友達は少しでいい
いつまでも続くと思われていた、誰とも話さない生活は意外とあっけなく終わった。
僕はいつも通り1人で食堂で親子丼を食べていた。
ハフハフ。親子丼まじうま〜。トロトロ半熟卵と身のしまった鶏肉が、甘い醤油だしで飴色になった玉ねぎにとマッチして
「口の中が……」
「や! 上杉君だよね! 一緒に食べていいかい?」
「え?! ぅんいいよ!?」
久しぶりな上に予期されず投げかけられた言葉に、返答が裏返ってしまった。
ソロ生活も慣れすぎて、そろそろ他の生徒が風景のように感じられてきていた時期なので、心底びっくりしてしまった。
この背が高く、黒髪短髪の、凛々しい目をした、利発そうな青年に独り言きかれてたかもしれない……恥ずかしい……
「俺の名前わかる?」
残念ながら彼がおそらくクラスメイトなのだろうということしか、僕にはわからなかった。
「え!えっと……ごめん、わからないや。僕友達いなくて、全然名前覚えられてないんだよね! はは……」
渾身の自虐ギャグのつもりだったが、彼の爽やかな笑顔を気の毒そうな顔に変えてしまった。
「ごめんな。みんなプライドが高いのに落ちこぼれとか言われて、能力がどうとかそういうのにちょっと気が立ってるんだよ」
「いやいや!君が謝らなくてもいいよ。えっと……」
現にこの青年は、ぼっちの僕に話しかけてくれているのだから。正直めっちゃ嬉しい。いい人だー。
「城之内 忍だ。俺もちょっと話しかけづらいなとか思っちゃって、なかなか友達になれなかったんだ。ほんとごめんな。でもこれからは仲良くしてほしい! しのぶって呼んでくれよ」
「じゃあ僕のこともりくって呼んで。学年に少なくとも上杉はもう1人いるからね」
ご飯を食べながら話してみると、忍は話しやすい人だった。正義感が強くて、ひとりぼっちの人がいたら放っておけない、って感じが滲み出ていた。
忍は僕と同じギリギリEクラスの人間だそうだ。まぁ、ギリギリDじゃなくてEになってしまった、Eの中ではナンバーワンの方の、ギリギリなんだけどね。
「そうかー。双子の妹さんはAクラスなんだな。噂に違わずやっぱり凄いな! 仲はいいのか?」
「いや……昔は仲よかったんだけど、今じゃ全然なんだ。この学校に入るのも『りくと一緒なら入りたくない』って言われたし」
「そうなのか。唯一の女子でしかも超美人! って有名なのに、性格は結構きつめなのか?」
「いや、優しい……はず、だから。僕が何かムカつくことしちゃってるんだと思う」
妹の話をするときは、少し胸が痛い。
そのことを察したのか、忍は別の話を振ってくれた。
「そういえば、陸って前髪長いよなー。こっちから目がほとんど見えないし。ちゃんと前見えてるか?」
「見えてるよ。妹が……僕が妹に似てるのがやで前髪伸ばし始めたんだ。全然似てないのはわかってるんだけどさ、念のために。もうずっと前からこの前髪だから慣れちゃったよ」
本当は海に「似てるのがやだから伸ばせ」と言われたので伸ばしている。全然似てないのに、そこまで僕のことが嫌いなのか、と思うとまた胸が痛んだ。
しかし、これ以上妹のイメージを下げるようなことを人に言いたくなかったので、僕は嘘をついた。
「ふーん。そうなのか。わかった! みんなと話せないのはこの前髪のせいだ! 切れ切れ〜俺が切ってやる〜」
そんな冗談を言って、忍は僕の前髪をワシワシと、頭を撫でた。
忍は距離感が近いタイプかもしれない。でもそれに違和感はなくて、初めてできたこの学校の友達とのやり取りが、とても楽しく、嬉しかった。