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初陣

パインフィールドの草原を抜け、辿り着いたのは洞窟。

「結構近くに合って助かったわ」

「こ、ここはなんです?」

「いいから来る!」

困惑するシュウには配慮せず、ずんずん進むユア。

二人は開けた場所に来る。

天井が抜け、光が差し込むエリア。四本の柱に囲まれた台座のようなもの。

「あそこに立ちなさい」

「わかりました」

言われるがまま成すがまま、台座に立つシュウ。

それを見たユアは詠唱を始める。

「……滾る炎のエレメント。迸る水のエレメント。荒ぶ風のエレメント。響く土のエレメント。この者に、光を与えたまえ!」

ユアが手から波動を出す。波動を受けた四本の柱はそれぞれ赤、青、緑、黄の光を放つ。

「うわぁ」

「導きたまえ!」

すると、四本の光全てがシュウに向かう。四色の光がシュウに浸透していく。

「お、お?」

「え……!?四本、全て!?」

「なんかすごいんですか?」

「……一般的に、一人が使役できるエレメンターは一つ。まれに二つ、ごくまれに三つ」

「ぼくは……四つ」

「超希少種よ!?あなた、バケモンよ」

「ははぁまあ生前はよく化け物って言われてましたよ」

そんな会話をしているうちに、光の全てがシュウに吸収された。

「さあ……来るわよ!覚悟して!」

「か、覚悟?」

シュウがそれを聞き返すよりも早く、シュウの口から四色の光が生まれ、それぞれの柱の上に四色の属性石が生まれる。

そして属性石の周りに人型が実体化していき――眩い光を放つ。

「うわぁ」



生まれたのは四人の少女。髪の色はそれぞれの光の持っていた色だ。

「じょ、女性の方が四人も……」

シュウのおバベルの塔が滾る炎のエレメント。

「彼女たちがあなたに仕えるエレメンターたちよ。早速自己紹介してもらおうかしら」

まず初めに口を開いたのは赤髪の少女。

「こいつが?アタシらの属聖?この岩みたいな顔の男がか?」

「い、岩……流石にそれは初めて言われましたな……それで、お名前は」

「《ファイ》。属性は炎。それ以外言う事は無いわ」

ファイと名乗った赤髪の少女はそうとだけ言うとすぐにそっぽを向いてしまった。

(気難しい娘ですわ)

シュウは心中でそうぼやいた。口に出すような度胸は勿論、ない。

「ファイちゃんは素直じゃないですからね~うふふ~」

次に喋ったのは青髪。のほほんとした雰囲気、間延びする口調。

「わたしは《ウォル》と申します~属性は水です~シュウ殿、以後よろしくです~」

「お願いしますわ」

「うふふ~そしてお次はこちらの、お目目がかわいらしい子~」

ウォルが指名したのは緑髪の少女……だが、なにか様子がおかしい……?

