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猫耳とツンデレ

「……ん、あれ?」

目が覚めて、真っ先に時計を見た。

……しまった、完全に遅刻だ。しかも今日は入学式。

この家には俺以外住んでいない……人間はね。

この家には精霊と呼ばれる生き物が住んでいる。

「御主人様!!おはようございます」

そこには、メイド服を着た猫耳の少女が立っていた。

美しい絹のような銀髪を長く伸ばした可愛らしい少女だ。この見た目で戦闘力は俺以上なのだから、ギャップが激しすぎる。

この猫耳精霊め!俺より先に起きているなら俺を起こせよっ!今日は大切な日だって言っただろうに。

まぁ、過ぎたことに怒る気も今はない。

「……おはよう、アリィ……………はぁ」

思わずため息をついてしまった。

「どうしたのですか、御主人様!!ため息などをついて、まさか体調が悪いのですか?」

俺のことを心配して上目遣いで言ってくる。

ここでお前が起こさないからだろっ!とか言った方がいいのか?などと考えるが、今はさっさと準備をして学園に行くことの方が先だという事に思い至った。

「今日から学園に行くんだよ。遅刻しそうだから、早く準備しなくちゃいけない」

そう伝えるとアリィは

「朝ごはんはどういたしましょう?」

もう作ってしまったのだろうか、もし作ってしまったのなら……食べていこう。

作ってしまったのに食べてあげないのは可哀想だからな。うん、可哀想だ。

「もう作ってあるのか?」

「はい!もちろんです」

着替えようと思うのだが、アリィが部屋から出ていかない。……この忙しい時に、またこの絡みか。

「アリィ、先にしたに行っててくれ。俺は着替えてから行くから」

アリィは目を伏せ、胸に手を当ててこう返す。

「御主人様、どうしても学園に行くのですか?勉強なら私が教えます。一緒に訓練だってします。ですから、学園に行かないでください」

全く同じ内容のことをこの春休み中ずっと繰り返している。こいつは極度の怖がりで、家に俺がいないと怖くてたまらないらしい。春休みのはじめの頃にアリィを助けてしまったことで、アリィはずっと俺にくっついている。はぁ、ほんとにどうすればいいんだ?

「なぁ、何回言ったら分かってくれるんだ?俺は学園に行くぞ。……あそこなら、アリィが知らない魔法の知識を得られる。だから、行かなきゃ...」

アリィにこの事を言うのも、何回目だろう。

「ですが、私は御主人様がいないと怖くて!」

知ってる。俺はこいつの心を開いてしまった。

こいつは俺と出会う前、人に怯えていた。

まぁ、色々あって懐かれてしまった訳だ。

それ以来こいつは俺の家に住み着いている訳だ。

「御主人様ぁ〜、行かないでくださいぃ〜!!」

パジャマ姿の俺に抱きついてくる。こいつの力はおかしいんだ。精霊は戦闘力が高い。それこそ、現代の兵器なんかより、遥かに強い。銃弾なんて普通に避けてしまうし、爆弾なんかを落としたとしてもアリィの防御は貫通できないだろう。それが今!!俺を抱きしめているんだ。見た目は物凄く可愛いから嬉しいことなのかもしれないけど、それは相手が人間の場合だ。

「痛いから!!アリィ!!痛い痛い!!」

そう、痛い。力が強すぎて、痛いんだ。

本人にその気は無いのだろうが。

俺の声にアリィは我に帰り、回していた手を離し、俺から少し距離をとった。

「頼む、着替えるから少し出ててくれ」

アリィは何も言わずに部屋を出ていった。尻尾がしゅんと下に降りていた。

ふぅ、これで少し落ち着ける。寝起きのだるさはさっきの一件で嘘かのように無くなっている。手早く着替えを済まし、ドアノブに手をかけようとしたところで……嫌な気がする。

