしれなくて、その冷たさが不思議と心地よかった。


 僕のもう片方の腕はクッションを掴み引き寄せ、咲を間に挟んでいた。それが知らず知らずのうち、僕の意思とは無関係に何かを探すよう徘徊し、とうとう何かを探り当ててしまった。


「あぁあ…… んぁ……」


 僕の手が触れた瞬間、咲が思っていたよりも大きな声を上げた。その声に僕はためらい、思わず手を引きながら強張ってしまう。


 しかし咲は僕の腕を握り、やり直しを命ずるように再び先ほどの位置へと導いてくる。


「ゆっくり…… やさしくね……」


 その言葉に僕は頷き、その弾力を確かめるように肌の上に手を滑らせた。


 咲がときおり体をビクッとするのが少し怖くて、その度に固まってしまう僕の手を咲が優しくさすってくれる。


 頭の中はもう何が何だかわからず、混乱しているのか興奮しているのか、はたまた夢でも見ているのか自分でも全く分からない。


 そしてとうとうたどり着いた場所へ指先が触れると、咲はまた大きく感嘆の声を上げ、重ね合わせている手を強く握りしめた。


 つい今の今まで、僕の背中を優しくさすっていた咲のもう片方の手は、その声と同時に爪を立てた。


「痛てっ」


「あ、ごめんなさい」


 思わず声を出してしまった僕に咲が謝ってきたが、その直後、唐突に僕を押し上げるように転がしてきたため、僕は床に頭をぶつけてしまった。


「痛ってー」


 続けざまに痛い思いをした僕だったが、咲は声に出さずに口をパクパクさせた。それはごめんねと言っているようだったけど、あまり深く考えないうちに咲は僕の背中へクッションを敷いてくれる。


 先ほどとは入れ替わって僕が組み伏せられた状態となり、咲は両脇の間に腕を立ててまたがっている。しかしそこはまずい、そこへ座ってはいけないのだ。かといってそれを説明することはもっと無理な話だ。


 咲はそんなことを気にも留めない様子で、ゆっくりと僕の上に身体を預けてくる。そして二人はまた深い深いキスをした。



◇◇◇


 僕はその柔らかい部分に悪戦苦闘していた。少し触れただけで流れ出して来るしずくを受け止めなければいけない。


 中へ差し込んでゆっくりと、慎重に、丁寧に……


「ああ、慌てたらだめよ、もっとやさしくね。

 あんまり強くしたら壊れてしまうわ」


「そうは言っても初めてだし…… 難しいよ」


「大丈夫よ、キミならできるわ。

 さあ、まだまだこれからなんだから頑張って」


 目の前に真っ赤なしずくが滴り落ちる。


「あらあら、うまく中に入れないと汚してしまうわよ。

 はねてしまわないようにね」


「うん…… でももういけそうだ。

 そっちはどう?」


「私は問題ないわ。

 キミと違って初めてじゃないし」


 確かに先の言う通りだ。僕はまだ一つ目に苦労しているのに、咲はすでに五つのトマトくりぬき終わって次の準備へ取り掛かっている。


「大分散らかしちゃったわね。

 服に飛ばなかった? そのままにしたら染みになってしまうわ」


「何とか大丈夫みたい。

 次は何したらいい?」


「そうね、コーヒーでも入れてもらおうかしら。

 じゃがいもがゆであがったら向いて潰してもらうからそれまでによろしくね」


 僕はオッケーと返事をしてコーヒーメーカーをセットした。咲はさいの目切りにしたベーコンを痛めはじめる。台所にはオリーブオイルとニンニクの香りが漂い食欲を刺激してくる。


 そうこうしているうちにじゃがいもが茹であがり、熱々の皮をむきながらボウルへ入れていく。ざっくりと潰したあたりで咲が僕を静止して、炒めたベーコンに塩胡椒を入れ混ぜ合わせる。


 結局僕たち二人はせっかくの休みにどこへも出かけず、まな板の向こう側にマグを二つ並べ共同作業をしていた。


「こんなものかしら。

 じゃあこれをトマトの中へ詰めていくわよ。

 一人でできるかしら?」


「それくらいできるさ。

 中身を詰めたらどうするの?」


「チーズを乗せてからオーブンで焼くのよ。

 できたら網の上に並べてちょうだいね」


 咲に言われた通り、トマトの中にじゃがいもとベーコンの具材を詰めていく。口切より少し少ないくらいまで入れたら角切りにしたチーズを乗せて角皿へ並べ、それを六個分繰り返した。


 コンロでは先ほどくりぬいたトマトの中身を火にかけている。それが何かはわからないけど、きっとうまいものができるに違いない。


 咲が火にかけたトマトへ赤ワインを入れる。ふつふつと煮立ってくると、今度はワインの香りが漂ってきて酔っぱらってしまいそうだ。


「日本だとお酒を飲んでいいのは二十歳以上なのよね?

