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第五話:全員集合の命令??そんなのいらないです


「あ。」


突然俊が手を打った。パンと小気味よい音にその場にいた全員が意識を向けた。

おかげでやっと開放してもらえた僕は、感謝の意を込めて視線を送った。


しかしニコニコと心底楽しそうに笑った彼は、次の瞬間悪魔の言葉を言い放ったのだった。



「そういえば今日はVIP全員集合の号令がかかってたんだったねぇぇ」





・・・・神様・・・僕、あなたに何かしましたか??



虚ろになる景色を眺めながら、そっと神様に問いかけてみた。






「ああ・・・そやから、お前等がここにおんのかぁ」

「「そーだよ。じゃないと、わざわざこんなとこに来るワケないじゃん」」


納得したように何度も頷く昌吾。そして冷めてしまった紅茶を入れなおそうと思ったのか、僕の目の前にあったティーポットに手を伸ばした。が、僕の顔を見た瞬間にギョッとその手を引っ込めた。


「じゅ、純!?お前どないしたッ 顔真っ青やないか!!」

「・・・桜井・・・僕、もう帰ってもいいでしょうか」


ガタガタと震える体を隠せないまま、涙目で訴えた。“全員集合の号令なんかいらないです・・・”と小さく漏らすと、僕の右隣では芽が気の毒そうに苦笑したが、事情を理解しているのは彼女だけでだった。

俊が心配そうに僕の顔を覗き込むが、焦点の合っていない瞳を見ると途端に慌てだした。彼に引っ付いている橘は完全無視・・・だったが、彼のその動作に連動して心配そうに俊を見た。


「ああ帰れ帰れ!!家帰って寝てろ」

「だめだよ。残念だけど、理事の命令だからねぇぇ・・・」

「純・・・まだ・・・帰れない」


ああああああぁぁぁ!!いやだぁぁぁぁ!!!


絶叫したくなる心とは裏腹に僕の身体は全く動かず、微かな声が漏れただけであった。













このVIPクラスの【キング・シート】は僕の幼馴染だった人が勤めている。


彼は小さい頃から成績優秀で明るく人懐っこい性格、スポーツはやろうと思えば何だって率無くこなせるしリーダーシップだってある。一度懐に入れば、誰にだって信頼されるような人間なのだ。何が言いたいかって、要は【キング】には持ってこいの人材だってことだ。



極々普通の小学生だった僕にとっても彼は憧れだったし、幼馴染として彼の隣を歩けていたことが嬉しかった。それなりにライバル心は持っていたが“どうせ僕だしね”と諦め、彼の栄光を傍で見れることを何よりも誇りに思っていた。


