一難去って……
やっと膨大な研究の種類と量に四苦八苦する時期も過ぎ、生徒会の仕事にも慣れた頃のこと。
僕と海に、会長から普段の生徒会活動とは別の召集がかかった。また蒔田先輩が捨てた会長のDVDの件かな? と思ったが、少し違うようだ。
珍しく真面目な顔の会長と、いつもより困った顔をした副会長が僕らを待っていた。
「今回呼んだのは、2人に関することで少し困ったことになったからなんだ。」
副会長は、世間話もそこそこにほんだいにはいった。
「今まで1年の生徒会は一番成績の良い生徒から選ばれてきたのはしってるよね?」
「はい」
「でも、Eクラスの陸くんを今年の生徒会に選んだことで、一年生の一部から批判が起こったんだ。まぁ、そこまでなら予想できてたんだけど、正式に生徒会に抗議文書を提出してきてね……。だから、生徒会としても無視できない状況になったんだ」
見せてもらった文章には、成績優秀でないものが生徒の代表になったことに対する批判と、一年の生徒会に選ばれたものは2年以降も生徒会に当選する傾向があり、生徒会に入りたい人にとって僕が選ばれるのは不平等である事などが書かれていた。
確かに、僕が生徒会に入った瞬間にその話題はすごい速さで知れ渡っていた。E組の3人と過ごす時以外は生徒会室が多かったので大丈夫だったが、まれに1人の時は知らない生徒に絡まれたりした覚えがある。
周りの視線も感じた。
「た、確かに……。皆さんが良くても他の生徒は僕が生徒会なんて納得できませんよね……」
最近は恵まれた環境にいたのでわからなかったが、自分がこの学校でどういう立場なのかを思い出した。入学当初のあの、さみしい気持ちが鮮明に蘇る。
「そう気を落とさないで。この抗議文には適当に説明するから。もとはと言えば無理やり入ってもらったんだし」
「そうだ」
顔だけで充分な存在感を放っていた会長だが、突然話し始めた。この人は黙っていればイケメンなのに。
「そんな紙に書いてあるのは建前。みんな学年最下位のお前が俺様と関わり会える事に対する嫉妬だから気にするな」
なんだか言い方が引っかかるが、本当の事なのだろう。確かに、この学校で生徒会長になるという事は、将来の官僚やら大企業の社長やらを約束されていると言っても過言ではない。そんな会長や生徒会メンバーと、なんの苦労もせず関わり会える僕にみな嫉妬しているのだろう。
「そ、こ、で、だ。陸、こいつらを自分の力で黙らせろ」
「え?」「……」
「ちょっと? 何言ってるの龍一?」
副会長が慌てるところを初めて見た。この意見は会長の独断のようだ。
「毎年選ばれるのは1年のトップ。つまり、海と陸合わせて一位なら問題ない。1年の学年2位と3位、海と陸の2対2で決闘をして勝てば、文句もでねぇだろ?」
「そんなの……」
無茶苦茶である。自分を治癒する能力しかない僕が、戦闘できるはずがない。つまり、海が学年2位と3位の2人を、1人で相手しなければならないという事。
さらに問題なのは、
「学年2位は、あいつ……竜崎 空牙……」
海は竜崎くんに対して、一度戦闘を行った事もありやはり思うところがあるようで、思いつめた顔をしている。
「僕は……僕は 、自分のために海を戦わせるなんて無理です……。足を引っ張ることが分かってる勝負を受けるくらいなら、僕は生徒会をやめます」
自分のために妹が戦う。いくら海が強いとはいえ、2対1では無傷で勝つのは無理だろう。
海が傷つくなら、僕は辞めるしかない。
「はー。つまり、逃げるって事だな? お前は生徒会に入らされたのも妹のせいだし、元はと言えば学校に入学させられたのすら妹のせい。お前は入りたくて入ったんじゃない、巻き込まれただけのかわいそうなか弱い少年っと……」
「……僕は、そんなんじゃ……。でも、海を危険には」
確かにここまで全て、僕の選択はない。この学校に入ったのも、生徒会に入ったのも、海の付き添い、海のついで……。でも、僕だって意地があるし、これは僕の人生で、自分なりに覚悟を決めてここに立っているのだ。
でも、そんな覚悟のために海が傷つくなら、僕は……。
「ま、待ってください会長。そんな重大な話じゃなかったじゃないですか? 僕達がちゃんと説明すれば」
桧山先輩や蒔田先輩も、思わぬ急な話の流れに焦っているようだ。
そんな中、海が口を開いた。
「わかった」
それは重い一言のはずだったが、海は存外簡単に言い放ってしまった。
どんな時も、僕の運命を決めるのは海の一言なのだ。
「勝てばいいだけでしょ。私が2対1になったからって負ける訳ないから。何も問題ない。陸は後ろで隠れてればいい」
僕はずっと海の涼しげな顔を見つめていた。会長も、楽しいイベントの話がまとまったかのように、笑みを浮かべている。
こうして、僕たち兄妹は決闘を行う事になった。