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吸血

~これまでのあらすじ~

属聖青年シュウは以前出会った男、ソエトに襲われている。


「《属聖メッヒ》、ここに光輪」

ソエト改め属聖メッヒは、悠々堂々と敵を見下ろした。

その鎧は邪悪な輝きをたたえていた。



夕日を背後にしても衰えないその輝きの鎧。

その手には彼のエレメンターが変化したと思われる光輝の大鎌が握られていた。

「さあ……パーリータイムだ!」

その体から光が迸る。

「眩しい!」

目が眩む。格好の的だろう。

〈おいッ!後ろだッ!〉

ファイの声。

「う、うわぁ!?」

闇雲に後方に剣を振るう。手ごたえは無い。

「上だよ!」

「な!?ぐわあ!」

大鎌による一閃。テヰルの鎧に傷が付く。

〈く……見誤ったかッ〉

「うわあ!」

真上に突きを繰り出す。手ごたえは無い。

「遅いぜ?」

後方からの声。

「ぐわあああ!」

「ふん」

一閃。吹き跳び転がりユアたちの元へ。

「ファイ!変わりなさい!貴女じゃあシュウさまを護り切れない!」

〈黙れ!自己防衛させろ!〉

風と炎が口論をしている間に水と土はメッヒに向かっていた。

「水、そして土か……」

ソエトは邪悪な笑みを浮かべたまま二人を相手する。

「う……ユアさん……」

「何!?」

「奴も……属聖なんですよね……」

「見ればわかるでしょ!?」

「奴の属性は……一体何なんですか……?」

「う……」

「属性が分かれば……弱点を付ける……それがぼくの唯一無二の長所です。だから……」

「……無理よ」

「……え?」

「私たちでは……奴の弱点を付けない」

「な、なんで!?もし風属性だったらこのままやればいいし、水とかだったらソイリさんに代われば……」

「奴の属性は《光》」

聞き慣れない属性にシュウの思考がストップ。

「え……光……?」

「基本四属性《炎》《水》《風》《土》に含まれない、《レア属性》のひとつ」

「そ……そんな」

未知なる敵にシュウの戦意が失せてゆく。

〈オイ!なに諦めようとしてやがる!?弱点を付けないならゴリ押すしかないだろうがッ!〉

「いやぁ……ぼくゴリ押しとか好きじゃないので……」

〈カスが……ッ!〉

腕輪から赤の属性石が外れ、ファイが実体化する。その腕には剣。

「ならアタシがやるまでだッ!」

「あっ、ファイ!」

クロンの制止も聞かず突撃してしまった。

「駄目……駄目よ皆……エレメンターが属聖に勝てるわけない……!」

クロンの言った通り、こちら側のエレメンターは三人がかりでもメッヒの鎧に傷一つ付けられていない。

「ハハハ!退いた退いた!」

ソエトは腕輪の光る部分をタッチ。

「ウォラ!」

鎌を頭上高くに投げ、両腕をブンブンと振り回す。

腕の回転は光の輪を生む。それらは実体を得て放たれ、集っていた三体のエレメンターを吹き飛ばす。

「きゃあ!」

「うわっ!」

「ぐああ!」

無様に転がる三体。エレメンター武器を用いずともこの力量差。

「安心しな、お前らには興味ない」

鎌をキャッチしたソエトはシュウへと歩み寄る。

「俺らの目的はお前だ、芦花」

「ううう……」

そんなソエトの前に立ちふさがるクロン。

「シュウさまには……指一本触れさせませんわ」

「ほう?仲間のブザマを見てなお刃向かうか」

「ハァ!」

弓を射る。三本の矢が別々の軌道を描きメッヒを襲う。シュウも使ったことない技。これにはメッヒも対処が難しいか?


