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~これまでのあらすじ~

異世界に転生した青年、シュウはユアという少女の導きでエレメンターという者を使役する属聖になった。





『じゃあ町に行きましょう!パインフィールドの町へ!』

『そうですね、まず町に行けば安泰ですな』

『安心して!パインフィールドの町には知り合いがいるの!掛け合ってみるから、先行くね!』

『え?』

『後から来てね!私の場所は町の人に聞いてね!じゃ!』



…………というわけで、今現在シュウは一人だ。

確かに前方に町は見える。

……だが。

ご存知の通り、シュウは他者とのコミュニケーションが極めて苦手な、いわゆるコミュ障なのだ。

ユアやエレメンターたちはその場の勢いで乗り切り、親しくなったが、今度はそうは行かない。

彼が全く知らない町に入ってユアを探すことが出来るだろうか。

「困りましたなぁ」

かといって引き返す選択肢はない。パインフィールドの草原には魔物もちらほらいたし、約束を破る度胸はシュウにはない。

否が応でも進むしかないのだ。


ああでもない、こうでもないとどうするか考えてる内に町の入り口まで来てしまっていた。

門の前に門番が立っているのが見える。話しかけないと中には入れなさそうだ。

「うーん、うーん……」

立ち止まって考えるシュウ。

「うーん、うーん……」

うろうろ歩き回りながら考え続け、どれだけの時間が経っただろうか。

「……あのー」

「えっ!?ぼ、ぼくですか!?」

不意にシュウと接触したのは門番だ。

「いやぁ、あなたさっきからその辺うろうろしてたでしょ?」

「ええ、まあ」

「何か悩んでたのか知らないけど、その顔が凄く怖くて、もしかしたら魔物なんじゃないかな?って思って」

「いえ、人間ですけど」

「うん、それは分かってる。それで、どうしたのかい?」

「いやぁ、町の中に入りたかったんですけど……」

「そんな事!?言ってくれたらすぐに通したのになあ」

「ははぇ、すいません」

巡り込んできた幸運でなんとか乗り切った。

そうだ、この場でもうひと障害乗り越えられるのではないか。

シュウは勇気を振り絞る。

「あのぉ」

「うん?どうかしたかい?」

「ぼく、この町で『ユア・ヨネダット』という人を探すんですけど、どこにいるか知ってたりしませんか?」

「ユアだって?あのお嬢さんと知り合いなのかい、きみ」

「ははぁ、まあ」

お嬢さんだって?そんないいとこの出だったのか。シュウの心境。

「彼女なら《ジーンの食堂》にいると思うよ」

「ありがとうございます」

シュウ、心でガッツポーズ。後はその食堂とやらを探せばゲームクリアだ。





町の中にはご丁寧にも案内マップが置いてあり、食堂を探すのに苦労はしなかった。

外から見た限りでもかなり大きな町なようであり、観光客も多いのだろう。近くには白い城も見える。

「ここですな」

看板を見上げる。間違いない。

ジーンの食堂。外見はシュウの主観で言うと『ウェスタン』。

ドアを開ける。カラカラとベルの音が鳴る。

「いらっしゃいませー!」

はきはきとした活気のある声。シュウとは大違い。

「おっ、シュウ!」

ユアはすぐ見つかった。というより、あちらの方から居場所を教えてくれた。

彼女のいるテーブルに料理は無い。水だけで居座っていたようだ。

「なんとか拠点確保できたわよ!」

「いいですね」

「結構いいところだから、安心してね。そして私の有能さに感服してね!」

「ははぁ」

「……なんか違うな。ま、いいや。そろそろお腹もすいてるでしょ?」

「あー、そういえば」

思ってみればこの世界、ヴヴァガーラーに来てから何も食べていなかった。

……だがここは異世界。料理はシュウの口に合うだろうか。

周囲をコッソリ見渡してみる。はちゃめちゃにひどいモノはない。一安心。

「減りましたな」

「うんうん!だからここで待ってたのよね」

ユアはそう言いながらメニューを手渡す。

「あなたどうせ無一文なんでしょ?」

「あー……」

シュウはポケットに手を入れる。財布はあるが、どうせこの世界の通貨ではないだろう。

「そうですな」