アリィがなにかしようとしているからではない。俺は今日この家を出たら、何かに巻き込まれる気がするのだ。だが……………行かなくては。

俺は自分の目的を達成するために、学園に行かなくてはいけないんだ。

「……よし」

部屋を出た。こっそり階段を下り、静かに玄関に向かう。よし、足音はほとんど消したぞ。

ほぼ無音で靴を履き、家を出る。

アリィには気づかれなかったようだ。朝ごはんを用意してくれていたので悪い気がするが、後で全力で謝ろう。急がなくてはいけないから、少しズルをする。

魔力を脚にためる。学校の方角を向き、全力で斜め上に跳ぶ。魔力によって強化し、加速させた跳躍は住宅街を軽く飛び越え、学園の校庭が見えてくる。

空中で体の向きを整え、着地と同時に回転受身をとる。……無事に成功したけど、痛い。

まぁ、この姿は誰にも見られていないはず。

今は入学式の最中で、みんな学園内のホールにいるはずだからだ。だが……………見られた。

俺と同じで遅刻したやつがもう一人いたようだ。

制服に美しい金髪をツインテールにした少女。

雰囲気的に高貴でどこか貴族のような気がする。

だが、少女はこっちを見ると高貴な雰囲気が薄れてしまうほどに困った顔をした。ジト目でこちらを見ている。助けてほしそう?そんな感じだ。

思わず口から漏れてしまった。

「……何か、困っているのかな?」

少女は驚いた顔をすると

「べっ、別に困ってなんかないわよ!」

この反応。なんだ?こいつはツンデレか?

面倒くさそうな奴だな。こうゆう奴は

「そうか、じゃあな」

軽くスルーするのが一番だ。

すると少女はいきなり怒鳴ってきた。

「ちょっ、ちょっと待ちなさい!!何なのよその冷たい態度は!!」

はぁ、ツンデレには初めて会ったが、こんなに面倒なのか。正直、だるい。

「なんだよ、困ってないんだろ。俺に関わるなよ」

これくらい言えばどっかに行くだろ。何故だろう、この少女に関わってはいけない気がする。

だってほら、俺の後ろの方で殺気がする。

俺は小声で少女に言う。

「いいか、動くなよ。今殺気がした。もし襲ってくるなら、俺が倒すから...動くなよ」

俺の言葉を聞いた少女はニコッと笑うと、俺が言い終わる前に俺の後ろの方、殺気のする方へ喋りかけた。

いやいやいやいや、ちょっと待って何あいつ。

俺の言ってることわかってんの?

「さっさと出てきなさい!!私の命が欲しいんでしょう?なら、正々堂々と戦いなさい!!」

はっ?今何て言った?あいつ、命狙われてんのかよ。

すると、学園の校舎の物陰から、現れた。

男だ。背は俺よりも少し大きい。筋肉質でかなりの腕前だということが分かる。が、勝てないほどではないかな。少女は俺の方を向くと

「さぁ、戦いなさい!!そして、私を助けなさい!!」

どうして俺に振ってくる!?自分で招いた事だろ!!

何で俺に振ってくるんだよ!!

「どうしたのよ、私は今困っているわ。困っていれば、助けてくれるんでしょう?」

いや、確かに俺の言葉的にはそれは合っている。

俺が迷っている間に男は少女のすぐ近くまで迫っていた。見かけによらず早い奴だ。

俺は地を蹴り、男に向かって蹴りを放つ。

男は身を捻って蹴りを躱すと、俺に向かって拳を突き出す。蹴りを放った後で体勢を崩していたため、男の拳を食らってしまう。とっさに腕でガードをするが、……重い。重い一撃だ。体重をしっかりと乗せたいい一撃。男はバックステップで俺から距離をとる。

恐らくは暗殺者なのだろう。少女が一人で孤立している時に命を狙ってきたからだ。そこに俺が飛んできた。さらに、さっきの戦闘。暗殺者が何故接近したか。

確実に殺すためと、男が強化タイプだということだ。

男は魔力によって体を強化する強化タイプの人間。

あまり姿を晒したくないため、撤退を選んだ。

あえてここで深追いはしない方がいい。仲間がいた場合、囲まれてしまう可能性があるからだ。

男の気配が完全に消えてから、俺は少女に問う。

「おい、あいつは何なんだ?」

少女はこっちを見つめ、目を輝かせている。

何だろう、この少女と出会ってからの嫌な予感が大きくなっていく。少女が口を開く。

「あんた、私の眷属にならない?」

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