――否だった。

「はっ!」

光る。姿が消える。

「くっ……どこに」

「後だ、風のエレメンターよ」

「なっ……!」

振り向くが時すでに遅し、強烈な蹴りがクロンを襲う。

「きゃあああ!」

無様に吹き飛ぶ転がる。

「さあ、後はお前だけだ」

「ううう……」

シュウはソエトから顔を背けている。戦闘続行は不能。

彼らの旅は、ここで終わってしまうのか。

夕日が沈んだ瞬間、全てが決した。




突如、蝙蝠の群れがソエトを襲った。

「ぐ!?」

ソエト『だけ』を的確に襲った。

「なんだ……こいつら!?」

後方で戦いを見ていた赤黒と青白の男も襲われていた。

「え……え!?」

状況が理解できないシュウ、とにかく好機を見つけたユア。

「チャンスよ!逃げましょう!」

「え!?で、でもみんなが……」

「テヰルに仕えるエレメンターたちよ!その力を抑え、石となりてこの杖に宿れ!」

ユアがそう叫び杖を掲げる。

倒れていた四体のエレメンターは属性石へと戻り、ユアの元へ飛んできた。

「これで良し!さあ、何が何だかわからないけど逃げましょ!」

「は、はいですな!」

蝙蝠の発生源、すぐ近くのサウザンドオルドの森へと逃げてゆく一行。

「ま、待て!」

ソエトはそう叫ぶも、蝙蝠の大群に阻まれ動けなかった。





無我夢中で我武者羅に走る二人。

「はあ、はあ、はあ」

「はあ、はあ、はあ」

「はあ、はあ」

シュウの脚が止まる。

「何してんの!?」

「いや……もう…………無理」

「なーに甘えたこと言ってんの!」

「いや……ぼく喘息持ちなんですよ」

「はあ!?そういう大事なことは最初に言いなさいよ!」

「申し訳ないですわ……」

「……まあ、もう撒いたようだしいいわ」

二人は周囲を警戒する。聞こえてくるのは環境音だけ、気配はない。

「なんだったのかしら、色々と」

「わかりませんよ……」

「蝙蝠、ねぇ」

あれやこれやと思考を巡らすも答えは出ない。

深呼吸し、状況を確認しようとする。

すると。

「あーっ!やっと見つけたチェキ!」

「!?」

「なにやつ!」

背後から声が聞こえる。振り向くも、そこは誰もいない。

「……幻聴?」

「違うわ、シュウ。上よ!」

「え?」

「チェキチェキ!こんチェキわ!」

声の主は金髪の少女。

如何なる原理か、木の枝に逆さに立っている。

その服装はとても可愛らしく、鬱蒼とした森の中ではとても目立つ可愛らしさ。

シュウ的に言うのなら『アイドル』だ。

――そして、そのスカートは、逆さまであるが故に、重力に従い、意味を成していなかった。

「パ、パ、パン……!」

おバベルの塔、覚醒。最大規模。

「ちょっと、みっともないわよ!?降りてきなさい!」

「りょうかいチェキ!」

その少女はふわりと宙を舞い、二人の前に着地。

離れていたときは気付かなかったが、その頭と背からは赤い蝙蝠の翼が生えていた。

「あんたは?」

「わたしはハッコーサ!よろしくチェキ!」

名乗り決めポーズを取るハッコーサ。ますますアイドルの様だ。

「私はユア。で、こっちのリアス式海顔面が」

「シュウですな」

「ユア、シュウ!よろしくチェキ!」

(……よく見たら、ドストライクな見た目ですわぁ。金髪ロリたまりませんな。んで、あの翼は……)