「んじゃあ私のおごりよ!なんでも頼んでいいわよー」

「あ、ありがとうございますな。どれどれ」

シュウは書かれている料理名をゆっくり吟味する。

キマスのパスタ。ピカリカサンド。ドラバーンのステーキ。

詳細は分からないが、イメージは付く。

「どれにしようか……」

シュウが悩んでいる一方、ユアは既に決めたようで。

「よしっ!決めた!店員さーん!!」

「えっちょっと!?」

なんと彼女はシュウを無視して店員を呼んでしまった。

「あら?まだ決めてなかったの?」

「ええ、まあそうなんで、待ってくれたら」

「あなたが遅すぎるんじゃないの?」

「いやぁ、ぼくたまごアレルギーなんですよ、だからしっかり見て決めないといけなくって」

「あ、そうだったの。難儀ね」

「ははぇ、すいません」



数分後。

二人は運ばれてきた料理に舌鼓を打っていた。

「うんん、美味しいですわ」

「だしょ?私イチオシの店だから、ここ」

「ユアのお嬢ちゃんにそう言われると俺も鼻が高いね」

声はシュウの後ろから。振り向くとそこには一人の男がいた。

「どんどん伸ばして伸ばしちゃいなさい、ジーン」

ジーン。店名にもある名前。此処の店主だろう。

彼はシュウの肩に手を置く。

「あんちゃんは何者なんだい?ユアと一緒にいたり、おかしな服装だったり、おまけに腕には属聖の腕輪とはね?」

「ぼくは……シュウといいますけど」

「おうおう、名前!そうだな、俺も自己紹介してなかったな。《ジーン・セイトルオ》。この店の主だ。よろしくな」

「よろしくお願いしますわ」

「シュウだな。おまえ、旅行者か何かか?」

「はあ、まあそんなとこですわ」

「なるほどなるほどな。だろうと思ったぜ。この町にはいろんなところから旅行者が来るからな」

「私はシュウと偶然出会ったのよ。それで、彼に属聖の素質があるかどうか確かめたの」

「ほうほう?」

「そしたらあらまびっくり!四つものエレメンターを使役できる属聖だったのよ!」

「四つ!?そいうつはすげぇや!」

ジーンはシュウの背を叩く。痛いが、優しさと大らかさの籠った手だった。

「ど、どうも」

「いやぁ驚いたぜ、おまえそんな顔してそんなすごい奴だとはなぁ!」

「ちょっと!褒めるなら私も褒めなさい!」

「おうおう、ヨネダットの嬢ちゃんもすごいすごい!」

「あ、あはは」

和気藹々とした時間が流れていった。



「……あんた、属聖だな?」

ジーンが厨房に戻った後、シュウの背後から別な声が聞こえる。

振り返ると背の高い一人の男。

「え……そうですけど」

「ああ、いきなり声かけて悪かった。俺も属聖なもんで、同僚が見つかって嬉しかったんだ」

「は、はあ」

「俺は《ソエト・キック》だ。よろしくな」

「ぼくはシュウです」

「……ほう?」

ソエトは目を閉じ、何かを感じたようだ。

「……四つか、すごいな」

「ははぁ、どうも」

またこのパターンだ。正直相手にするのも飽きてきた。

「……シュウ。お前はもっと強くなる。戦って、戦って、戦い続ければ、きっと英雄にもなれるさ」

「ありがとうございます」

何を言いたいかよく分からないので、社交辞令的返答で返す。

「じゃあな。またいつか会おう」

ソエトは去っていった。光線のように唐突に現れ唐突に消えていった。

「…………ねえ、シュウ」

神妙な面持ちのユア。

「ん?どうかしましたかな?」

「あいつ……ヤバいわよ」

「や、やばい?初対面の人にそういう事言うのはどうかと思いますな」

「そうじゃなくて!……感じるのよ。属聖を導く者として、なにかヤバくて嫌な感じがあいつからする」

「そうなんですか……」

「今度会ったときは警戒しててね」

「わかりましたな」





それから。

食事も済ましてから結構な時が流れた。

「……んんん、このまままどろむのも限度があるわね」

「そうですな」

「そろそろ拠点に移動しよっか」

「任せますわ」

二人が席を立とうとしたとき、外から異様な音が聞こえてくる。

破砕音。悲鳴。唸り声。

「っ!」

「い、いまのは」

「……魔物が現れたのかしら」

ユアはそう言うやいなや、財布をジーンに投げ渡し、店の外に駆け出していった。

「釣りは要らないわ!!」

