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1.「やれやれ、と僕は思った」
大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、僕はほとんどパスタのことだけを考えて生きていた。
その間に二十歳の誕生日を迎えたが、その刻み目はとくに何の意味も持たなかった。
もし仮に今の僕がその時の僕に会ったなら、それを止めるだろうか。いや、おそらく止めないだろう。なぜなら、鍋の中でグツグツと煮立つトマト・ソースだけが、熱湯の中で踊るパスタだけが、その時の唯一の僕の希望であったからだ。若者にとっては、希望を求めることがすなわち生きることなのだ。
そんな風にして僕は、柔らかいベッドの上で、パスタを喉に詰まらせて死んだ。
やれやれ、と僕は思った。
次話掲載予定「君にはパスタとサンドウィッチを作って欲しい」