第二話:VIPクラスの歴史・・・ってなんでですか!?
ずるずると芽に引きずられ、辿り着いた先は他の校舎とは明らかに異質な建物。
「あの・・・芽・・・??授業は・・・」
僕たちが授業を受ける教室はこの道とは逆の位置にある。それなのに、芽はその教室とは正反対のこの場所へ僕を連れてきた・・・ということは。彼女は青ざめる僕を気にすることなくニッコリと口元に弧を描いて言い放った。
「あら??言ったわよ。“美味しい紅茶が待ってるわよ”って♪」
やっぱりですかぁぁ!!!
此処は僕たち専用の校舎。他の校舎は少しくすんだクリーム色だけど、此処だけは薄い浅葱色で、少し窓ガラスが多い作りになっている。そのガラスが数枚割れているのには誰もツッこまない。放っておけば次の日位には治っているからだ。割れてる理由はまた後日・・・。
僕はまだ動かせる身体を回転させ逆方向へ踏み出す。さっき昌吾に追いかけ回された時とはまた違う種類の冷や汗が滲んだ。
「い、やだ・・・」
あそこは・・・あの人がいる。出来ることなら再会したくなかったあの人が・・・。
振り返ったのはいいものも、芽に腕の付け根を掴まれ男よりも強いその腕力で僕を引きずり込んでゆく。
「はぁい!!純には拒否権なしよん♪」
あああああッ!!神様ぁぁ・・・。
収まったはずの涙が眼球を押し上げてもう一度目尻に溜まりだした。
そもそも。
僕はこんな所にいるはずじゃなかったのに。ひっそりと、影のように生きて。家族に看取られて死んでいく予定だったのに。
どうしてこんなアブノーマルな生活になってしまったんでしょうか。
◇
此処、鷲夜学園高等部には他の学校には存在しないはずのクラスが有る。その名も【VIPクラス】。
毎年、春の始業式(もしくは入学式)に学園理事直々にメンバーを言い渡される。選ばれた生徒はとても少なく、酷いときには一人も選ばれないこともある。選ばれる基準はとても・・・とても理解不能なものだ。
一, 入学テスト、もしくは定期テストに毎回トップ10に入ることが出来る。
二, 身体能力が高く、理事が決めた基準を超えることが出来る。
まあ・・・この二つは有りそうなものだ。ワオ、まさに優等生ですね。でも、意味不明なのは三番。
三, アイドルにも並ぶ容姿、ルックスを持ち、理事の好みであること。
今年の三月に此処に引っ越してきた時、叔母に渡された学園のパンフレットを見た僕は唖然としたのをよく覚えている。
更に【VIPクラス】のメンバーには、それぞれに役割が設けられる。
例えばクラスのリーダ的存在(男)には【キング・シート】。キングと同じ役割で女だと【クイーン・シート】。ほとんどはキングとクイーンは親しい関係同士であることが多いらしい。
あと、【ジャック・シート】【エース・シート】【ハート・シート】【スペード・シート】【クローバー・シート】【ダイヤ・シート】【トランプ・シート】など様々な役割があり、それぞれの役割を果たせていないと判断したとき(ほぼ理事の独断の決定)、次の年にはクラスから落とされるという恐ろしいモノだ。
「純ッさあ着いたわよー」
現実逃避をしていた僕に、芽が首に強く抱きついた。絞まっていく気道に僕は困惑することなく冷静に一言。
芽、君のじゃれあいは命の危険がありますよ。
ああ・・・あと、もっと恐ろしい役割がもう一つ。
【ジョーカー・シート】
学園理事のお気に入りだけがつけるという幻(!?)の役割。役割は他のシートより簡単で、只管ペットのように愛し、愛される存在であればいいという代物。【VIPクラス】が始まってから、8年。今までにこの役割に就任した人は僅か2人だったという。
「―――って、なんで僕はこんな本 朗読させられてるんでしょうか!?」
「えー??なんとなくお前読みたそーな顔しとったしやで、純ちゃん♪」
いつの間にか復活して、横に並んで座っている昌吾がニコニコしながら僕の顔を覗き込む。余計なほどフカフカしたソファーの上に僕が読まされていた【VIPクラスの歴史】という本を投げ出す。その行動にかどうかは定かではないが、昌吾は気持ち悪いほど清々しい笑みを浮かべながら”純ちゃんは、ホンマかわえーなぁ♪”といってほっぺたを突付いてきた。
いや、本当に気持ち悪いです。流石物体Xですね。
そっと身を捩ったが、昌吾は空いているほうの手でガッチリ僕の腰を固定した。
「ぅー・・・あかんてぇ。純ちゃん、逃げんなぁ」
ぞぉっと背筋に悪寒が走る。
ああ、忘れてました。桜井がこうなるのを――。
「じゅぅんちゃん♪」
彼の整った顔がだんだん近づいて・・・。
やばいやばいやばいデス!!!動けない!!芽・・・も今、外してる!!!
僕の首筋に唇を寄せられた。
「ぎゃあああぁぁっっああぁ!!?」
桜井昌吾には不思議な習性がある。
なぜか彼は一度気を失うと・・・僕に襲い掛かる。その可笑しな習性は本人が寝るか、気絶するかするまで続く。例え隔離していたとしても気が付けば僕にくっついているのだった。
僕は絶叫しながら昌吾の唇から逃れるため、必死に抵抗。その際誰も助けにはきてくれなかった・・・。
ああ!!!このクラスの人々は薄情者ばかりですかッ!?
さて・・・もう、お分かりかと思います。僕は【VIPクラス】に所属しています。
それも、幻といわれる【ジョーカー・シート】に。