「チェキチェキ!」

「……え、えっと、その翼……」

「あんた、もしかして……ヴァンパイア?」

「ご名答チェキ!ハッコーサは純潔&純血100%の誇り高きヴァンパイアイドルチェキよ!」

「……」

「……」

微妙な表情のシュウとユア。

「……さっき助けてくれたのも、あんた?」

「それもご名答チェキ!ハッコーサは困ってる人を見るとつい助けちゃんだチェキ!」

「……」

「……」

更に微妙な表情。

「ちょっと待ってて」

「了解チェキ!」

ハッコーサに背を向け、回復した四体のエレメンターを召喚し、輪になる。

「……彼女よね?」

「ああ、間違いなさそうだな」

「……殺るか」

「え、ええ!?」

「なーに驚いてやがる?もともとそう言う話だっただろ?」

「いやぁー、ぼくはあの子がそういう事するような人に見えないんですわ」

「人じゃないわ、ヴァンパイアよ」

「いえ、そういう問題ではなくですね」

「じゃあどうするんですか~?レギサ姫の指令を反故にすると~?」

「このままボイコットするのか?」

「私たちは別に構わないが――ティソトールの支援が受けられなくなるんだろ?」

「それは死活問題となり得ますね……」

「……シュウ、どうするの」

「もう少し様子を見てみましょうや」

「ケッ、日和ってやがるな」

「シュウさまがそう申されるなら、わたくしたちは従うだけですわ」

「属聖の決定は絶対だからね」

「では、というわけで~」

振り返る一同。

「話は終決&集結したチェキか?」

ハッコーサは踊りながら待っていたようだ。

「はいですな」

「だが一つ、聞かせてほしいことがある」

「何チェキか?ハッコーサに分かることなら一切&合切教えるでチェキよ!」

「じゃあ単刀直入に。あんた、この辺で悪さとかしてない?」

「してないチェキよ!ハッコーサはこの森で家臣の蝙蝠たちと歌って踊ってアイドル活動してただけチェキ!」

「本当?」

「本当チェキ!ヴァンパイアイドル嘘つかない!」

必死のハッコーサ。嘘はついていないのは確かなようだ。

「ほらあ、やっぱりハッコーサちゃんは悪いことなんてできませんよ」

「なーにを偉そうに……」

「ていうか、姫様は何て言ってたっけ?」

「《吸血鬼退治》としか言ってませんでしたね~」

「た、退治!?ハッコーサ、退治されるチェキか!?」

「い、いえ!しないです!現場の判断で!」

シュウの行動は完全な独断だ。尻拭いをさせられるであろうユアは姫にどう言い訳をするか頭を働かせていた。

「シュウがそう言うんならしょうがねえな。エレメンターである私に拒否理由はねえよ」

「わたしもです~というかどうでもいいです~」

「……アタシは反対だ。いきなり現れたやつを信用しろなんて無理だ」

「わたくしもですわ。なーんか彼女、シュウさまの寵愛を受けているようで気に食わないのです」

「珍しく意見があったな、クロン」

「そうですわね、ファイ」

炎と風は目を見合わせてニヤリと笑った。

「さあ、これで賛成2:反対2だが」

「どうすれば納得してくれるんですか」

「信用に足る行動を見せて貰おうか」

「そうですわね、それが一番手っ取り早いでしょう」

「そう言われましても……信用、どうすれば……」

「……いや、丁度いい手段があるぜ」

「ソイリ?」

「感じるぞ。魔獣だ。近くに魔獣がいる」

「ま、魔獣!?この森には魔獣なんて棲息&生殖してないチェキよ!?」

(この顔で生殖とか言うと少し興奮しますな)

「おそらく奴らね。私たちを探してるんでしょう。なんて諦めの悪い」



周囲の草むらからガサガサという音が聞こえ始める。

「来たみたいね」

「で、結局ハッコーサは何を遂行&推考すればいいチェキか?」

「アタシたちと共に魔獣と戦え」

「戦いの中で貴女を信用していいかどうか見極めますわ」

「分かったチェキ!協力&強力チェキね!」

「来るぞ!」

ソイリの叫び。直後、四方からラケツが出現。

「変身!」

シュウもテヰルの鎧を纏いながらラケツへ突撃。


シュウ・ファイ・クロン・ハッコーサ対ラケツ群の戦いが始まった。

「あなたたち二人は?」

「手を出すなって言われました~」

「邪魔なしで見極めたいんだとさ」

「はあ、難儀な娘らね」


「オラァ!オラァ!オラァ!」

群がるラケツを切り捨てていくファイ。

「オラオラどうした!こんなもんか!」

正に無双。一匹たりともその身に傷を与えられずに消失していく。

「ああ、炎の人ー!」

ハッコーサの声だ。

「あアん?」

「力抑えるチェキ!森が燃えちゃうチェキ~!」

「なんだと!?ンなこと気にしてられっかよ!」

「ファイ!抑えて抑えて!見極めるのですわよ!」

「……チッ!」

剣の火力が目に見えて落ちる。

「ありがとチェキ!」

「う、うるっせえ!勘違いすんな!魔獣共へのハンデだ!」


(模範的なツンデレですな)

