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第九話:体育祭(予定)です!!・・・あれ?体育祭、ですよ?





『体育祭?』


「ああ、そうだとも!やっとこの季節が巡ってきたのだ」


豊かな胸を大きく逸らせて楽しそうに顔をほころばせるこの女性は僕の叔母。そしてこの学園の理事。百合丘 理音。しかしその名を呼ぶことが出来るのは、彼女と同じ【百合丘】の人間だけ。僕は・・・もう呼べない。


彼女が僕たちを招集した理由は、今月の下旬に鷲夜学園総合体育祭を開催するためだとか。

体育祭と言えば秋のイベント!楽しいに決まっている。ああ、何をするのでしょうか!


興味を引かれた僕だが周りのテンションの低さに前に乗り出しかけていた体を椅子に沈めた。


「体育祭、ですか・・・」


新の疲れたような声に数名が釣られてため息を零した。桜井なんか頭抱えちゃってますよ・・・?


「―――あの?」


た、体育祭ですよ?楽しい、ハズ・・・じゃあ??

・・・・・・何ですかみんなのテンション!低すぎですって!!


「あぁ、そうか。純は今年の7月に入ってきたんやったなぁ・・・じゃあ知らんよなぁ」


若干顔を引きつらせた昌吾は茶色い頭をかき回しながら周りに視線を配らせた。その視線を受けた皆が一様に苦笑いを浮かべて説明を渋り、最終的に皆の視線を集めたキングが言葉を紡ぐこととなった。目線は少し外れていたのはこの際気にしないこととする。


「あー・・・後で説明するよ、純」

「は、はい・・・」


新の言葉で議題は次に移った。

次の議題はテストの順位、それによるシートの変化。勿論順位はいつもどおりで、シートの変化もないため特に問題もなく・・・いや、順位のことを思い出した昌吾の目は狂気に彩られそうになっていたが・・・。芽の素早い手刀により意識を刈り取られたため大事には至らなかった。


うーん・・・体育祭のことが気になります。早く終わってくれませんかね。



「うむ、特に問題はないな。では順次予定通りに事を進めてくれたまえ【VIPクラス】の皆。期待しているぞ!」


理事の視線は自然にリーダの二人へ向けられ、彼らは完璧な笑顔を返した。


「はい。順次予定通りに」

「了解いたしましたわ理事。それに伴いましては、去年と同様全校集会を開きたいと思いますゆえ、理事もご出席―――」

「純、お前が出るなら私も出席しよう。どうする?」


えっ!?ぼ、僕ですか・・・??


理事は厳格な姿勢を保っているように見えて、その頬はゆるゆると緩んでいる。威厳全くないですよ、理事。


「えっと、僕は出ますが・・・?理事もご出席なさるのですか?」

「そうか、出るのか。では私は前からお前を見詰めておこう。それともお前は私の隣においておくか?」


「・・・でた。理事、ホントに純激ラブよねぇ♪」


そう。彼女は僕を本当によくしてくれている。

・・・うん、それが多少行き過ぎていたのだとしても。


今日は終りだと、理事は手を軽く叩いて締めた。

さて、新達に体育祭のことを聞きましょうか・・・って、




「ぅはわあああ!!?」

「さて、行こうか」


突然視界が高くなり、焦って手足をバタつかせた。両脇に手を入れられて持ち上げられたのだ。持ち上げた本人である理事はニコニコと笑いそのまま奥へ・・・ちょっと待ってくださぁぁい!!!


「純、お前は私とティータイムだ。叔母さんに色々話を聞かせてくれ?」

「ちょっと・・・理事!僕、新に聞きたいことが―――」

「後でいいだろ?私はお前とお茶が飲みたいのだ。・・・それとも、私との茶は飲めないとでも言いたいのか?」


り、理事ぃぃ!泣かないで下さい!!


端整な顔が少しゆがめられウルウルと涙の浮かぶ瞳で見詰められ・・・僕は折れた。


「わかりました・・・」

「よし、では行こうか」


・・・嘘泣きだと、わかっていても・・・涙には勝てません。

苦笑いを零した仲間たちが小さく“どんまい・・・”と呟いた。










 ◇


「どうだ、学園は」

「ええ、とっても充実してます。理事には感謝しても仕切れないほどです」


広げられたティーセットを囲み豊かな香りに包まれる僕ら。理事長室のど真ん中なワケだが、彼女の仕事用のデスクの上の山済みの書類を横目で見ながら談笑を交わす。


理事・・・実はサボりたいだけだったんですか?


ちらりと目線で問いかけるが、彼女はついっと目を逸らして逃げた・・・。


「そうか・・・で、条件のほうはどうだ?」


会うたび毎回聞かれる質問。わかってるくせに。

にこりと笑っていつもどおりの返事を返した。


「おそらく大丈夫です。芽以外は皆知らないと思います」


芽は、僕の世話係の様なもの。そんなのいらないのに、百合丘家の規則が僕を縛る。


「そうか・・・なら、いい」


それを知っている理事、否叔母は悲しい瞳をして笑った。





百合丘家とは、僕の父の家。


世界屈指の資産家。譲川や布留川よりも古い歴史を持ち、彼らよりも厳しい家訓があった。

一つ、百合のように美しく。一つ、弱き心を捨てろ。一つ、誰よりも何よりも百合丘のために。


僕も3年前までは、その百合丘にいた。

父を亡くしても、彼らは僕と母親を百合丘の一員と認めていてくれていた。


「・・・香奈の癖は治っていないのか?」


そう、僕の母親の癖が明るみになるまでは。


「いえ・・・あまり変わっていませんね。本人に悪気がないだけタチが悪いです・・・」

「そうか、純も苦労するなぁ」


母親、緋沢 香奈は容姿端麗、成績優秀、気立てもいいし、何より優しい。しかし彼女最大の欠点は無意識下の浪費癖と最悪の美的センスだ。







『じゅーんちゃん!見て見てコレっ きれいでしょ?』


広げられたのは小学生が作ったかのような虹色のハンカチ。キラキラと小さなビーズが編みこまれていて所々光る。


『・・・母さん、それ何円でしたか?』


『コレ?コレはねぇ・・・30万だったかしら』


『今すぐ返して来てください!!!』


『えーっ・・・せっかくきれいなのにぃ』


無論奪い取って即刻返しに行った。まだ買ってなくて本当によかったと思う。





隅っこの何もない空間を見詰めてカラカラと意味もなく笑う僕に叔母の同情の眼差しが贈られた。








ああ、オチがオチがぁぁああああ!!泣



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