 向こうでは十四から飲んでいいことになってるから驚いたわ」


「十四歳!? まだ中学生なのに酒飲んでいいの?

 それで酔っぱらったりしないのかね?」


「そりゃお酒だもの、飲めば酔うわよ。

 でも親が一緒じゃないとダメって決まってるわ。

 十六になったら好きに飲んでいいけれど、飲んでいいのは軽いお酒だけね」


 やはり日本と海外では色々と違うことがあるもんなんだな。日本じゃみりんすら売ってもらえなくて咲が困っていたというのに、所変われば文化や風習も違うなんて面白いものだ。


 そんなことを考えながら眺めていたが、どうやらトマトソースを作っているようだ。玉ねぎのみじん切りとトマトの中身、そこへワインを入れて煮込んだ後味を調えてから小麦粉を少量振るうと出来上がり、と咲が説明してくれた。


 僕はそれを横目で見ながら、茹であがった人参ときぬさやをザルに空けて湯切りをする。ザルをもって湯が滴るのを眺めていると、横からソースの味見がやってきた。


「うん、うまい。

 ワインの香りとトマトの酸味がいい感じだね」


「口に会いそうならよかったわ。

 カオリが用意していた食材って肉じゃが用だったんだけど、さすがに一週間続いてるから別の物がいいかと思って」


「そうだね、咲の作る肉じゃがはもちろんうまいけど、毎日同じ物よりも違うものも食べたくなるよ。

 でも母さんは調理はいいけど考えるのが面倒だってよく言っててさ。

 何が食べたいかって聞かれても、僕たちがはっきり答えないときは毎日でも同じもの作るんだ」


「なるほどね、確かに毎日違うものを考えて作るのは大変だもの。

 でもキミなら毎日肉じゃがと焼鮭でいいみたいだから楽かもしれないわね」


 ん? 毎日? 楽ってどういう意味だ? それってまさか……


 僕がポカンとした様子で咲を見つめていると、その白い肌が紅潮していくように見えた。耳の先なんて真っ赤になっている。


「もう、バカね、キミったら本当にバカなんだから!」


「えっ? なにも言ってないのに一方的に文句を言われても……

 それってどういうことさ、毎日楽ならそれでいいじゃん」


「もういいの! キミは野球にしか頭が回らないんだから!

 ほら、そろそろオーブン終わるわよ」


 よくわからないままにはぐらかされた気もするが、それよりもお腹が減って倒れそうだ。僕は言われた通りオーブンからトマトを取り出す。


 熱々だと言うのに手早く包丁を入れてさらに盛り付けた咲は、先ほどのソースをたっぷりとかけてから茹で野菜を添えてテーブルへ並べた。


 肉じゃがと大差ない食材なのに全く別の料理となり、盛り付けも相まって食卓が彩り豊かで豪華に見える。今日は咲が持って来た塩パンと一緒だから余計にそう感じるのだろう。



 大満足の夕飯が終わり満腹になったせいなのか、疲れがたまっているのか、それとも…… とにかくまた眠くなってきてしまった僕は、咲に膝枕してもらいながらうとうとしていた。


「はあ、こんな毎日が続いたら幸せだなあ」


 僕の口から何の気なしにこぼれた言葉に咲が目を丸くする。そして次の瞬間僕の頬を両手で強く挟み込んできた。


「ふぁにすうるのしゃ、ちょほとはなひて」


 口元は抑えつけられていて上手く話せない。しかし咲はそんなことお構いなしに僕の頬を抑えつけている。


 そのうち頬をつまんで縦だ横だと引っ張り始める。やめてくれと言っても一向にやめず、しまいにはなぜか笑い出した咲は、ゆっくりと顔を寄せてきて微笑みながら僕にキスをした。



◇◇◇



 大分遅くなってから咲を送って家に戻ってきた僕は、いつの間にか届いていた母さんからのメッセージを確認し先に寝てると返事をした。


 シャワーを浴びてから部屋に戻り、寝る前に朝練の支度を確認していると今度は咲からのメールだ。


 今日は一緒に過ごせて楽しかったと書いてあったが、それは僕も同じだと返信する。そしておやすみと往復した後ベッドの上に寝転がった。


 咲と過ごす時間、一緒に料理して食べて、くだらない話をして笑って、なぜか急に不機嫌になったり突然笑い出したり、そして……


 愛だの恋だのはよくわからないけど、ずっと一緒にいたいと思っているのは確かだし、それが人を好きになると言うことなら今がその気持ちなんだろう。そんなことを考えていたらいつの間にか結構な時間がたっていた。


 僕の右手は罪悪感を産むために存在するのかと、自問自答しながら自己嫌悪に陥り、その恥ずかしさを隠すように布団の中へもぐりこんだ。


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