「わたくしは《クロン》……属性は風で……えっと、その……」

「ど、どうしたんですか?」

「……好きです!シュウ様!わたくしをこの世に呼んでくださった、言わば生みの親に、こうして愛を叫ぶのは背徳と感じていながらも、止められないのです!」

「……」

シュウ、絶句。クロンの鬼気迫る勢いにたじろぎ、身動きが取れない。

「あなた様のためならばわたくし、なんでも致します!さあ、さあ!なんなりと!そして愛を分かち合いましょう!」

「落ち着けクロン!落ち着け!そして早くどけ!尺が!私の分の尺が無くなるんだ!」

「あ~れ~」

迫るクロンを引き離したのは茶髪の少女。

「はあ、はあ……やっと私の番だ……ったく、こうやっていつも割り喰うのは土属性なんだよな……」

「あなたは?」

「ふう。私は《ソイリ》。さっきも言ったが、属性は土だ。まあ、よろしくな」

「ははあ、お願いしますな」

この人が一番まともそうだ。シュウのセンスがそう囁く。


「一通りの自己紹介は終わったわね」

四人のエレメンターを仕切るユア。

「ひとまずの顔合わせはお終い。後の事はまた都度都度教えるから」

「ははぁ」

「あなたたちは属性石で待機してなさい」

「フン。願う事なら一生待機してたいんだけどな」

毒を吐き、ファイの身体が霧散。後には属性石のみが残る。

「うふふ~それではまた~」

「嗚呼、シュウ様……シュウ様……シュ」

「早くしろっつってんだろが!!」

「よよよ……」

ウォル、クロン、ソイリも属性石に戻り、ユアの周りに浮く。



「さて、ここからは半分事務的な処理よ」

「事務的……ですか。ぼくそういうの苦手なんですよね、面倒で」

「四の五の言わないの!あなたはもう属聖なんだから、しっかりしなさい」

「ご、ごめんなさい」

やれやれ、と手を腰に当てるユア。

「じゃあまず、手を出しなさい」

「手、手ですか?」

「そう。両手ね」

シュウは言われるがまま、ユアの前に手を出す。

「よいしょと」

ユアはシュウの両手首に白い腕輪をはめる。

腕輪には円形のくぼみがある。

「これは?」

「属聖の必需品よ。あなた、利き手は?」

「左です」

「じゃあ、これ左にはめて」

ユアは首飾りに付いていた白色の丸い石を外し、シュウに差し出す。

「はあ」

相変わらずシュウは言われるがままに従う。

石はくぼみにぴったりとはまる。

そして、はまった瞬間。

「うわぁあ!?」

シュウの周囲に、半透明の白い鎧が浮かび上がる。

それらはしばらく浮いたのち、急にシュウに装着した。

「うわっ!……ってあれ?ぴったりだ?」

「当たり前でしょ。あなたのサイズを測ってたんだから」

「なるほど。そういう事だったんですな」

シュウは白鎧の姿に変身していた。

シュウは跳ねたり屈んだり、腕を伸ばしたり引いたりしてみる。動きに支障は全くない。ジャストフィットだ。

「それは属聖の鎧。属聖が戦う時に纏う戦装束よ」

「戦装束……って、た、戦うんですか!?」

「当然よ。防衛にしろ襲撃にしろ、属聖は戦いと切っても切れない縁なのだから」

「ぼ、ぼく争い事のたぐいは苦手で……」

「なら今から得意になればいいでしょ!」

「すごい超理論ですな、ははは」

浮いていた四つの属性石は鎧の腰部分に装着される。

「属性石を右の腕輪にはめることで、それぞれのエレメンターと属性を使役できるけど……いきなりは難しいかしらね」

「そうなんですか」

「ま、すぐに適応できるでしょ」

楽観的なユア。指をくるくるさせながら、何か思いついたらしい。

「そうだ。せっかくだし、その変身した姿に名前を付けよう!」

「名前ですか。別にシュウのままでいいんですけど」

「ダサいし」

「ええっ」

「それにこっちの世界っぽい名前を付けていた方が、不審がられないでしょ?」

「あー。それはそうですな」

「じゃあ任せといて!そうねえ……かっこいい感じの名前……」

指をくるくるさせ、脳を回転させるユア。シュウはそれをじっと見つめるだけ。

「決めた!《テヰル》にしましょう!」

「テヰル……いいんじゃないですか、かっこいい」

「よし!あなたのその姿、《属聖テヰル》!」

ご満悦なユア。だがその顔は、一瞬にして警戒の物に変わる。

「どうかしましたか?」

「後ろ」

「ん?」

振り返るシュウ。そこにいたのは、狼――

否。似てはいるが、狼ではない。体から発する禍々しき瘴気。赤く光る眼。邪悪な唸り声。

「!?こ、これは?!」

「《下級魔物ラケツ》。こんなところにいるとは予想外ね」

「に、逃げましょうよ!?」

「何言ってるの!あなたの力を試す絶好のチャンスじゃない!さあ、初陣よ属聖テヰル!」

「ははあ、ゲームで言うチュートリアルみたいなものですか……って!絶対無理ですよ!強そうだし怖いし!」

「行けるわよ!今のあなたは属聖の鎧を纏ってる!パワーもスピードもテクニックもついでにセンセーションもさっきまでの数倍になってるわ!」

「ほ、ほんとうですか!?」

「ほら来たわよ!」

「え?うわー!」

呻きながら飛び掛かるラケツ。シュウはそれを転がって回避。

(――!?ほんとだ、すごい動ける――!)

ユアの言葉は嘘ではなかった。シュウに自信が湧いてくる。

「いけますな!」

再び飛び掛かってくるラケツ。シュウは今度は避けない。

「ハイ!」

掛け声と共に拳を突き出す。命中。吹き飛ぶラケツ。

「おお!強いですわ!」

調子に乗るシュウ。倒れているラケツに追撃を与えようと接近するが――

「シュウ!危ない!」

「え?うわっ!」

不意討ちだ。二体目のラケツが闇の中から現れ、シュウを襲ったのだ!

「やめ、やめて!」

背後にのしかかられ、暴れられる。そうしてるうちに一体目も起き上がり、シュウを襲う。

「シュウ!しっかりして!テヰルの力ならそのくらい簡単に振り払えるから!」

「え?」

ユアの言葉を聞いたシュウは脚に力を入れ、跳んでみる。

「あ、ほんとうだ」

シュウのジャンプで吹き飛ぶラケツ二体。

「よし!今よ!必殺技を使うのよ!」

「必殺技?どうやって?」

「左の腕輪、見て!光ってるとこあるでしょ?それを押すの!」

「これ?これでいいんですか?」

腕輪には確かに発光部分がある。一番上のを押してみる。

「お、お、お!?」

両腕に力が漲るのを感じる。

「いっけえ!」

「お、お、て、《テヰルパンチ》!」

両腕同時に繰り出すパンチ。喰らったラケツは爆散し、塵となる。

「おお、強いですな」

「もう一体も必殺技でトドメよ!」

二つ目の発光部を押すシュウ。今度は脚に力が漲る。

「ハイ!」

掛け声と共に飛び上がるシュウ。降下しながら右脚で跳び蹴りを放つ。

「《テヰルキック》!」

ラケツは吹き飛び、爆散。

「これで、これでいいんですかな」

「ばっちりよ!じゃあ最後に、変身を解いてみましょう。石外して」

「はい」

腕輪から白色の石を外す。と同時に、テヰルの鎧も霧散し消える。

「うんうん、問題なしね」

「合格ですか?」

「ひとまずはね。でもまだほんのスタートラインでしかないわ」

指をくるくるさせさながら言い放つユア。

「これからエレメンターの扱いもマスターして、最強の属聖ヒーローになる道のね!」

「はあ、別にそこまでは望んでないんですけども」

「せっかくなら目指すは超絶ヒーローでしょ!さあ、行くわよシュウ!」

「行くって、どこにですか~!?」

「ここではないどこかよ!!」

ユアに引っ張られるがまま、シュウは往く。

彼が行きつく《どこか》とは――果たして。


【第二章へ続く】

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