そう言い残して。

シュウも急いでそれに続く。




「やっぱり!魔物よ!」

町内の広場で数体のラケツが暴れている。

「シュウ!変身しなさい!」

「わかりましたな!」

左の腕輪に白石をはめる。白い属聖鎧が出現し、シュウに装着。

「行け!属聖テヰル!やっつけちゃえ!」

「行きますぞ!」

シュウはまず手近なラケツに跳び蹴り。

喰らったラケツは吹き飛び、他のラケツと衝突。

「チャンスですな!」

シュウは腕輪の光をタッチ。

「テヰルパンチ!二枚抜き!」

両腕でのパンチ。今回はタイミングをずらすことで貫通力を得、二体同時に撃破。

「一気に決めますぞ!」

再び腕輪の光をタッチ。

「テヰルパンチ!」

三体目のラケツ爆散。

「これで卒業(フィニッシュ)ですぞ!」

高く飛び上がり腕輪をタッチ。

「テヰルキィーック!」

直撃。最後のラケツ爆散。

「これでいいんですかな」

颯爽と立つシュウ。その心は味わったことのない爽快感で満ち溢れていた。



「へーいグッジョブシュウ」

「こんなもんですかな」

戦いの余韻を味わう二人。

だが。

「GGGGRYYYYYY」

「……ん?」

建物の陰から現れた一体の魔物。これまでとは違う。

「あれは……?」

「上級魔物ターカモソ……!」

「じょ、上級!?」

敵を見る。獣のような姿だったラケツとは大きく異なり、人型の姿をしている。その体には炎を纏っている。

「BOUUUUUUU!」

体から炎を噴射。火球を生み出し、放つ。

「ひぇぇぇぇ!」

転がり回避。直撃は避けるが、熱気がシュウを襲う。

「あつい!」

火球を受けた街灯は溶けひしゃげる。

「属聖テヰル!臆するな!戦うのよ!」

「いやぁ無理ですよ!上級でしょ!?勝てませんよ!燃えてるし!」

「行けるわよ!というか、こういう時こそエレメンターの使いどころでしょ!」

「え、ええー!?」

シュウは腰の属性石を見てみる。

赤・青・緑・黄の属性石。その内青が光っている。

「青!ウォルの属性石を右の腕輪にはめて!」

「えっ!?」

「早く!!」

「はっはい!」

言われるがまま、シュウは青の属性石を右腕輪にはめる。

〈わたくしの出番ですね~うふふ~〉

声が響く。と同時に、属性石から青色の煙が噴き出る。

「う、うわぁ!」

煙がテヰルの鎧に定着し、その色を青く染める。

シュウの眼前には半透明の青いウォルが浮かび上がる。

〈いきますよ~うふふ~〉

その姿は段々と姿を変え、槍になった。シュウの右手に収まる。

「え!?え!?」

〈これがエレメンターの力ですよ~〉

「す、すごい」

ウォルの槍を握る。力が漲る。

〈水の属性の力を使えますよ~消火してしまいましょう~〉

「わ、分かりましたわぁ」

槍を構え、突撃。

「うおー!たー!」

闇雲に槍を振り回す。だが、効果的。

「GYY!GAA!」

炎のターカモソは攻撃を喰らう度に苦しそうな声を上げる。

「効いてますな!」

〈いいですよ~このまま押し切りましょ~〉

「ハイ!ハイ!ハイ!」

斬撃、斬撃、斬撃。段々と手馴れてくるシュウ。攻撃ペースも上がってゆく。

「GYYYYYYYY!!」

〈トドメを刺しましょ~〉

「分かりましたな!」

腕輪を見る。青く光っている。シュウはそれをタッチ。

槍に水の力が漲る。左右に振りターカモソと距離を離す。

「行きますぞ!《テヰルウォータースプラシュ》!」

槍を突き出す。その切先から大量の水が噴射。

「AGGGGGGGGGGGGG!」

高圧水流に襲われたターカモソ。体の炎は消え失せひび割れ、粉々となる。

「……これで卒業(フィニッシュ)ですな」


「…………さっきから何それ?」

「いやぁ、決め台詞?」





無事魔物を退けたシュウ。

「うんうん、上出来ね。お手柄よ」

「ははぁ、どうも」

「さて、んじゃ拠点に行きましょうか」

「はい……ん?」

足音、大量の。

「な、なんですか」

安心した二人を取り囲む騎士たち。

「え、え?」

「一体……なに?」

彼らの鎧には白い城と同じ紋章が刻まれていた。


【続く】

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