今やシュウはよそ見しながらでも数匹のラケツと戦えるほどの力を得ている。


だがだからこそ、属聖メッヒという強敵に高い壁を感じるものである。普通であれば。

そう、シュウはそのようなものを一切感じていない。自信家か。否。そんな知能が無いのだ。


「はぁ!ふぅ!とぉ!」

群がるラケツを穿っていくクロン。

「この程度ですか?」

一回の射撃で数本の矢を飛ばす技は群れを処理するのにうってつけだ。

「風の人ー!上ー!」

「上……?はっ!」

ハッコーサの言葉で上を向いたクロン。彼女が見たのは木に登り奇襲を狙っていたラケツ。

「小賢しい!」

奇襲失敗、一瞬で射抜かれる。

「助かりましたわ、吸血鬼!」

「それほどでもないチェキ!」


(ぼくの事が関わらなければいい娘ですな)

批評。何様なのだろうか。


やがてラケツは一匹残らず駆逐された。

「ふぅー」

「終わりましたわね」

「足りねえなァ、全然!」

やり遂げた感じの三人。ハッコーサはおずおずと近づき、尋ねる。

「あ、あの。ハッコーサ、どうだったチェキか?」

「……」

「……」

ファイとクロンは顔を見合わせる。

「……まァ、ひとまずは許容してやるよ」

「そうですわね。わたくしたちもとりあえずは貴女を認めますわ」

「……!」

ハッコーサの顔がぱあっと明るくなる。

「やったぁ!」

「……」

やれやれ、といった表情のシュウ。ひとまずは一件落着だ。

レギサにどう説明するかは今だにユアが必死に策を練っているが、そのことに気付く程度の知能は当然シュウにない。

目先のことしか考えられられないのだ、彼は。


「さて、そろそろ戻りましょうか。良い言い訳も思いついたことだし」

「そうですな」

一行が森の出口を目指そうとしたとき。

「待つチェキ!」

「うん?」

「どうしたんですかな?」

「ハッコーサも付いて行くチェキ!」

「な――」

「え?」

一行絶句。

「ま――待て!確かにアタシらもお前の事を認めた。だが、同行を許可した覚えはないぞ!?」

「そうですわ!」

「足手まといにはならないチェキ!それはさっき証明&正銘したチェキ」

「それは、そうですが……」

「ま、いいんじゃないか?」

「また賑やかになりますね~」

「……シュウ、どうする?」

「ぼくは歓迎ですな」

「やたーっ!」

「マジか……」

「……やれやれですわ」

「ははは、いいじゃないか」

「うふふ~ふふふ~」

頭を抱えるファイ。やれやれと首を振るクロン。どこ吹く風、とソイリ。微笑むウォル。

「んじゃ、これからよろしくチェキ!」

「よろしくお願いしますな」

新たな仲間を迎え、改めて森を出ようとする一行。


と、そのとき。

「――!――!」

雄叫びが聞こえる。

それは声になっていない叫びだった。

「今のは……?」

シュウたちが怪訝に思った直後、木陰から人影。

「!」

「……見つけた」

現れたのは青白ローブの男。彼は背後に獣人を連れている。

獣人は白髪でネコ科と思われる耳。そして口には猿轡、腕には鋼鉄製の手枷、足には重々しい鉄球。異様な容貌。叫びの主だろう。

「お前は……ソエトと一緒にいた……!」

「そうだ。お前たちを手分けして探してた。そして、俺が見つけた」

「――!!」

「だから、俺がお前を殺す。シュウ」

冷酷な宣告。

「あ――あなたは」

「自己紹介してなかったっけ。《セイン・ゼバッタ》だ。こっちが俺のエレメンター」

「エレメンター、だったのか……」

そしてセインは淡々と腕輪を構える。

「戦うのか……!」

「当たり前でしょ」

セインが取り出したのは無色透明の属性石。

静かに腕輪に属性石をはめる。

「――――――アアアアアアアアアアアアッ!!」

すると、エレメンターは猿轡を噛み砕き、手枷を砕き割る。咆哮が森を揺らす。

蒸無(じょうむ)

そう呟くと、セインの周りに透明な鎧が浮かび上がる。

同時にエレメンターの身体が白く半透明になる。

更に、どこからか吹き上がった煙がその鎧を白く色づける。

そして、セインに装着される。

「ガアアアアアアアアアッ!」

エレメンターの体は二つに分かれ、変化し、巨大な爪となって両腕に装備される。

「――――《属聖(エレメンターマスター)セレン》、ここに惨状(参上)


【続く】

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