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第一話:神様、僕に普通を下さい・・・。







僕は普通の生活が欲しい。


なぜかって??

ははは・・・あなたも僕の生活を見たら分かりますよ・・・。









アブノーマルすぎる生活を・・・ね・・・。








 ◇










現在、時刻は午前九時・・・ぐらいだと思われる。授業の始まりのチャイムはもう随分前になってしまったのに、学園中をひたすら走り回っている僕。



え、なぜかって??

はははっはは・・・






「うああああああああああ!!!!!??」

「うおぁぁぁ純!!!待てや、このクソ野郎ォォォッッ!!!!」



そんなの僕が聞きたいよ。


泣きながら絶叫して、後ろから猛スピードで追ってくる物体Xから逃げる少年。他人から見れば情けないって思うかもしれないけど、この場合不可抗力だ。

だって相手は狂気・・・いや、凶器を振り回しているのだから。


「待たんかこのクソ餓鬼がァ!!俺より上を行くなんて許さんわぁー!!!」

「いやッこればかりは仕方ないですよ!!僕だって命がかかってるんですからぁぁぁぁッ」


物体X・・・もとい、桜井 昌吾(さくらい しょうご)さんは包丁を振り上げながら鬼の形相で僕を追い上げる。


――ああ神様!!悪いかもしれませんが、恨みます!!!











僕が追い掛け回される原因があったのは、ほんの三十分ほど前。

三ヶ月に一回行われるテスト。例外なく先週僕たち生徒はしっかり受けた。その結果が今日張り出されたのだ。

・・・なんでかは分からないけど、その時の僕は物凄く油断していた。暢気にその結果を見に行ったのがそもそもの間違いだったのだ。






一位   緋沢 純  492点


二位   桜井 昌吾 489点


三位   譲川 新  486点


      ・

      ・

      ・




「うわぁぁぁ!!!!?またやっまた・・・なんでやぁぁ!!」


ざわついたこの空間でもよく聞こえる悲鳴が上がり、その声が誰か分かった瞬間・・・僕は間違いに気がついた。それと同時に危険を察知し・・・誰かは分かっているけども一応振り向いて確認すると、彼が包丁を振り上げていた。


そう、包丁。



・・・・・・・・・・・・・・・え?

イヤイヤイヤイヤイヤ!!そんなのに刺されたら流石に僕も死にますよッ!?


今までの経験で養われた反射神経を最大限に活かしつつ、腹の底から大絶叫を上げながらよけた。そして、そのまま脱兎の如く走り出したわけだが・・・まあそんな感じで間一髪、一時非難に成功し、とりあえず今の状況に至る。






 ◇


涙で潤んだ視界に薄いクリーム色の校舎の壁が見える。


やばいッこの先は行き止まりだ!!どこかで方向転換しないと、あの物体Xに捕まってしまう!?その先に待っているのは・・・いえ、考えるだけで恐ろしい。


広すぎる中庭の構造を僕はまだ覚えられていない。どこかに道はないのか、と見回すと右方向に小さな脇道を見つけた。今まで恨んでばかりだった神に感謝を述べながら迷わず道に突っ込んだ。




「ってここも行き止まりですかッ!!?」



昌吾の雄叫びがすぐそこまで迫っている。



ああ、神様。どうか僕に普通の生活を下さい。

・・・あれ。ていうか、普通ってなんですか??

もしかしてこの状況って世間で言う普通なんですか??


ははは・・・あれ、なんだか僕の脳は壊れてきてしまったみたいですね・・・。



そんなことを考えている間に、昌吾は僕を壁際に追い詰めた。そして更に舌なめずりをしながら獲物を見る目で僕を見ている。にじりにじり と音がしそうな緊迫した状況で、現実に意識を戻した僕は只管クリーム色の壁とこの道に入った数秒前の自分と神様を恨んだ。



「さぁ、もう逃げ場はないでー!!どうするよ、学年一位さんよぉ??」

「だから!!僕だって好きで一位とってるわけじゃないって言ってるじゃないですか!!命が掛かってるんですよ!?命!!!」

「ほおぉぉう!?天才緋沢 純サマは余裕で一位とれると言わはるんですか??」


“誰もそんな事言ってないじゃないですか!!”と叫びながら他に逃げ道はないかと目を泳がせる。勿論そんなものはなく、ヤバイ汗ばかりが頬を伝い良い考えも思いつかない。先に痺れを切らした昌吾が大声を上げて突進してきた。


(しま)いや純!!神様に祈っとけぇぇ!!!!」

「うぁぁぁ!!!?」


純と昌吾の距離は五メートルはありそうなのに、彼は飛び掛ってくる。脅威のジャンプ力だ。


ああ、母さん。それに、叔母さん。折角僕をこんな豪華な学園に入れてくれたのに・・・。僕は何も出来ずにここで死にそうです。親不孝な僕を許してください・・・。


ギュッと目を強く閉じ運命の瞬間を待つ。包丁が風邪をきる音がすぐそこに―――。



「やめなさい、この馬鹿タレ!!」

「うぉぅッふぅぅ!!?」


どさっと結構大きなものが地に落ちる音がする。なかなか運命の瞬間が来ない僕はそっと目を開ける。まず視界に仁王立ちする黒いショートの髪の人が見えた。それと、地に伏せる桜井昌吾の姿。

ショートヘアの彼女が振り返って駆け寄ってくる。


「大丈夫、純!!」

「・・・あ・・・めぐ・・・??」


僕より10センチほど高い身長の彼女を見上げると、目尻に溜まっていた涙が頬を伝った。

涙を流していた事実に、今更恥ずかしくなって握った拳でその涙を拭う。


「もうッ可愛いんだから!!こんな変態に捕まっちゃ。めっ よ??」

「え・・・あ、ハイ・・・?え、可愛い、です、か??」

「ええっ可愛いわよ?もう手足縛って監禁して二十四時間ずぅーっと私の監視下に置きたい位 可愛いわ♪」


頬の筋肉が不自然に引きつるのが分かった。

彼女は気にせず(もしくは気付いてない?)”気をつけなさいよっ”と笑った。




この、さらっと危ない発言をした彼女は柊 芽(ひいらぎ めぐ)さん。

空手、剣道、合気道、その他諸々の武術を極め、彼女に喧嘩を申し込んだ者は(ことごと)く病院送りにされただとか、されてないとか。見た目はとても美しいんですけどもね・・・。

彼女との関係はクラスメイトです。


まあ一応、桜井もクラスメイトなわけですが・・・。



「もうそろそろ授業始まるわね。帰りましょ♪」


芽はニッコリ笑って僕の手を取り、寝そべる昌吾を跨いで僕たちの校舎へ向かいだす。


「え、あの。桜井は・・・」

「ああ、いーのいーの!!アイツは放置プレイも好きだからww」


え、あのでも・・・桜井、ヤバイデスよね。


彼の臥せっている地には赤黒い血が広がっていて、逆に僕はさあッと血の気を引いた。小声でそっと芽に問いかけてみた。


「あの・・・彼に何をしたんですか??」

「ん?ああ、危ないから回し蹴りを首に当てて止めたのよ。そしたら口から血を吐いちゃった♪」


芽ッあなたの行為も危険です!!

しかし、その言葉を口にする前に“さあ帰りましょっ美味しい紅茶が待ってるわ♪”と言って芽は僕の手をさらに引く。


後ろ髪引かれる思いを引きずりながらそっとその場を後にした。










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