生徒会室
副会長と話す緊張から解放されるとお腹がなった。
そういえばまだご飯食べてない。急いで食べないと午後の授業に間に合わない。
「陸! 大丈夫!?」
「うわっ」
急ごうとした瞬間に伊織に抱きつかれた。
僕より小さな伊織だけど、僕も小さめだし、食べても食べてもなぜか質量が増えない僕には、結構なタックルだった。
「あんなに殴られて、大丈夫な訳ないよね! 僕はやっぱりバカだ! 一緒に保健室に行こう!!」
どうやら伊織はあの人だかりの中で一連の騒動を見ていたようだ。すごく心配してくる。
「いや、大丈夫だよ」
「え? ……本当に?」
「うん。傷もないし、きっと手加減してくれてたんだと思う。心配してくれてありがとう」
手加減はなかったのはわかっている。僕に傷がないのはあの不思議な力のせいだ。しかし、心配してくれている伊織を安心させるために、今その力のことを説明するべきではない。
僕の体をくまなく見渡して、触ったりして、やっと納得したらしい。
「そ、そうか……なら、別に……」
普段どこか冷めていて、ちょっとひねくれ者の伊織が、取り乱して僕のことをこんなに心配してくれているのは嬉しかった。
「じゃあ、僕は食堂に……」
「りーーくーーー!!!」「りくぼうーーー!」
再び食堂に向かおうとすると、忍と長老が走ってきた。
どうやら、副会長を呼んでくれたのはこの2人らしい。どんだけ生徒会室離れてんだよ、てかどんだけ副会長は足速いんだよ、と思ったが、そんなところまで呼びに行ってくれたのだから、2人には感謝しかない。
けれど、伊織の時と同じようなやり取りをさせられたおかげで、お昼を食べることはできなかった。
ああ、カレーライス……
空腹に耐える午後の授業が終わると、予告されていた通り生徒会室に呼び出された。
生徒会室は、普段僕たちが学ぶEクラスがある校舎ではない校舎の最上階にある。
Aクラスの教室や、寮の宿舎からは近いが、Eクラスからは遠かった。
しかも、白壁のヨーロッパみたいな建設様式で、自分たちとの落差を嫌でも感じた。
緊張しながら重たい生徒会室のドアを開けると、副会長とその他に知らない上級生が3人、そしてよく見知った人が1人、話をしながら待っていた。
「やあ、来たね。陸くん。それじゃ揃ったことだし、まずは自己紹介から始めようか」
副会長はそう言って、2年生二人に目配せした。
「初めまして。生徒会会計の蒔田 正志です。よろしく」
蒔田先輩は、背は平均より少し高いくらいで、坊主頭の凛々しい顔立ちをした、いかにも仕事ができそうな感じの人だった。着痩せて見えるが、制服の下には結構な筋肉が隠されていそうだ。
「はい、次は僕だね。初めまして。僕は桧山 道秀。書記をしてます。正志と僕は2年生だよ。よろしくね」
対して、桧山先輩は優しそうな感じの人だ。全体的に色素が薄くて、細身で、身長は伊織と同じくらいだ。小さな顔にパッチリとした優しそうな目が特徴的だ。
襟足が長めの髪をしていて、なんだか女の子みたいな見た目だ。端的に言うとすごくかわいい。
「で、僕は副会長の石田です。もう大丈夫だよね」
「はい! 先ほどは助けていただいて」
「ふふ。それで、そこに偉そうに座っている人が……」
バーン!!! と、社長が座っていそうな椅子に座っていた人が、くるりとこちらに椅子を回転させ、足を机の上に投げ出して、話し始めた。
「そう! 俺様がこの学校の生徒会長、天王寺 龍一だ!」
すっごいドヤ顔でこちらを見てくる人は、自己紹介のせいでなんだか残念な感じがするが、投げ出された長い足から見るに、とても背が高そうだし、その顔は彫刻みたいに彫りが深くて整っている。
黒い髪はパーマがかかっていて色っぽく顔にかかっているし、誰が見ても文句なしの、顔が濃いタイプのイケメンだ。
「はいはい、バ会長、上杉さんたちびっくりしてますよ」
「はは、俺様の美しい容姿に言葉も出ない、といったところか……」
「うっざ」
やり取りを見る限り、どうやらこの会長のツッコミ役は蒔田先輩らしい。
「……で、はやく本題に入ってくれますか? なぜ私たちを呼び出したのか」
そう、ここにいる招待客は僕だけじゃなかった。
よく見知った、一番近い存在、のはずだった人。
「まぁ、そんなに急かすなよ。子猫ちゃん」
僕の双子の妹、上杉 海だ。