生徒会の日常
僕と海がいろいろあって生徒会に入ることになってから、今日が初めての仕事だ。
と言っても、仕事の説明をすると言われて生徒会室に来ただけなんだけど。
「やー! よく来たね! 待ってたよ」
「おう。きたか。こっちだ」
2年生の二人に生徒会準備室に案内される。
初めて生徒会室に入ったときは、とても綺麗で物が少なく、整理されている部屋だと思った。しかし、メンバーになって生徒会準備室に通されたとき、それは外面だけだったとわかった。
生徒会室はいわば応接室、本当の活動部屋はその奥に隠し部屋のようになっている準備室だったようだ。
その準備室には、みんなの趣味丸出しの私物だらけ。どこからか拾ってきた感じがするブラウン管テレビには、スーファミとゲームキューブが繋がれており、側には往年のカセットが積まれている。
壁にはダーツ版とボンジョビのポスター。あとはアイドル……? のポスターも。
かと思えば観葉植物が綺麗に並べられているスペースもあり、冷蔵庫の中には……。あれ? 未成年が飲んではいけない液体が……。
見なかったことにしよう……。きっと消毒用だよね……。
「……」「……」
先に来ていた海も、僕と同じで部屋を見渡しで言葉をなくしている。
「やっぱりびっくりしたよね……。僕も最初はびっくりしたよ〜 。でも生徒会メンバーになったからには、2人も私物を置いていいからね」
桧山先輩がニコッと笑いかけながら言った。寮の部屋すら厳しいのにいいのだろうか……
可愛い顔をしてまじめそうだが、桧山先輩もこの中に私物を置いているのか? どれなんだろう。
「会長が卑猥なポスターやら雑誌やらを隠すから、それを探して燃やすのも俺ら下級生の役目だ。」
蒔田先輩は相変わらず苦労をしてそう……
「……職権乱用……」
「はは、何も言い返せないよ……」
和やかな雰囲気の中でも、海は思ったことをズバッと口にするタイプなので結構ヒヤヒヤする。クラスでもこうやって敵を作ってるのかもしれない……。
「今日は、生徒会の仕事を2人に説明するために呼んだ。少し長くなるけど、ちゃんと聞いてくれよ」
「そうだね。生徒会の仕事を説明するためには、この学校ができてから数年、今から25年ほど前の昔話からしなくてはいけないんだけど……」
超能力が世の中に定着し始めた頃。政府は強い超能力を持った10代が入学する学校を作った。
コンセプトは「超能力をさらに伸ばし、選ばれし君たちの手で未来を創る」。就職先や進学先を保証されて勧誘が行われたので、多くの若者が入学を決めた。
しかし、実態は過酷な能力研究の毎日。学校というよりもそこは実験所で、学生はモルモットのように扱われ、命に関わる実験なども行われた。
「そこで、学生が研究対象としてではなく、普通の学生として高校生活を送るために作られた組織が、最初の生徒会なんだ。だから、僕たちは普通の高校の生徒会とは少し重みが違うんだ」
「へぇ……。そんなにすごい歴史があったんですね」
「ああ。で、俺たちの仕事は学生を被験者とした研究に無茶がないように、すべての研究の審査をして許可を出す仕事だ。」
「えっ!」「……研究全部、ですか?」
海もさすがに驚いたようだ。一学年200人。それが三学年なので全校生徒約600名。ほぼ毎日あるそれらの研究に全て目を通すのは容易ではないだろう。
「まぁ、新しい研究もあるけど殆どはいつもやってる研究だから。僕たち一二年生はもうやった事のある研究の申請書に生徒会の判子を押す仕事だよ」
とんでもないブラック組織に入ってしまったと後悔していると、桧山先輩が説明してくれた。そうか、確かにいつも行う研究は、いちいち検討する必要もないので判子を押すだけだろう。
「よかった。判子を押すだけなんですね。一個一個確認してたら暇な時間なんてないですよね」
「いつもやる研究なら別にチェックする必要もないんじゃないですか? 非効率的……」
海がまたヒヤヒヤすることを言っている。
「判子を押すだけと言ってもその研究に責任が生じるのだから、重要な仕事だぞ。やっと得られた学生の地位なんだから一枚一枚の申請書に責任を持たなくては、初代の生徒会メンバーに示しがつかない」
仕事を舐めてかかったつもりはないのだが、蒔田先輩はちょっと怖い顔をした。
「まぁ、まあ。3年生は新しい研究の検討をするからもっと大変なはずなんだけど、会長なんてすっごい適当だし」
会長が適当というのは本当らしい。さっきまで仕事の重要性を語っていた蒔田先輩が、足をすくわれたような顔をしている。
「あのバ会長は俺がどうにかする……」
「今は平和で楽しい学校だから。心配はしなくていいよ! 気軽に一緒に頑張ろう!」
桧山先輩は優しくて、みんなの仲をとりもつタイプで、蒔田先輩は真面目で仕事をキッチリ回すタイプみたいだ。
あの会長でしっかりと生徒会を運営できるのか少し疑問だったのだが、蒔田先輩がツッコミ以外にもたくさんの仕事をしているのだろう。
しかし、桧山先輩は可愛くて、しかも優しくてきくばりができるなんて、天使のような人だなぁ。
「……双子兄は桧山狙いなのか?」
「ぅえ?! な、なんのことです?」
「陸、心の声漏れてた……」
蒔田先輩はニヤニヤしてこっちを見てくるし、海にいたってはすごく不快そうなジト目で見下してくる。
桧山先輩はなんだか恥ずかしそうに困った顔をしていた。
「ね、狙いって……。僕、本当に優しいなって尊敬しただけです!!」
「まぁ男子校だし、この見た目もあって桧山を狙う奴は多いからなぁ……。確実に学校の男子で一番可愛いし。なぁ?」
蒔田先輩は桧山先輩をからかっているようだ。が、狙っている人が多いというのは本当だろう。噂によるとファンクラブっぽいものもあるみたいだし。さすが、男子校、能力至上主義、男尊女卑!
「そんなことないよ。可愛いっ言われても全然嬉しくないし……。それに、僕は陸くんのほうが可愛いし綺麗な顔だと思うけどな……」
「え?」
桧山先輩は謙遜の仕方を間違えてる。僕の方が可愛いなんて、そんなのは一万人にいきたら全員がNoと言うだろう。
「はぁ? まぁ、桧山が言うならそう、なのか? おいちょっと……」
蒔田先輩が席を立って僕の前髪に手を伸ばした時、バッ! っとすかさず海がその手を払った。
「陸が可愛いとかありえないです。マジ不細工なので……双子なのに似ないで残念な感じだから隠させてるんです……」
「え?そ、そうなか?」
手を払われた蒔田先輩はそのまま席に戻った。
基本的にあまり大きなモーションをとらない海が、初めてわかりやすい意思表示をした。さらにそれは僕をさげすむこと……。見事に微妙な空気になる。気を利かせた先輩たちが話題を変えてくれ、みな作業に戻った。
その間、僕はというと、その重い前髪の裏で涙を流していました。……まさか、そこまで妹に哀れまれているとは思わなかった……。
心に深い傷を負ったが、生徒会の先輩がいい人たちだということがわかった。海と一緒ということで、傷も増えそうな予感がするが、責任を持って生徒会を頑張ろう。