大切な、大切な人だった。




ああ・・・気がついただろうか。そう、全て過去形なのだ。

あんな事がなければ、僕は今でも彼の隣を歩いていただろう。


ははは・・・ほんと、僕って馬鹿ですねぇ。

まさかこんな所で再会するなんて思っても見なかったんですよ・・・。

ってか叔母さんも、彼がいるなら先にそう言ってくれればよかったのになあ。




深く思考に入りながらも、たまたま前にあった花瓶を見詰める。全く楽しくも無いのに乾いた笑みが口から零れ落ちる。


「ちょっとぉ。若干名壊れてるコがいんだけどぉ」

「うわぁ。花瓶に笑いかけてるよ。イタいコだぁ」

「捺、凛・・・そっとして置いて上げて」


気を利かせた芽が、彼らの肩に手を置いて頭をふった。双子はつまらなそうに鼻を鳴らしてお互いの髪を弄りだした。


「さすがエース(めぐ)やな。お前ぐらいやぞ、双子の世話焼けんのは」

「あら。そんなことないわよ、ダイヤ(しょうご)??」

「いや、世話ぐらいは誰にも焼けるかな。俺が言いたいんは、こいつ等がちゃーんと言うこと聞くんは、お前ぐらい―――」

「「【キング】と【クイーン】も忘れないで欲しいね!」」


昌吾のほうは全く見ずに双子が言い放った。


「僕らはあの人たちがいるからこの学校にいるんだよ??」

「じゃないと、こんな堅苦しいとこくるわけないもんねぇ」

「お前等らしい発言やな」


不自然なほど捻じ曲がってる髪型に突っ込みを入れようか迷っていたが、結局昌吾は諦めた。



「―――ねえ、純??どうしてそこまで【キング】を嫌うの??」

『・・・・・・・・・はいぃぃ!!?』


昌吾、双子、俊の声が完全に一致した。花瓶に笑いかけていた純はその声でやっと現実に帰還し、注目されたことにより一瞬照れたように芽から目を逸らした。

声を上げた彼らはありえないものでも見るような目で純を見ていた。が、そのうち捲し立てるように個々で叫び声を上げだした。


「ありえへんやろ!!?あの【キング】やぞ!!?あれの何処に嫌う要素があんねんッ」

「「【キング】を嫌うなんて、アンタ本当に脳みそ無いんじゃないの!!?」」

「じゅじゅ純!!?お前本当にアイツを嫌っているのかぁぁ!!!?」


「あー・・・ごめんなさい、純」


凄い勢いで迫ってくる四人(+橘)に目を白黒させる純を護りながらそっと謝る芽。“大丈夫で、す”といいながら零した笑みが強張っていたのは不可抗力だとしよう。

その笑顔に突っ込みを入れる間もなく芽は、興奮しすぎて純の肩を掴もうとした昌吾の顎にショートアッパーを叩きつけていたのであった。


「私の純に触れないでくれない??害虫。」

「がぃ!!?さっきまで触れてても何も言わんかったやないけっ」

「純・・・本当にごめんなさいね。まさかココまで反応されるとは思ってなかったの」

「いえ・・・なにも言っていなかった僕が悪いんですから・・・」


“無視かいッ”と必死で突っ込みを入れるが、完全に彼を視界からシャットアウトした芽はすまなさそうな顔をして僕の頭を抱えた。


「「で、嫌いなワケってなんなわけ??」」


双子がそれを問いかけた瞬間に僕の身体は大きく震えた。


危険を察知した瞬間だった。

背中にゾクゾクと悪寒が走り、意識しなければ勝手に体が逃げ出してしまいそうになる。というかガチで逃げたいです、ハイ。


その場にいた全員が、再びガクガクと震えだした僕に不思議そうな顔を向けた瞬間にそれは来た。





「おはよう!!皆揃ってるか??」


扉が開き彼が【クイーン】と共に入室した。

言葉と共にざっと周りを見渡してから、震えている(彼は気付いていない)純の姿を見ると途端に嬉しそうに走り寄ってきた。



彼の名は譲川 新。


僕の幼馴染で、大切だった人。右側だけを掻き揚げている清潔感のある黒髪。きりっと整った容姿に何もかも見通すように透き通った瞳。機崩さず拘束どおりに着込んだ制服。親の会社のメンズモデルや、次期社長のための学習も怠らず学校の成績だけでなく社会的に勤勉な彼。

僕達の、最強のリーダーです。





「純!!やっと来たのか。待ってたんだぞ!!」

「う・・・」

「お前なっかなかココ来ないもんなぁ。心配してたんだぞ??」

「ちょ・・・ちょっと・・・」


芽が“やってしまった”という顔をしながら新を止めようとするが、彼はそのことには全く気がつかない。純を見つけた喜びで周りが見えていないのだ。


「相変わらず小っさいなぁ・・・ちゃんと食ってんの??顔色悪いぞ」


ぽんと純の肩に手を置いた瞬間。





「うわわわわぁぁわぁああああああぁぁあぁああああ!!!!!?」







物体X(さくらい)との鬼ごっこの時よりも数段悲痛な悲鳴が上がり、扉目掛けて全力疾走。


風よりも早い速度で純は部屋から消え去った。










「あーあ・・・やっちゃったわね」





静寂が包む部屋に芽の独り言だけが、やけに大きく響いた。





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